「Microsoft 365」活用がイマイチ盛り上がらない原因は? 3つのケースから考える対応策
Microsoft 365を導入してもOutlookやTeamsの利用にとどまり、SharePoint Onlineで作ったポータルサイトを眺める程度ではないだろうか。これでは既存のグループウェアと変わらない。
富士通の山口 仁氏の元には「多様な機能が含まれたライセンスを購入しても使いこなせていない」「導入したくても現行業務からの変更に抵抗を感じる」「新しい機能が追加されても、サポートが大変」など、「Microsoft 365」の導入前から導入後のプロセスでつまずくユーザーからの声が多数寄せられるという。
山口氏は「これまでのシステム導入の考え方はまずリリースすることが目的だったが、今後はユーザーの定着が目指すべき点となる。IT部門で『どうすれば従業員に使ってもらえるのか』を考えることがますます重要になる」と述べ、「導入前」「導入後」、そして「さらなる活用」の3つのケースに分けて、Microsoft 365の定着化と有効活用法の道しるべを示した。
利用の過疎化、偏った活用の回避策をケース別に考える
Microsoft 365のクラウドストレージというとまず思い浮かぶのが「Microsoft OneDrive for Business」(以下、OneDrive for Business)だろう。だが、「Microsoft Teams」(以下、Teams)や「Microsoft SharePoint Online」も同様にファイル共有機能を備える。使いこなす上で重要となるのが、こうした類似機能を混同しないためにも利用シーンを明確にすることだ。山口氏は「シーンに応じた使い分けをIT部門が提示することが必要だ」と語る。
Microsoft 365を導入したものの全面利用に至っていない「ケースA:本格導入前」、導入を終えたが使いこなせていない「ケースB:導入完了」、そして使いこなせてはいるがさらに使いこなしたいと考える「ケースC:さらなる活用」の3段階に分けて、山口氏は個別に問題点と解決策を提示した。
ケースA: Microsoft 365の本格導入前(導入前の計画、グランドデザイン)
山口氏によると、Microsoft 365の導入前に検討すべきポイントは20カ所あるという。
図1に示されている(1)〜(8)は企画、構想立案のフェーズ、(9)〜(17)はMicrosoft 365に含まれる機能やツール、そして(18)〜(20)は周辺を含めた検討事項だ。
山口氏は「多くの場合、単にマニュアルを配布するだけでは(Microsoft 365のツールを)なかなか使ってくれない。定着化を目指すには計画が必要だ。(機能や活用方法の)周知、共有や、早分かりガイド、活用マニュアル、FAQなどを提供することが定着化に欠かせない」とアドバイスする。
さらにMicrosoft 365はクラウドサービスのため、頻繁にアップデートが繰り返され、新機能も不定期にリリースされる。山口氏によれば、「Microsoft 365管理センター」に掲載されている更新情報は、2023年1〜3月までの3カ月間で400件を超えるという。ある日ボタンの配置やメニュー構成が変更されると、「Microsoft 365 Apps」を利用する従業員が戸惑うことも想定される。同氏は「従業員と管理者に影響が及ぶ更新情報を精査して、(従業員に)何を伝えて活用を推進するかを検討すべきだ」と主張する。
ケースB: Microsoft 365の導入完了後
Microsoft 365の導入完了後は、Microsoft 365管理センターで利用量と利用者数など自社の利用状況を確認し、Microsoft Teams管理センターで個別レポート情報の参照を推奨する。
山口氏は「顧客からよく『Microsoft 365が使われていない』との声を聞く。大事なのは、何を基準にして「使われている」「使われていない」かを判断することだ。また、従業員に対してMicrosoft 365の活用法を提示することも重要だ」と強調し、そのためにはユースケースの策定が必要だという。
ユースケースの策定方法は2つある。
1つ目は「システム課題解決型」だ。ワークスタイルやシステムにおける課題を従業員にヒアリングし、それらをMicrosoft 365でどう解決できるのかをイメージ図にして提示する。2つ目が「ペルソナ設定型」だ。従業員に1日の働き方をヒアリングして、その働き方がMicrosoft 365を導入することでどのように変化するかを提示する方法だ。
山口氏は「単なるツールの導入とマニュアルを提供するだけではなく、従業員の利用支援を盛り込んだユースケースの策定が非常に重要だ」と考え述べる。
だが、これらの施策全てをIT部門が実行するとなるとその分負荷が高まる。山口氏は「IT部門が全てを主導する必要はない。社内SNS『Microsoft Viva Engage』(旧Yammer)を使って、Microsoft 365の活用をディスカッションする場を提供するなど、ユーザー部門に任せるのも一つの手だ。その中で、新たな使い方が生み出されることもある」と進言する。
従業員のコミュニティーや問題解決の場を提供し、IT部門に要望を伝える「目安箱」を設置することで、IT部門の負担を軽減できるだろう。さらに、活用の中心的な存在となる「Microsoft 365アンバサダー」の任命や、ガバナンスおよびKPIを設定することもMicrosoft 365の定着化に有効だと山口氏は解説する。
ケースC: Microsoft 365のさらなる活用
ケースCでは、工程が共通する業務の自動化を提唱した。「Microsoft Excel」で作成したファイルをOneDrive for Businessなど任意の場所に保存すると、自動的に上長にメールで通知されるといったワークフローも「Microsoft Power Automate」によって作り込める。
だが、いくらノーコードツールとは言っても前提知識を持たない従業員がいきなりアプリを作成するのは難しい。IT部門がひな型を作成し、最初はファイル保存先と送信先を空欄にしたテンプレートを用意することで利用率は高まるだろう。
Microsoft 365運用で重要なのがアカウント管理だと山口氏は強調する。「IT部門は人事異動に応じた適切な運用管理が求められる。退職したユーザーアカウントの削除漏れから生じる情報漏えいリスクも念頭に置くべきだ。アカウント管理が適切でなければ、サービスの利用に影響を来し、ユーザーの生産性低下につながる。人事情報に則したアカウント管理が重要だ」と語った。
Microsoft 365は多彩な機能を備え、頻繁にアップデートされるため、情報を漏れなく収集することで常にアップデート状況を把握することは難しい。本ウェビナーでは語られなかったものの、自社に適したライセンスプランの見極めも重要となるだろう。山口氏が語ったように、IT部門が機能と全体を把握して社内展開と定着化に奮励すれば、業務効率化や活性化につながるはずだ。
本稿は、富士通主催のウェビナー「30分で分かる!Microsoft 365の活用術」の講演内容を編集部で再構成した。
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