「静かな採用」とは? 「静かな退職」に続く新たなトレンドになるか
人事の新しいトレンド「静かな採用」とは何か。この言葉が出現した背景や、正しい「静かな採用」の方法を解説する。
「静かな採用」(quiet hiring)という言葉が話題になっている。既存の従業員を別の役割にシフトさせるという意味の言葉だ。既存の人材の活用は以前から多くの企業で行われていたが、「静かな退職」(quiet quitting)や「大辞職時代」(Great Resignation)といった流行語に続いて、なぜ今、この言葉が注目されているのだろうか。
なぜ注目されるのか?
「静かな採用」という言葉の出現の背景には、労働市場、特に高度なスキルを持つ労働者が不足しているという厳しい現状があるようだ。
Marqetaのドル・カーク氏(人材獲得担当バイスプレジデント)は「現在の経済環境では、単に外部の人材を雇用するのではなく、他の方法で人材獲得について検討を続けることが重要視されている。全体的な不透明感の中で、多くの企業がリソースの使い方や配置に気を配っている」と述べる。
従業員の再配置は、新しい従業員を雇用することなく、ビジネスニーズを満たすのに役立つ。「静かな採用」にはパートタイム労働者をフルタイム労働者に転換させたり、契約社員を雇ったりすることも含む。
カーク氏は「静かな採用」を社内異動と考えており、既存の従業員を新しい役割に移行させることによって、既存の人材プールを活用できると述べる。そのためには、従業員のキャリアアップを支えるスキルアップが必要になるケースもある。
契約社員は、短期的なニーズがあったり、特定のスキルや才能を持つ人材が不足していたりする場合に、その穴を埋める存在になり得る。パンデミック以降、多くの労働者が自営業を選択し、特にハイスキルの分野でその傾向が顕著になっている。MBO Partnersが2022年に実施した調査によると、独立した契約者の64%が自分の意思でフリーランスになったと答えた(注)。
テクノロジー領域では「静かな採用」という言葉が生まれる前からこの傾向があったと、BundleのCEO(最高経営責任者)兼創設者のケイラ・レボヴィッツ氏は述べる。
「長い間行われてきたことだが、今になって(言葉が)広まり始めた。『静かな採用』は莫大な投資をして従業員を受け入れることなく、前進する勢いを保ちながら、迅速に物事をテストすることができる」(レボヴィッツ氏)
従業員への説明が重要
会社が従業員を新しい職務に就かせることは単純ではない。特に、現在の職務から大きくステップアップする場合はなおさらだ。
「オープンなコミュニケーションと透明性が必要だ」とレボヴィッツ氏は言う。企業がなぜその従業員に新しい責任を負わせようとしているのか、特にそれが既存のスキルセットやコンフォートゾーンから外れている場合は、それを従業員に伝えることが重要だ。企業は適切なトレーニングとサポートを提供する必要がある。
同氏は、生活上の理由で仕事の大きな変化が理想的でない場合は、従業員の意見を聞くべきだと指摘する。そのような事柄が考慮されず、その従業員に合っていない、あるいはその従業員にとって適切な時期でない職務に配属されると、エンゲージメントやパフォーマンス、やる気の低下につながる可能性があるという。
「対話ではなく、物事を押し付けるようなことがあれば、士気や文化が損なわれる可能性がある」(レボヴィッツ氏)
契約社員との適切な向き合い方
独立した契約社員の雇用は、法的にも道徳的にも慎重に行う必要がある。契約社員と仕事をする場合、人事部は現地の労働法に沿っていることを確認し、契約社員を従業員のように扱わないようにすべきだと専門家は述べる。
また、従業員が契約社員を見下さないようにし、契約社員が既存の従業員を補完するさまざまな知識やスキルを持っているから招かれているということをしっかり伝えるべきだとレボヴィッツ氏は言う。
契約社員の「静かな採用」は契約社員と現在のチームがうまくいっているかどうかを確認し、将来的に社員のポジションが空いたときに、その契約社員が興味を持てば候補者にすることもできると同氏は付け加えた。
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