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“望まぬ職場の誕生日会”でパニック発作 企業は不安障害にどう配慮すべき?

ある従業員の不安障害を無視したとして、企業側に45万ドルの賠償命令が下された。その企業にとって、教訓の代償は大きかった。

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HR Dive

 数週間前、雇用法に関するめずらしい記事が話題になった。

 2019年8月、上司が誕生日パーティーの開催を止めなかったとしてGravity Diagnosticsの従業員が告訴し、陪審員は45万ドルの賠償を命じた。訴状によると、原告はパーティーの5日前に自身が不安障害を患っていることを上司に伝え、誕生日パーティーが不安障害を誘発する恐れがあるため開催の中止を求めていたという。

 原告の上司はそれを伝え忘れ、パーティーは開催されることになり、結果的に原告は不安障害を発症してしまった。原告はイベントの最中は車の中で過ごし、自分の要求に応えなかったことを上司に詰め寄ったと述べる。

 パーティーの翌日、原告は2人のマネジャーに呼び出されてパーティーに対する反応について対立し、批判された。それがまたパニック発作の引き金になったという。原告はパーティー後から翌日までは自宅待機処分になった。そしてそれから数日後、会社はそのことを理由に、メールで彼に解雇を伝えた。彼は障害者差別と主張し、告訴した。

 略式裁判の申し立ての中で会社側は、原告は自分の症状を明かしておらず、不安障害を発症した際に顔を真っ赤にして目を閉じたり拳を握ったりする挙動が見られ、不安になったとしている。

 最終的に原告が勝訴し、Gravity Diagnosticsは45万ドルを支払うことで決着がついた。

従業員にとっては深刻な問題、でも軽視される不安障害

 筆者は米国に700万人いる総合不安障害者の一人であり、障害が仕事の支障になっている。10年前、24歳でフルタイムの事務職に就いたばかりの私は、個人的、経済的なストレスに対処しようとした結果、障害を患うに至った。

 不安障害を患ったことのない人にとっては不安は単なる概念的なものであると考えられがちで、軽症な精神疾患に見えるだろう。不安障害の本質は、心と体のフィードバックループにある。不安が心臓を高鳴らせ、顔を赤くし、体を汗で濡らす。何か悪いことが起こるという予感だけで、こうした激しい身体反応が生じる。

 筆者は、買い物や友人との外出中にパニック発作寸前の状態に陥ったことが何度もある。Gravity Diagnosticsの略式裁判の申し立てによると、原告は自分の誕生日に関連した過去の出来事から、誕生日パーティーが引き金になることが分かっていたという。

 パフォーマンス管理プラットフォームを提供する15FiveのDEI(注)担当シニアディレクターであるカラ・ペルティエ氏にとって、誕生日会の訴訟は心に響くものだった。

注:「Diversity」(多様性)、「Equity」(公平性)、「Inclusion」(包括性)の略称

 「私は仕事中にパニック発作を起こしたことがある。ある月曜日の朝、自宅で机に向かって仕事をしていたら、突然心臓発作のような感覚にとらわれた。脳が一箇所に集中し、体が全力で逃げていくような感じだった。Gravity Diagnosticsの従業員が会社でパニック発作を起こしたという話は想像を絶することだ。誕生日というイベントで注目の的になっている最中に、急にパニック発作が起きたらどうなるのか、想像もつかない」(ペルティエ氏)

 ペルティエ氏は不安のあまり会議中に席を外したことがあり、「Google」で調べたところ「頭蓋内圧迫」だったと打ち明けた。

障害に苦しむ従業員、それでも会社に開示できないつらさ

 従業員の健康を促進させる方法は幾つかある。まず、不安やうつ病などの精神疾患は、「障害であること」を理解する必要がある。米国障害者法は、精神疾患を「1つまたは複数の主要な生活活動を制限する身体的または精神的障害」と定義している。繰り返されるパニック発作や注意散漫な状態は、当事者の生活を制限する可能性がある。

