2023年度「IT導入補助金」先読みガイド 変更点と審査落ちを回避するポイント
2023年度「IT導入補助金」の公募要領の発表は、2023年3月末になると予想される。スムーズに申請へと移れるよう、各募集枠の概要と条件を押さえておきたい。IT導入補助金の基礎解説に加えて、2022年度との変更点、審査落ちを回避するために押さたいポイントを解説する。
「IT導入補助金」とは、ITツールの導入やサービス利用にかかる費用の一部を国が補助する、中小企業に向けた制度だ。制度開始から7年を迎え、IT導入補助金は多くの中小企業が活用し、業務効率化とデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の助けになった。2023年度の公募受付はこれからだが、本稿公開時点で公表された要項を基に、2023年度のポイントを解説する。
2022年度の「IT導入補助金」申請数と交付決定数の振り返り
2022年度(2023年2月7日まで)の申請数は、各枠合計でおよそ6万件に上るという。IT導入補助金公式サイト「IT導入補助金2022」で公表された2022年度の申請数と交付決定数の累計を基に決定率を算出すると、A類型、B類型は共に50%以上、デジタル化基盤導入枠は約83%、年度半ばで実施されたセキュリティ採択推進枠は97%以上だと考えられる。
申請数 | 交付決定数 | |
---|---|---|
通常枠A類型 | 23426 | 13621 |
通常枠B類型 | 669 | 338 |
デジタル化基盤導入枠 | 35518 | 29381 |
セキュリティ対策推進枠 | 180 | 175 |
出典:IT導入補助金公式サイト「IT導入補助金2022」の令和元年度申請件数及び交付決定件数のデータを基に算出したもの(「令和元年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業」の通常枠《A・B類型》の9次締切分、セキュリティ対策推進枠の5次締切分およびデジタル化基盤導入枠《デジタル化基盤導入類型》の17次締切分。2023年2月7日時点)。
補助金の交付対象となる企業、ならない企業
2022年度は、以下の条件に合致していれば補助対象となった。2023年度も変更はないと思われるが、大企業(下表に合致しない企業)との資本関係などによって対象とならない場合もあるため、注意が必要だ。
2022年度からの変更点と各枠の申請条件まとめ
2023年度は、同年10月から始まるインボイス制度への対応に使える補助制度が期待されている。本稿公開時点で公表された2023年度IT導入補助金の各枠の変更点と注意点を見ていこう。
2023年度の「通常枠(A類型・B類型)」「デジタル化基盤導入枠」「セキュリティ対策推進枠」の補助額および補助率について、本稿公開時点での公開情報をまとめたものが図1だ。図中の赤字が2023年度で変更される点だ。
図2 IT導入補助金の補助額と補助率、補助対象経費(赤字は2022年からの変更点)(出典:内田洋行のWebサイト「IT導入補助金2023年最新情報 インボイス制度への対応にはIT導入補助金を活用!」)
通常枠(A類型、B類型)
通常枠は金額に応じてA類型とB類型に分かれる。B類型では150以上450万円未満の補助金が交付されるが、対象となる業務工程や業務種別プロセス数が4以上でなければならない。A類型ではプロセス数は1以上でよく、5万円以上150万円未満の補助金が交付される(A類型、B類型ともに補助率は2分の1)。他の要件も、A類型よりもB類型の方が厳しく求められている。
通常枠A類型の補助額は2022年度は30万円が下限だったのが、2023年度では5万円に引き下げられる予定で、安価なIT製品やサービスの利用でも申請可能だ。また、通常枠A類型、B類型共に、クラウドサービスへの補助期間について2022年度は1年分だったのが、2023年度は最大2年度分になる。
デジタル化基盤導入枠
デジタル化基盤導入枠は、インボイス対応で使える2023年度の目玉となる枠だ。会計と受発注、決済、ECソフトに関して補助額の下限が撤廃される予定だ(2022年度は5万円が下限で、第19次締切回から下限額が撤廃された)。安価なツールの導入にも補助金の申請が可能になった。主に、小規模事業者のインボイス対応を促進させる狙いだ。
補助金交付を求めるITツール選定時の注意点
- IT導入支援事業者として登録されていないITベンダーのソフトウェアは申請不可
