2023年は「オフィス回帰」の年になるか? 知っておくべき職場のビジネストレンド
2023年に職場のリーダーシップやワークライフバランスの問題はどのような変化を見せるのか。今知っておくべきトレンドを専門家が語った。
筆者はジェイソン・ウォーカー氏とレイ・ラミレス氏は、マイノリティーが経営する人事アドバイザリー会社、Thrive HR Consultingの共同設立者です。本稿は執筆者の個人的見解です。
筆者は人事アドバイザリー会社で日々企業の人材に関する問題に向き合ってきた。その経験と日々の内省をもとに2022年を振り返り、2023年は人事や職場の視点でどのような年になるのかを考察した。従業員の幸福や懸念、そして優秀な人材を維持するために企業が取るべき方向性という観点から、最も注目すべきトピックは「リーダーシップの変遷」「ワークライフバランスの再考」「給与とキャリアアップの透明性」「脱グローバル化とAIの影響」の4つに分類できると考えている。
コロナ禍はテレワークによって各所に労働力が分散している。そうした状況で求められるマネジメントやリーダーシップはどのようなものなのだろうか。オフィス回帰とテレ―ワークのトレンドが振り子のように繰り返される中で、仕事とプライベートを両立させる問題はどのような様相を呈するのか。
あるいは、給与とキャリアアップの透明性にまつわる問題は解決に向かうのか。近年の脱グローバル化やAIによる労働力の代替は、職場にどのような影響を与えるのか。専門家が考察した。
2023年に知っておくべき職場のビジネストレンドと考察
リーダーシップの変遷
コンサルティングの中で、リーダーの育成の相談を受けることがある。2020年のコロナ禍を契機に時代は大きく変わり、もはや以前の習慣に戻る気配はない。テレワークによって各所に労働力が分散する中で、リーダーの育成はどのような意味を持つのだろうか。
筆者は、今後企業をコンサルティングする中で、さらなる進化が見られるのではないかと期待している。並行して、“パーカを着てかじ取りをするハイテク企業のCEO(最高経営責任者)”のような、個人的スキルに欠ける人物は消えるだろう。リーダーは、従業員の共感を得られること、質の高い経営を実現することが強く求められているのだ。
一方で、包括的なリーダーシップの育成を目指す傾向が強まっていると実感している。事業を成功させるためにリーダーはどうあるべきかという画一的なモデルはもはや存在しない。共感力と優れた人間力を備えたリーダーであれば、どのような人でも活躍できる場がある。
リーダーシップの役割が進化するにつれ、コロナ禍で生まれた欠員を現在のスタッフで埋めることが以前にもまして重要視されるだろう。リーダーは、外部からの雇用を減らして、組織の人材を把握する必要がある。さらに、空いているポジションを、その企業に精通した適任の従業員で埋めなければならない。これによって、その企業自身も成長できる。
ワークライフバランスの再考
2020年にはじまったパンデミックによる不確実性に対応するにあたって、企業には事業を継続するためにの柔軟性や回復力が問われた。勤務場所を1カ所に集中させないための取り組みが進んでいる。
その結果、プライベートと仕事の境界線がこれまで以上に曖昧になっている。今後もこの問題に取り組む企業は増え続けるだろう。多くの有識者が言うように、経済情勢が引き締まれば、従業員はオフィスに回帰するようになり、ワークライフバランスは問題にならなくなるかもしれない。しかし、状況が許せば従業員はすぐにリモートワークの選択肢を求めるようになるだろう。
リモートワークの必要性が叫ばれるようになると、「家庭と仕事の幸福をどのように実現するか」「その際に必要な精神力は何なのか」といった本質的な問いが噴出する。この種の問いは、リモートワークの可能性といった他の複雑な問題とからみあって重視されている。
これらのトピックに関する対話が過熱すると同時に、別の重い問題が顕在化してきている。親の介護にあたる従業員をどのようにサポートするかという問題だ。
高齢の親もそうだが、神経変性疾患を患う親を抱える従業員もいる。このような従業員が仕事と家庭のどちらかを選ばざるを得ない状況に陥らないようにするには、どのようなサポートが必要なのだろうか。従業員が親の老後や終末期に立ち会い、親のためにできる限りのことをしたと思えるようにするにはどうしたらよいのか。
給与とキャリアアップの透明性
筆者は、給与の透明性や、ドルの代わりに暗号通貨を使用することの可能性など、多様で複雑な給与に関するトピックが進展することを期待している。
従業員は自分の給与が公正に支払われているかどうかということだけでなく、キャリアアップする方法も知りたいと思っている。これらのトピックは、さまざまな職種でどのような様相を呈しているのだろうか。
2023年は、給与の透明性とキャリアアップのためのプランの明確化が期待されている。小規模な組織であってもこの傾向は変わらない。
脱グローバル化とAI影響
私たちは、陸から何百マイルも離れた沖で形成され、陸に向かって突き進んで行くようなトレンドを「完全な津波(complete tsunamis)」と呼んでいる。津波は一度にあらゆるところへ向かうために止めることはできないが、陸地に到達するとその跡を残す。
脱グローバル化もそうしたトレンドの一つだ。脱グローバル化は、2020年にサプライチェーンが揺らぎ、ドミノ倒しのように崩れたころに始まった。グローバル化は利点だけでなく欠点もある。私たちが日々目のあたりにしているように、複雑化したグローバルの輸送ルートに依存すると、企業の収益に壊滅的な打撃を与える。
拠点を米国本土に戻すことで、製品開発や組立ライン生産に関して企業が抱えるリスクは軽減される。しかし、特定産業ではレアアースが必須であるなどグローバルの輸送網に頼らざるを得ない分野もあり、全てを解決できるわけではない。
産業界でより多くの事業部門を米国に戻すことによって、新たな問題が発生する。企業が他国から借り受けた(雇い入れた)人材も移動させる必要が出てくるという問題だ。組み立てラインから研究開発、役員に至るまで、あらゆるレベルのポジションの熟練労働者を国内で登用する必要がある。
既に連邦政府レベルでは、ファブレスチップ製造の復活を促進するために政府が介入している。今後も、米国が外国政府への依存を減らして、外国政府が米国の利益に迎合する意思を持つための施策が打たれるだろう。
その他、ますます多くの産業がAI(人工知能)による労働力の代替という爆発的状況に陥ると見ている。これは、身も凍るような展開を見せるだろう。近年、AIアートの急増と著作権を巡る戦いが繰り広げられた。Webサイトのイラストや写真からbotがオリジナルの「アート」を生み出すプロセスを巡って、アーティストとグラフィックデザイナーが争ったことは記憶に新しい。
論争の結論はまだ確定していないが、AIの継続的な学習によって影響を受ける業界は、イラストやグラフィックデザインの分野だけではない。
2023年には、熟練労働者とAIとの間でより多くの戦いが勃発すると予想できる。AIは多くの業界を脅かしている。従業員が自分のキャリアを守るために何ができるかを注視する必要がある。AIの出現は避けられず、潮や風と同じ自然の力であることは間違いないが、賢く利用する方法もあるだろう。
予測はさておき、筆者は未来がもたらすものを心待ちにしている。進むべき方向は常に1つだけであり、それは暗闇の中にある。しかし、ディラン・トーマス氏がかつて言ったように、おとなしく諦めるのではなく、可能な限りどこにでも光をもたらし続けるつもりだ。
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