 「米国障害者法が施行されてから30年以上になるが、企業、特に管理職はこの法律の意味を理解し、障害者をどのようにサポートするのがベストなのかを理解するには、まだ時間がかかる。多くの場合、その人が障害を抱えているかどうかは分からない。つまり、他人に言わない限りは、誰に障害があるのかを知る術はない」とペルティ氏は語る。

 従業員が自身の障害を第三者に開示するのをためらう理由は、キャリアに影響を与えるという懸念など、人によってさまざまだ。

 「米国では現在、約20%の人が精神疾患を患っており、その半数以上が治療を受けることができていない。もし助けを求めたらどう思われるか、就労能力が低いと思われないか、精神的に不安定だと思われないかと恐れている。一方で、雇用主はこれが一般的だと考えている」(ペルティ氏)

 従業員は障害を開示することをためらう必要はない。企業側は、従業員が障害を公表しても大丈夫だと思えるような環境を整えるべきだ。ペルティエ氏は、「私は補聴器を付け、ADHDと自閉症の二重診断を受けているが、障害者であることを公にしている」と明かした。

 また、管理者はメンタルヘルスへの関心を高めることによって、不安などの障害を恥ずべきものではないという認識を広めることができる。2021年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックなどが従業員に打撃を与えたため、多くの企業がこのような方針を採った。

 「企業がメンタルヘルスに関連するコミュニケーションをどのように扱うかによっても、大きな違いが生まれます。例えば、CEOが従業員に対して『5月はメンタルヘルス啓発月間です。あなた自身の心の健康を守り、サポートすることは会社にとって重要です』とメールを送ったとします。これが人事部や福利厚生チームからであれば、従業員はそのメッセージに見向きもしないでしょう。しかし、経営陣からであれば従業員の関心を引くことができます」(ペルティエ氏)

スターバックスやPwCが実践する従業員サポートプログラムとは

 企業の多くは、何らかの形でメンタルヘルス関連の福利厚生を提供しているだろう。従業員支援プログラムや、一定回数の無料カウンセリングなどが一般的だ。

 2021年11月に行われた調査では、メンタルヘルス関連の福利厚生制度の利用を拒否したと回答した従業員の4分の1が「利用方法が分からない」「秘密保持に不安がある」「費用がかかる」といった理由を挙げた。

 「3回までは無料」などの制限を設けても、ちっぽけな制度に思えてしまう。不安障害やうつ病に効果的なカウンセリングの一つである認知行動療法は、週1回のセッションを3〜5カ月ほど受け続けなければならない場合もある。

 近ごろは、従業員のメンタルヘルスをサポートするために、他の方法を試している企業もある。HRテック企業のPhenomは、従業員に対して最大1000ドルのメンタルヘルスの払い戻しサポートを提供している。セラピーの平均的な費用は100〜200ドルだが、この制度によって従業員は5回〜10回のセッションを受けられるようになる。従業員が自腹を切らずにメンタルサポートが受けられる。

 またある企業では、セッションをより長く受けられるようにしている。StarbucksはEAP(従業員支援プログラム)によって、従業員に最大20回のカウンセリングを無料で提供しており、PwCは12回のセッションを無料で受けられるようにし、メンタルヘルスのサポートにかかるコストの90%を会社が援助する方針を発表した。ペルティエ氏が勤める15Fiveでは、従業員とその家族がオンラインカウンセリングプラットフォーム「BetterHelp」を無制限で利用できるようにしたという。

 しかし、セラピーサービスと同じくらい重要なのは、柔軟なスケジュール管理だ。企業は、セラピーを受けるために週に1〜2時間程度の休暇が必要な場合、現場は柔軟なスケジュール管理が必要となる。多くの企業では、従業員が健康診断を受けたり、出産前の予約を取ったり、歯医者に行ったりすることを許可している。メンタルヘルスケアもこれと同様に考えるべきではないだろうか。

 従業員にメンタルヘルスの重要性を伝えるのは良いことだが、5月は「メンタルヘルス意識向上月間」だとペルティエ氏は強調する。この機会に、より充実したメンタルヘルス関連の福利厚生を検討し、できればCEOから、従業員が利用できる制度があることを伝えてもらいたい。

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