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熊谷組がSAP R/3をリプレース 第三者保守サービス活用で建築DXを目指す

日本の老舗建設企業である熊谷組は、建築DXの一環でSAP R/3をリプレースする。基幹システムの移行には多大な労力と時間が必要になるが、同社が選択したのは“第三者保守サービス”の活用だった。

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 老舗建設企業である熊谷組は、これまで使い続けてきたSAPのERPパッケージ「SAP R/3」を建設業界特化型のERPにリプレースするなど、建築DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みを進めているところだ。

 基幹システムの移行には多大な労力と時間が必要になる。システムの保守費用を抑えつつ、移行計画の時間を確保するため、同社が選択したのは日本リミニストリート(以下、リミニストリート)による“第三者保守サービス”だった。

 第三者保守サービスを活用してシステム移行への余力を生み出すことで、同社は建築DXに向けた周到な計画を用意できた。同社の経営戦略室DX推進部 部長の鴫原 巧氏がプロジェクトの全容を解説した。

本稿は、オンラインセミナー「Works Way 2022」(主催:ワークスアプリケーションズ)の講演内容を基に、編集部で再構成した。

ベンダーサポート費用が運用コストを圧迫

 熊谷組がERPパッケージを導入したのは1999年のことだった。経営革新中期計画の中心にERPを据え、SAP R/3を導入してコスト削減を図った。

 会計モジュールを主体に同パッケージを利用し、カンパニー部門や土木・建設部門の業務システムをETLツールで連携させ、全社的な基幹システムとしていた。しかし、徐々にベンダーの保守・運用コストが予算を圧迫するようになった。

 それが契機となってコスト削減を図ろうと、同社は2002年にユーザー数を700から500に削減し、2012年にはOSをUNIXからWindowsに移行した。しかし、サポートコストは導入当初の15%(全体運用コスト比)から17%へ、2012年には22%に増加した。

 SAP R/3のサポート終了が2025年に迫る(2020年に2027年までサポート延長を発表)こともあり、基幹システムを新たなシステムにマイグレーションすることにした。しかし、移行期間が必要な上、移行が完了するまでは現行システムの運用を続けなければならない。そこで同社は、周到な移行計画を用意することになった。

第三者保守で既存ERPを延命して移行期間を確保

 運用コスト圧迫の解決策として、「ベンダーのサポートに比べてサポート費用が半額になる」とうたう第三者保守サービスが選択肢に上がった。第三者保守サービスとは、いわばベンダー保守を第三者が肩代わりするサポートサービスだ。リミニストリートは最長15年にわたってサービスを提供する。

 リミニストリートとのやりとりを通して、以下の第三者保守サービスのメリットを確認できた。

  • 大幅なサポートコスト削減
  • 現行バージョンのアップグレードなしに長期サポート可能なこと
  • 標準機能以外のアドオンプログラムもサポート対象となること
  • 税制など法改正に関する更新情報の提供
  • システム継続性を担保できること
  • 専任サポートエンジニアが任命されること

 また、調査会社にリスク調査を依頼して洗い出されたリスクは以下になる。

  • サービス提供会社の撤退リスク
  • 将来的なサポート品質に関するリスク
  • サポート契約切り替え後にSAPの新バージョンにアップグレードする場合にSAP標準保守に戻さなくてはならないリスク

 同社は、得られるメリットに比較してリスクは少ないと判断し、第三者保守サービスの導入に踏み切り、2015年1月、リミニストリートによる単独保守に移行した。契約期間は3年で現在まで3回更新している。

建築DXの全容とリプレースのロードマップ

 当初は2021年に新基幹システムを稼働させる計画だったが、製品選定が遅れ、稼働時期は2024年に再設定された。スケジュールが遅延しても、第三者保守契約を延長することで製品選定とシステム開発に十分な時間をかけられた。

 以降では、建築DX実現に向けた同社の入念な製品選定と、リプレースのロードマップを明らかにする。

サービス選定ポイントと開発体制

 複数サービスが新たなシステムの候補に上がったが、最終的に基幹システムとしてチェプロの「建設WAO」を採用し、会計システムとしてワークスアプリケーションズの「HUE」を連携させる構成が選択された。当時はワークスアプリケーションズの準備が整っていないという事情があり、現在であれば、統合できる仕組みを選択したという。

