○○時間で突然死する「SSDタイマー」の恐怖:673rd Lap
HDDと比較して高速でデータの読み書きができ、省電力化も期待できることからPCのメインストレージは徐々にSSDに切り替わっていった。しかし「SSDタイマー」なる、ある“トラップ”が潜んでいると議論になっている。
PCのメインストレージはHDDからSSDに切り替わった。かつてSSDは、データの書き換えを繰り返すことで保存領域のNANDフラッシュメモリが劣化し、「寿命が短い」と言われたことがあった。確かにSSD黎明(れいめい)期である2005年前後に登場した製品は「突然死」を迎えることもあった。
それは昔のことと思われていたが、ここに来て「SSDの突然死問題」が再浮上した。かつて“某タイマー”が話題になったが、今話題になっている「SSDタイマー」とは?
近ごろのSSDの耐久性は高く、耐久テストによって1年以上データの書き換えを連続しても壊れないという実験結果が2015年に公開された。
最近のSSD製品には「TBW」(Total Bytes Written:最大総書き込みバイト数)という指標が示されている。これは、そのSSDに書き込めるデータの上限を示したものだ。例えば、容量1TBのSSDにTBWが「400TB」と表記されていたとする。これは1TBのSSDに容量の400倍、つまり400TBのデータを書き込めることを示している。もちろん400TBを超えると壊れるというものでもない。「TBWを超えれば壊れる可能性が高くなる」という意味として捉えるといいだろう。
先に触れた耐久実験では「1日10GBのデータ書き換えを行なったとしても7万日は使用可能」という結果が示された。7万日といえば約190年だ。つまり、最近のSSDは普通の使い方をしている限りは寿命を気にする必要はないということだ。
それなら安心だと思いきや、実はそうでもなかった。SSDの寿命について問題となっているのは「時間」だった。それが「4万時間」であるということがユーザーの間で話題になっている。
きっかけとなったのは、Tech系ニュースの共有サービスHacker Newsでのことだ。2022年7月初旬に、同サービスの1スレッドで「SSD will fail at 40k power-on hours」というニュースが共有された。ニュースソースは、2020年4月にCiscoが配布したSSDのファームウェアアップデートの公開ページだ。
Ciscoが配布したファームウェアは、一部のSSD製品について「SSDの累計使用時間が4万時間を超えるとSSDが使用不可能になる」という問題点を解決するものだ。しかもこの問題はCisco特有の問題ではなくSSDコントローラーの問題とされ、SSDコントローラーを採用した全てのSSDで起こり得る問題だという。同時期に幾つかのSSDベンダーが同じ問題点を修正したファームウェアを提供していることからも、「業界全体の問題」だということが分かる。
しかし、多くのユーザーはこの問題を把握していなかった。Hacker Newsが取り上げたことで問題の認知が広がり、当該スレッドでユーザーが「自分のSSDの駆動時間」を報告し合うようになった。
4万時間というと約4年半になる。2020年に販売されたSSDのコントローラーに問題が発生していたとして、本稿公開時点で3年弱が経過したことになる。もしこの問題を抱えているSSDならば、あと1年ほどで駆動不可状態に陥る可能性があるということだ。もちろん「ずっと駆動している」ことが条件となる。
SSDの駆動時間はストレージの自己診断規格「S.M.A.R.T.」で分かる。S.M.A.R.T.を参照できるツールは「CrystalDiscInfo」を筆頭に幾つかあり、それらを使えば現時点でのSSDの駆動時間が分かる。Hacker Newsのスレッドでは実際の駆動時間と合致しないなど、S.M.A.R.T.の問題点を指摘する声も上がっている。
しかし一方で、「4万時間問題が発生するのは企業向けのSSD製品であって、一般ユーザー向けの製品では当該問題が発生しない可能性が高い」という意見もある。また、「SSDベンダーによって品質保証期間が設定されていればそれは信用に値する。つまり4万時間問題も起こらないだろう」という意見もある。
こうした議論があることからも、今のところ4万時間問題の真偽については定かではない。しかし万が一ということもある。現在使っているSSDの駆動時間をチェックするとともに、ベンダーから新しいファームウェアが提供されていないかは随時確認しておいて方がいいだろう。
上司X: SSDの4万時間問題が急浮上して騒ぎになっている、という話だよ。
ブラックピット: 昔、話題になった某メーカーの某タイマーみたいなものですか?
上司X: おいおい、そういう問題発言はやめてくれ。このSSDの問題は、2020年辺りに一部で有名になっていたらしい。それは俺も知らなかったがな。
ブラックピット: Ciscoの他にもHPも同じようなファームウェアを提供してますね。SSD業界的には大きな問題だったのでしょう。
上司X: そこまで大きな話題にならなかったのは、一般ユーザー向けの製品じゃなかったからなんだろうな。企業向けSSDに搭載されていたコントローラーの問題ということらしいから、該当する人々は右往左往したのかもな。
ブラックピット: しかしこの話題が知られて、皆さん急に自分のSSDの駆動時間を調べるようになりましたね。
上司X: 俺もチェックしたよ。俺の使ってるデスクトップのSSDは、大体1万5000時間だってさ。まあまあ使ってるんだな。4万時間までにはまだまだ時間はあるし、一般ユーザー向けのSSDだし、大丈夫だろう。
ブラックピット: そうやってみんな安心しているんでしょうね……。僕は面倒なのでしません。でも確かに4万時間といえばぶっ続けで駆動しっぱなしだとしても1666日、4年半ですもんね。普通の人はそこまで使い倒すこともないですよ。タイマーは恐らく不発でしょうね。
上司X: そういうことだな。SSDは普通に使っている限りはそこまで壊れることを気にしなくていいってことは耐久テストでも明らかになったわけだし、ちょっとした話題程度に捉えておけばいいのかもな。といいつつ念のためファームウェアをチェックしちゃう小心者の俺なんだけど!
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.