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ローコ―ド開発ツール導入を成功させるための7つの掟とは? ガートナーが提言

ローコード開発ツールを「何でも開発できる」と勘違いして、適切な使い方ができていない企業が散見されるとガートナージャパンは指摘する。ローコード開発ツールの活用を成功させるための7つのベストプラクティスが共有された。

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 ガートナージャパンは、ローコード開発ツール(LCAP:Low Code ApplicationPlatform)を採用する際に実践すべきベストプラクティスを発表した。同社のシニア ディレクター アナリストの飯島公彦氏は、「ローコ―ド開発ツールの導入が進んでいる一方で、誤用や過剰使用、セキュリティリスクの増大、アプリ開発のスキル不足の拡大、アプリケーションの無秩序な増加をはじめとした、さまざまな問題点がある」と指摘した。

 今回の発表は、こうした課題を受けてローコード開発ツール(LCAP)をうまく導入するために企業が実践すべきベストプラクティスを提言したものだ。ローコード開発ツールを利用する上でどのような点に気を付けるべきなのだろうか。

ローコ―ド導入を成功させるための7つの掟とは?

(1)LCAPの利用戦略を策定する

 同社によれば、「ローコード開発ツールで何でも開発できる」と捉え、適用内容を明確に考えていないために実現したい内容にマッチしていないツールを選択するケースがある。

 ローコード開発ツールの活用時には、利用戦略を策定し、「どのように活用するか、どのような場合には使用すべきではないか」を明確にすることで、ミスマッチを避けられる。

(2)試験運用やPoCを実施して、LCAPを評価する

 ガートナージャパンによれば、多くの企業においてローコード開発ツールのコーディング以外の機能(テスト、デプロイ、統合など)をどの程度のスキルやレベルの人々が使用するのか、そしてその成果物をどのように共有、流通、管理するのか、さらに何をどのようにガバナンスするのかといった観点についての評価が十分ではない。そのため、開発機能は要件に合致していたものの、運用面で予想外の問題が発生し、その解決のために追加の作業や費用が必要となるケースが見受けられる。

 同社は試験運用や概念実証(PoC)の内容を慎重に検討し、確実に実施することが重要だとしている。試験運用やPOCを実施することで、LCAPが開発者のペルソナやユースケースに適合しているかどうかを確認すると同時に、ガバナンス機能や各種機能の有効性を判断することが可能となる。

(3)ローコ―ド開発支援チームを設置し、市民開発者をサポートする

 ローコード開発ツールは、アプリケーション開発の迅速化という期待を持って導入され、徐々に成果を出している。一方で、市民開発者がローコード開発ツールを使用する際は、ユーザビリティや技術的な制約などの障壁に直面している。これらの障壁は、市民開発者の意欲を削ぎ、ローコード開発ツールの利用や普及、定着を妨げる要因だとガートナージャパンは考える。

 ローコード開発支援チームを設置し、技術的なサポーを提供することで、市民開発者がローコード開発ツールの導入初期から成功体験を積めるようになる。これが市民開発者にとって使いやすいローコード開発ツールや開発、デリバリー環境の構築につながり、活用を促進する。

(4)適応型ガバナンスフレームワークを適用する

 ガートナージャパンによれば、多くの企業で「ガバナンスを全体に均一に適用する」という思考が無意識のうちに定着している。しかし、実際には適用対象や範囲、重要度、利用者、または複雑さに応じて適用ゾーンを分割し、それぞれに最適なガバナンスを策定することが求められる。

 個人やグループレベルで利用する簡易なアプリケーションは、市民開発の主要な適用ゾーンとして考えられる。一方、全社レベルで利用するアプリケーション、複雑なアーキテクチャやシステムの連携、高度な非機能要件の設計やテクノロジー知見が求められるアプリケーションは、IT部門が主導するゾーンとして設定する。これらの中間に位置するアプリケーションは、IT部門とユーザー部門が協働しながら開発を進めるゾーンとする。

