サブスク時代に求められる「サブスクリプション管理ソリューション」の基礎解説
音楽の聞き放題サービスや書籍の読み放題サービスなど、一定期間利用できる権利を提供するサブスクリプションビジネスが広がっている。そのビジネスを支える「サブスクリプション管理ソリューション」について解説する。
サブスクリプションビジネスは「顧客が何を求めているか」を追求すること
サービス提供者と顧客がデジタルの世界でつながるようになり、「モノ売り」から「コト売り」へとビジネスモデルが変化しつつある。「Netflix」のような映像コンテンツ配信サービスは消費者に身近なものとなり、企業においては「Amazon Web Services」(AWS)などのインフラ基盤をサービスとして利用することが増えた。ビジネスにおいて、サブスクリプションモデルは定期収益を確保する手段として注目されている。ソフトウェアに関しても従来の買い取り形式から、月額課金型のSaaS(Software as a Service)のように月額利用料を支払って利用するケースが増えた。
こうしたサブスクリプションビジネスは単に販売形態を変えたものではなく、ビジネスモデルそのものを転換するものだ。そこに大きな価値がある。従来のようなプロダクト販売とは違い、本当に顧客が求めているものを見極めてサービスとして提供していかなければ継続したビジネスにはならない。これまで以上に、顧客が求める価値を継続的に高めるための環境が必要だ。
サブスクリプションビジネスは、デジタルと相性のいいソフトウェア領域だけに限った話ではない。例えば、車販売のプロダクト型ビジネスモデルを例に考えてみよう。「AからBへ移動したい」というニーズが顧客が求める最大の価値だと捉えると、移動手段としての車をメンテナンス込みで月額課金型で提供するサブスクリプションビジネスの形が見えてくる。
またロボット掃除機などを提供するメーカーであれば、「家をきれいにしておきたい」というニーズが顧客の求める最大の価値だ。それに応える形として最新のロボット掃除機がいつでも手軽に利用できるサブスクリプションビジネスがある。日本の基幹産業である製造業においても、サブスクリプションビジネスを取り入れる動きがある。
従来型のビジネスとサブスクリプションビジネスとの相違点
これまでのプロダクト販売モデルは、プロダクトを多くのチャネルに流通させることで顧客の下に届ける仕組みだ。売り上げを向上させるためには、販売店や代理店、ECサイトなど販売可能なチャネルをできるだけ増やし、顧客に提供する機会を増やすことが必要だ。そして、多くの販売チャネルを確保するには、多くの人に気に入ってもらえる“ヒット商品”を作り出すことが重要となる。
サブスクリプションモデルの場合、サービスを利用し続けてもらうことで売り上げをつくる。ヒット商品を生み出すことが優先ではない。顧客を中心にサービスやチャネル、そして体験価値を高めながらライフサイクル全体でサービスを成長させるアプローチが求められる。単にプロダクトの利用料だけでなく、利用時間やアクセスユーザー数、ストレージボリュームといった従量課金型のものから、バンドルサービスやオプション契約、ゲーム内でのアイテム購入といった課金形態も含め、あらゆるものがマネタイズの対象となる。この点が、単なるモノ売りの販売方法と異なる部分だ。
顧客ニーズの変化や機微を的確に捉えながら、その要求に応えるサービスや体制づくりを進めていくことがサブスクリプションモデルでは重要だ。
サブスクリプションビジネスを困難なものにする課題
サブスクリプションモデルを展開する場合、これまでのようにプロダクト販売を中心とした業務システムではなく、新たなビジネスモデルに適した業務基盤が必要になる。ただし、プロダクト販売を中心とした従来のビジネスが中心の企業では、すぐにその環境へ移行できるとは限らない。
多くの企業は、ERP(企業資源計画)などの基幹システムやCRM(顧客関係管理)をはじめとした顧客管理基盤を持ち、CRMで案件を管理し、商談履歴などを管理しながら受注に向けた営業活動を進めている。受注した段階でERPに受注登録をし、最終的な会計処理が行われる。
サブスクリプションモデルでは、CRMには顧客の契約管理はもちろん、利用状況から満足度を計測できる仕組みが必要だ。またERPでは、毎月の請求タイミングで契約を更新するプロセスが必要になり、一度受注した案件を複数回計上するロジックをシステムに組み込む必要がある。