- 認定ITツールとして登録されていないソフトウェアは申請不可
- ハードウェアはデジタル化基盤導入類型の場合には申請できるが、その他の枠では不可(デジタル化基盤導入類型でもリースは不可)
デジタル化基盤導入枠では、ソフトウェアやクラウドサービスの補助率は、50万円以下であれば導入および利用料金の4分の3、50万円以上350万円未満であれば3分の2だ。ハードウェアの場合、補助率は購入費用の2分の1となる。
過去の申請結果を見ると交付決定率が高く、補助費用も高いことから申請が多いという。またPCやタブレット、POSレジなどのハードウェアも購入先がIT導入支援業者であれば補助金の対象となる。
注意点:デジタル化基盤導入枠で補助対象外となるケース
会計、受発注、決裁、ECソフト(クラウド含む)を対象とするデジタル化基盤導入枠はインボイス制度への対応やバックオフィスの効率化に最適な募集枠だ。ただし、会計や受発注業務を効率化する目的でRPA(Robotic Process Automation)やローコード/ノーコード開発ツールなど汎用(はんよう)ソフトウェアを単独で購入するケースでは、補助の対象外となる。あくまでも、対象領域のITツールの購入を伴うことが前提となる。会計や受発注システムなど、補助対象となるシステムとRPAをパッケージ化したソリューションであれば、申請が通る可能性はある。
セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は申請数は少ないが、過去の交付結果を見ると決定率が高いという。IPA(情報処理推進機構)の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」に登録されているセキュリティサービスの利用料金が補助対象となる。
登録されたサービスと汎用セキュリティ製品を組み合わせて購入する場合は、対象製品のみ補助対象となるため注意したい。
複数社連携IT導入枠
商店街振興組合や商工会議所、商工会、事業協同組合などの商工団体が対象となる。商店街で一斉にインボイス対応を図る場合などで利用できる枠だ。2022年度では、デジタル化基盤導入枠の要件に属する経費の他、消費動向分析経費および補助事業者が参画事業者をとりまとめるために要する事務費、外部専門家謝金、旅費に対して2分の3の補助率で補助金が交付された。2023年度は、今後公表される公募要領を参照したい。
審査での加点項目と減点項目
通常枠とデジタル化基盤導入枠およびセキュリティ対策推進枠は、申請落ちのリスクを考慮して、同時に申請が可能だ。だが、場合によっては審査で減点対象となることがある。例えばデジタル化基盤導入枠へ申請後に通常枠を申請した場合、通常枠が減点対象となる。
通常枠(A類型、B類型)の加点項目は次の通りだ。デジタル化基盤導入枠では、以下の(1)、(2)による加点はないが、その他項目は同様に加点がある。
通常枠(A類型、B類型)の加点項目
(1)クラウド製品を選定している
(2)インボイス制度対応製品を選定している
(3)地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認を取得している
(4)地域未来牽引企業に選定され、地域未来牽引企業としての目標を経済産業省に提出している
(5)「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を選定している
(6)「賃上げ要件」に対応している(B類型では必須項目)
賃上げ要件目標と要件(A類型、B類型)について
通常枠B類型では、以下の要件を全て満たす3年の事業計画を策定し、従業員に表明していることが必須要件だ。A類型およびデジタル化基盤導入枠では加点項目になる。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業および小規模事業者などが制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加すること)
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
出典:内田洋行の提供資料「IT導入補助金2022まるわかりセミナー_第5版」から抜粋して要約したもの
減点を避け、加点を増やすためにはIT導入支援事業者との間でよく打ち合わせておく必要があるだろう。
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