 このようにIT部門とユーザー部門の役割分担やガバナンスの在り方を最適化し、可視化することが、同社の提唱する「適応型ガバナンスフレームワークの思考」だ。アプリケーションを適切なゾーンに配置し、一貫性を保つべき事項や守るべき事項を明確化することで、市民開発の意欲を削ぐことなく、適用の浸透や定着を妨げず、企業リスクも管理できる。

(5)アプリケーション開発の主体を適切に切り分ける

 企業は部門、全社レベルや基幹系などの重要で複雑なアプリケーションにも、LCAPを適用することで、開発のリソース不足を補うことができると考えられる。

 また、単純なアプリケーションや個々のユーザー、あるいはグループごとの細かな開発要件に基づくアプリケーションに関しては、個人やグループがアプリケーションの開発・保守のオーナーシップを担うことで、IT部門のリソースの圧迫を避けられる。

 さらに、はじめは個人レベルの簡易なアプリケーションだったものが、要件の追加や適用範囲の拡大に伴い、複雑で高度なアプリケーションへと進化する場合もある。そのようなケースでは、開発主体を個人からグループ、部門、最終的にはIT部門へと移管することが求められることもある。

 このように、アプリケーションのオーナーシップは、アプリケーションの性質やその変遷に応じて適切に設定されるべきだ。これによって適切なアプリケーション運用やライフサイクル管理が可能となり、IT部門のリソース配置やスキル向上の機会を拡大できる。

(6)コミュニティーを利用して、エンゲージメントを生み出し、スケール感のあるサポートを提供する

 市民開発者の活動範囲や規模が拡大するにつれ、開発案件の数や内容の多様性、開発者のスキルレベルの差異も拡がる。この状況で、IT部門単独で細やかでタイムリーなサポートを提供し続けることは困難だ。そこで、ガートナージャパンは、市民開発者間で日々の知見を共有することが重要だと指摘する。

 同社によれば、市民開発者自身が、ローコード開発のプラクティスを提供、共有し、相互扶助を行うコミュニティーを積極的に構築、拡大、運営することが求められる。これにより、ローコード開発ツールを利用しやすい環境や文化が醸成され、一層のエンゲージメントとスケール感あるサポートが提供できるようになる。

(7)スキルの育成や維持のために適切な時間を設ける

 ローコード開発ツールは、コーディングの工数をなくす、または低減するものだが、解決すべき業務上の問題を正確に把握し、適切な解決方法を見つけ、そのためのアプリケーションを設計、実装、テスト、リリース、改善するという、アプリケーション開発のライフサイクルが求められる。

 全ての必要なスキルを習得することは簡単なことではなく、個々の目指すゴール、スキルレベル、進行ペース、そして状況に対応して、緻密かつ継続的に取り組むことが必要だとガートナージャパンは考える。

 同社によれば、企業はローコード開発ツールのスキルの育成と維持を怠らず、拙速な取り組みは避け、十分な時間を投資すべきだ。その結果、開発の質と効率が向上し、サポートの層が厚くなり、その質も向上する。この結果、IT部門の負荷が軽減し、リソースやスキルの不足問題の解決が促進されるとしている。

 飯島氏は「企業は、包括的なローコード開発プラクティスを実装し、サポートしない限り、生産性の向上やリソース不足の緩和といったローコードテクノロジーのメリットを完全に享受することはできません。組織においてローコード開発ツールの採用を成功させるためには、利用戦略を策定し、社内に正しく伝えることが重要であり、こうした取り組みには、企業の経営陣や上層部の理解と支持が不可欠です。ローコード開発ツールによる成果が十分得られていない企業では、上述のプラクティスのどれか、場合によっては全てが欠けているか、適切に規定されていないとみています。アプリケーションやソフトウェアエンジニアリングのリーダーは、解決すべきビジネス課題や実現したいビジネス目標の達成に向け、ローコード開発ツールから最大限の成果を引き出せるよう、上述した7つのベストプラクティスを確実に実行すべきです」と述べる。

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