もちろん、サブスクリプションビジネスに移行し始めのころは、営業担当者や経理担当者が年払いで受け取った請求を手作業で12回に分けてExcelなどに入力する流れになるだろう。しかし、案件数が増えてくると管理の属人化のリスクが高まるだけでなく、手作業での請求処理など非効率な処理が目立つようになる。そして、事業部は基幹システムを管理するIT部門に相談をし、課題解決に向けてサブスクリプションビジネスに適したシステムへの更改を検討することになる。
このシステム改修において、多くの企業が課題にぶつかる。例えば、当初は年払いのプランだけだったものが、「データベースの種類やアクセス数、ストレージサイズ、ユーザー数に応じた従量課金型のプランを提供していきたい」となった場合、その都度システムをカスタマイズする必要がある。その結果、硬直化した仕組みができ上がるわけだ。こうした企業が後を絶たない。これでは、環境変化に柔軟に対応できる環境づくりは難しい。事業部門側のビジネスチャンスを、IT部門側の制約で奪ってしまうことにもなりかねない。
つまり、現状のビジネスの延長上でサブスクリプションビジネスを検討しようとすると、システム的な制約を生む原因になる。こうした状況に陥らないためには、CRMとERPをうまく連携させ、サブスクリプションビジネスに必要な見積作成や顧客ごとの契約管理、施策によって変化する収益認識を会計処理につなげる収益管理が可能なシステム環境が求められる。これをカバーするのが、サブスクリプション管理ソリューションだ。
サブスクリプションビジネスに求められるシステム環境とは
サブスクリプションモデルに適した環境づくりが重要だが、具体的にはどんなポイントに留意した環境整備が必要なのだろうか。
サブスクリプションモデルでサービスを提供するには、契約条件に応じてサービス提供価格を柔軟に設定できるシステムが必要になる。商品マスターはもちろん、それぞれを組み合わせることで価格を柔軟に設定でき、パッケージで提示することが求められる。また、契約期間に応じて価格を上下できる柔軟性も求められるため、将来的な拡張性も視野に入れた仕組みが必要だ。
また、市場が拡大する中ですぐに価格を設定でき、サービスに反映させるシステムでなければ、ビジネスチャンスを逃す可能性もある。対応に数カ月もかかるシステムでは、サブスクリプションビジネスには対応できないだろう。できれば、ユーザーからの注文を即座に反映させ、その月の収益認識までを一気通貫でできるシステムが望ましい。例えば、サービスに課金し、それを会計処理につなげるオンラインゲームがイメージしやすいだろう。
ユーザーによっては1つのサービスだけでなく、複数のサービスを同時に契約、利用することも想定される。顧客体験を最適なものとするためにも、複数のサービスをうまく連携できるオーケストレーション機能も欠かせない。自社のサービスとともに、クレジット決済システムなど外部の仕組みとうまく連携させることが、顧客体験においては重要になる。APIを活用してサービス同士をうまく連携させながら、CRMやERPとシームレスにつなげていく仕組みづくりも考慮したい。
市場の変化に柔軟に対応するためには、年払いプランを新たに新設したり1カ月間のキャンペーンを打ったりなど、IT部門ではなく事業部門側で柔軟に対応できる仕組みも必要だ。ビジネスを拡大させるためにも俊敏な対応が必要な領域については、事業部門側で柔軟にコントロールできる仕組みが求められる。
サブスクリプション管理ソリューションが内包する機能を解説
サブスクリプション管理ソリューションを提供するZuoraのソリューションを例に見ていこう。
サブスクリプションプラットフォームである「Zuora Central Platform」を中核とし、サブスクリプション管理の中核となる「Zuora Billing」、クレジットカード決済など柔軟な連携を可能にする「Zuora Collect」、そして収益認識を行う会計ソリューションとのインタフェースを担う「Zuora Revenue」などから構成される。そして、「Salesforce」で見積作成を可能にする「Zuora CPQ(Configure、Pprice、Quote)」も用意されている。
Zuora Central Platformでは、ルールや自動化されたタスクに関連した周辺アプリケーションとのワークフロー機能をノーコード・ローコードで実装でき、イベント管理やテナント管理、監査証跡、セキュリティ、各種レポートなどプラットフォームとして必要な各種機能を提供する。
サブスクリプション管理機能