 選択時には、2018年に経済産業省が「DXレポート」で指摘した「2025年の崖」を踏まえ、「基幹システム老朽化への対策」と「働き方改革への取り組みの加速(=DXの推進)」「IT推進大成の強化(=DX人材の育成・確保)」の3点を重視した。

 この考えを基に、システム開発のプロジェクトメンバーをユーザー部門から選任し、経営者のシステムへの理解や関心を高める体制を作り上げた(図1)。


図1 新基幹システム開発案件の推進体制(出典:熊谷組の鴫原氏の講演資料)

開発のロードマップ

 建設WAOとHUEを組み合わせる新基幹システムには、「働き方改革」や「少子高齢化対策」「人手不足対策」「技術継承課題」に伴う課題の解決と、「DX推進」や「コンプライアンス強化」「内部統制強化」という新たな要件への対応が求められた。

 多様な要件をクリアした上で「建設DX」を実現するため、同社は次の3つの開発ステップを計画した。ステップ1は「数値系業務の統一化」、ステップ2は「業務処理統一化」、ステップ3は「建設DXのAI構造化」になる(図2)。


図2 移行の各ステップ(出典:熊谷組の鴫原氏の講演資料)

 2025年の建設DXの実現に向けた最初のステップが、ERPの刷新となる。そこで同社が策定した基幹システムの過去と未来を表したロードマップが図3となる。既存ERPの第三者保守でシステム刷新準備の時間を確保し準備を整えているのが分かる。


図3 基幹システム刷新への3ステップ(出典:熊谷組の鴫原氏の講演資料)

建築DXを実現する新基幹システムとは

 ここからは、建設DXを実現するために熊谷組が導入する基幹システムと具体的な機能や特徴を見ていく。

基幹システム「建設WAO」の機能と特徴

 建設WAOは建設業に特化した統合型ERPだ。案件発生から工事完成までの業務プロセスで発生するデータが統合DBに蓄積され、一元管理できる。

 多彩な分析機能があり、経営層や管理部門、現場が工事の現状利益や発注、支払い状況を適時把握する「見える化」が期待できる。建設業界の研究によって開発されたサービスのため、工事履歴管理をはじめとする建設業界に特化した機能をそなえている。

 Webシステムでありながら、クライアント・サーバ型システムと同等の操作性とレスポンスが確保され、ターミナルサービスやIISサーバが不要で、ハードウェアやソフトウェアによる負荷分散も必要ない。ブラウザの種類やバージョンの影響を受けず、プリンタに依存しない印刷処理ができる。

 建設WAOが担うのはコーポレート部門以外の業務システムで、財務会計や管理会計などは別途、ワークスアプリケーションズのHUEを選択した。仕訳データを建設WAOに連携させて会計処理する。

会計システム「HUE」の機能と特徴

 HUEはアドオン開発を前提とせず、多くの業界業種の要望を標準機能に取り込んだパッケージだ。アドオン開発や改修が不要なため、アドオン部分のサポート切れの心配もなくなる。

 ライセンスはコーポレートライセンスなためユーザー数を制限がない。ライセンス制限がないため、データ登録時はデータ発生の現場で入力したり、本社で集中入力したりするといったことができる。

 また、HUEは財務会計と管理会計の数字が一致する「財管一致型システム」である。P/L、B/S以外に受注高・受注時粗利益や出来高、資金収支、安全、人事などの非会計項目を管理でき、仕訳データに事業や官民、業種、設計、発注、指名、リニューアルなどのセグメント区分を付加できるため、さまざまな角度で経営分析が可能だ。


図4 「建設WAO」と「HUE」、その他システムとの連携イメージ(出典:熊谷組の鴫原氏の講演資料)

 図4に見るように、HUEで固定資産管理した資産伝票や支払い伝票のデータは建設WAOに連携され、取引先への支払いは建設WAOで一括処理できる。一方、建設WAOで処理した全仕訳データや業績データはHUEの財務会計や管理会計に連携される。HUEで経営指標などの各種レポートを作成する仕組みだ。

 今後は、人事・給与システムとして利用している「COMPANY」、連結会計システムである「DivaSystem」などの外部システムとも連携して、HUEの財務・管理会計、連結管理機能を利用する計画だ。

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