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インボイスの制度のつまずきポイントはどこ? 企業の実態調査から見えてきた課題改正電子帳簿保存法、インボイス制度への対応状況(2023)/後編

キーマンズネットでは「インボイス制度への対応に関するアンケート」(2023)と題した調査を実施した。2023年10月に制度開始が迫る中、対応における課題やつまずきポイントが見えてきた。

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 標準税率10%、軽減税率8%と複数税率を導入している日本において、2023年10月に開始する「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)は経理業務における不正やミスを減らし、消費税額の正確性を維持する役割が期待されている。

 全ての消費税の課税事業者が対象となる制度かつ開始まで4カ月と迫る中、企業の対応は順調だろうか。キーマンズネットでは「インボイス制度への対応に関するアンケート」(2023)と題して調査を実施(実施期間:2023年4月21日〜5月12日、回答件数:176件)した。本稿では、企業におけるインボイス制度への対応状況について調査結果を基に考察する。

施行迫るインボイス制度……制度内容の理解に課題あり

 はじめに、インボイス制度の内容の理解度について調査した。「理解している」(30.1%)と「少し理解している」(42.0%)は合わせて72.1%だった。インボイス制度は2023年10月に施行が迫っているため、認知度も高くなっていると考えられる。一方、「改正されたことは知っているが、内容は理解していない」(28.4%)、「聞いたこともなく、内容も理解していない」(6.3%)も併せて34.7%という数字になった。

 関連してインボイス制度の重要項目についても認知度を聞いた。その結果「商品、サービスの買い手は、仕入税額控除を受けるためにインボイス、簡易インボイスの発行、保存が必要である」(73.1%)や「適格請求書発行事業主になるための登録申請が必要である」(70.7%)といった項目の理解は進んでいた。

 一方、「免税事業者から仕入れをする場合は仕入税額控除を受けられない」(54.5%)や「免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、課税事業者になる必要がある」(57.5%)、「適格請求書は発行者も受領者も7年間保存しなくてはならない」(58.7%)といった内容については、認知が広がっていない様子も見て取れた(図1)。


図1 インボイス制度”重要項目”ごとの認知度

インボイス制度「対応済」のつまずきポイントは?

 インボイス制度への企業の対応状況は「既に対応済み」(25.0%)と「一部対応済み」(23.3%)を合わせて48.3%と半数にも満たない(図2)。「対応を予定中」(22.2%)を加えても70.5%にとどまった。

 背景には本制度への対応負荷や対応パターンの複雑さなどが挙げる。インボイスの発行や保存に関わる担当者の業務負荷はもちろん、既存システムの見直しや取引ルール、運用フローの見直しなど改修しなくてはならないポイントが多岐にわたる。インボイスの発行側、受領側の両面で対応方針やパターンを検討する必要があり、場合によっては意思決定に取引先との対話が発生する。

 対応済み企業に、対応における課題や困難についてフリーコメントで聞いたところ、以下のような項目が上がった。

  • 逐次変わっていく法的解釈を追いかけることが大変
  • 既存システム改修要件の整理、請求書を伴わない取引(賃貸借契約など)への対応
  • 紙と電子の請求書の混在
  • 取引会社との請求書のやりとりをする業務フローの変更
  • 総じてパニックになっている
  • 消費税計算のタイミングが、伝票単位 請求単位に取引内容に応じて決めいて行く必要があり、伝票単位(現金売上)の業務手続きから変更が必要になる
  • システム改修が必要なのは理解していたが、どのシステムでどのような改修を行うのか、確定させるまでかなりの時間を要した
  • 新しいシステムの運用体制・運用ルールが決まっていない
  • 一部で利用していたEXCEL請求書の廃止に伴う混乱などが発生した。
  • 下請け業者の対応状況が見えてこない

 対応状況について「分からない」とする企業が23.3%だったことからも、制度対応の要否についてまさに検討中という企業が少なくないと見られる。


図2 インボイス制度への対応状況

 一方「対応済み」(一部含む)や「対応予定」と回答した企業に、インボイスの受領や送付に伴う要件を満たすために実施した具体的な対応を聞いたところ「既存のシステムや仕組みで対応する」(56.5%)が最多だった。

 これは、「あらたにSaaSを導入」(12.1%)や「あらたにパッケージソフトウェア(オンプレミス)を導入」(9.7%)、「あらたに自社開発システム(オンプレミス)を導入」(9.7%)を足し合わせた”新規導入での対応”の31.5%を上回る結果となった(図3)。インボイスの受領や送付においては電子取引データを電子データのまま保存することを義務化した改正電帳法にのっとった対応が必要で、2022年1月に施行された同法への対応と合わせて環境構築を進めていたものとみられる。


図3 インボイス制度への対応方法

 実際、全体の36.4%が「インボイス制度を契機に電子請求書の割合を増やす」としており、インボイスを電子データで作成・保存・管理する環境を構築しておくことで、仕入税額控除が受けられることはもちろん、改正電帳法への対応及び全体を通して業務効率や生産性の向上を狙う施策として、包括的に取り組んだ企業が多いようだ。

インボイス発行事業者への登録状況は?

 企業でのインボイス対応における参考情報として、インボイス発行事業者への登録申請状況や取引先のインボイス対応状況への確認有無などを調査した。まず前者について、インボイス発行事業者に登録意向のある企業は「申請済み」(42.0%)と「申請予定」(11.4%)を合わせ53.4%と過半数にあたる(図4)。明確に「申請するつもりはない」(4.5%)とする割合は低く、「分からない」とした検討中の企業は42.0%だった。


図4 インボイス発行事業者の登録申請有無

 取引先のインボイス対応状況への確認について、買い手(発注者・請求書受領者)として商品やサービスの仕入先である売り手(受注者・請求書発行者)に対し、インボイス発行事業者の登録申請の有無を確認したかどうかを聞いたところ「確認済み」(18.2%)と「確認中」(20.5%)の約4割が確認を進めていた(図5)。


図5 売り手(受注者・請求書発行者)へのインボイス発行事業者登録申請状況の確認有無

 「確認予定」(10.2%)を含めると約半数が制度開始前に確認するようだが、対応が遅れることで買い手側が仕入税額控除できない可能性があるため要注意だ。取引企業など顧客との関係性にまで影響するだけに全事業者において早急な対応検討と体制構築が重要になるだろう。

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