Zuora Billingが備える機能には、さまざまな料金体系を1つのモデルにまとめるプロダクトカタログをはじめ、新規契約から契約更新に至る各種見積を作成する機能や、顧客ごとに複数契約の親子関係を管理する顧客アカウント機能、請求データの作成やスケジューリングした請求業務を行う機能など、サブスクリプションビジネスに必要な多くの機能を実装している。Zuora Billingの中に全ての契約情報や商品マスター、顧客情報含めた請求のための各種情報を内包している。
また、年間得られる予定の収益を示すARR(Annual Recurring Revenue)や契約ユーザー数、製品別のサブスクリプション成長状況、新規、解約顧客数、サービス解約に至るチャーンレートなど、サブスクリプションビジネスにおけるKPIとなる各種メトリクスを自動的に表示、分析できる経営ダッシュボード機能も備えている。契約データから得られるインサイトを可視化するダッシュボードを確認しながら、次の打ち手を検討するといったことが可能になる。
債権回収機能
海外のユーザーも活用できるサブスクリプションビジネスを展開する場合、各国の通貨やクレジットカード、電子マネーなど各種決済機能に対応する必要がある。そのインタフェースとして機能するのがZuora Collectだ。支払方法や支払スケジュールなど顧客の要望に応じた決済管理が可能になるだけでなく、決済に失敗した顧客に対して最適なタイミングで再試行を、入金明細と請求データとの照合、支払明細書の発行、債権回収プロセス全体の統合的な管理が可能になる。
収益認識機能
どのタイミングでいくらの収益が確定するかといった収益認識を行い、自社の財務会計システムとの連携機能を提供するのが「Zuora Revenue」だ。年払いされた費用を12回に分割して月額計上するような単純なものは「Zuora Billing」だけでも可能だが、モノとサービスを混在させるなど複雑な収益認識が必要な場合に役立つ。Zuora Revenueで作成された勘定科目別の仕訳データを使って会計システムとの連携を行うことも可能だ。なお、収益認識の視点からの分析機能も備える。
サブスク管理ソリューションの選定ポイント
最後に、サブスクリプション管理ソリューションの選び方について、勘所を解説しよう。
顧客要望の変化へ追従するための柔軟性があるか
サブスクリプション管理ソリューションは、1つのSaaSとして提供されているものもあれば、SalesforceなどCRMソリューションの上で動作するもの、ERPにその機能の一部が内包されたもの、見積もりから請求業務を支援する販売管理システムの機能として提供されるものなど、さまざまな形態が存在する。
自社のシステム環境に適したものを選択したいところだが、サブスクリプションビジネスは顧客のニーズに合わせて変化し続ける必要があるため、変化に対して迅速に対応できることを想定した上で、ノーコード/ローコードで対応できることや既存環境とAPIで柔軟に連携させながら会計処理につなげ仕組みを重視して選択したい。
周辺システムとの連携については、用意されているAPIを活用してインテグレーションを進めることが必要になるため、拡張していけるソリューションであるかどうかを確認したい。商品企画部門や営業部門、経理部門など、部門横断的に利用するケースが多いため、ITリテラシーの差を吸収できる使いやすいソリューションを選択したい。特に、新たな収益モデルの検討から導入までを迅速進めるためにも、事業部門側で柔軟に設定、変更できることも重要なポイントだ
カスタマーサクセスを軸に将来像を描けるか
サブスクリプションビジネスは、顧客を中心にLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めることが重要であり、それに向けて長期的にビジネスを考えることが必要だ。ビジネスの立ち上げ期を経て、最適化、拡大、維持という大きなジャーニーを描く過程で、さまざまなノウハウが得られることだろう。
定期収益の確保を目指した将来的なビジョンを描くことが、無駄な投資を回避することにつながる。だからこそ、多くのサブスクリプションビジネスを支援するベンダーのノウハウを生かしたいところだ。ソリューションの機能ばかりにフォーカスするのではなく、長期的な視点に立ってノウハウを提供するベンダーを選択したい。特に自社のサブスクリプションビジネスを一緒になって支援してくれるカスタマーサクセス領域の支援にも目を向けたい。
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