大退職時代の裏で進む「大“在職”時代」? 従業員が今の職場にとどまるワケ
「大退職時代」に歯止めがかかっている。なぜ従業員は今の勤め先にとどまろうとするのだろうか。専門家の見解を紹介する。
コロナ禍で、在宅勤務やハイブリッド勤務などのこれまでとは異なる働き方を経験するのみならず、新しい仕事を見つけた人も多く存在する。その結果、大量退職を意味する「大退職時代」(The Great Resignation)といった言葉が一般的に使われるようになった。米国労働統計局によると2021年6月から2022年12月までの間、毎月400万人以上が仕事を辞めている(注1)。
しかし、現在は退職する人の数が減少している。同局によると2023年3月の退職率は2.5%で、前年の2.9%から低下した。 労働市場と従業員のパフォーマンス調査を行うADP Research Institute(ADP)によると、月間の求人数も減少している(注2)。2023年3月の求人件数は960万件であり、依然として高い水準にあるが、2022年3月の1200万件以上から約20%減少している。
何が従業員を職場にとどまらせるのか
なぜ今、大退職の流れが鈍化しているのだろうか。専門家は以下のような見解を示した。
人事評価サービスを提供するBlueboardのシリーン・エル・マイシー氏(人材担当ディレクター)は次のように述べる。
「多くの従業員が安定を求め始めている。この2年間で3つの仕事を経験した人たちと話す機会があったが、彼らはそのような転職の繰り返しをもう望んでいないという。彼らは『自分の居場所を探している』と言う」
ADPのチーフ・エコノミストであるネーラ・リチャードソン氏は「“大退職”として知られる現象は、豊富な求人機会、労働力不足、そして転職者に対する大幅な給与増加によって促進された。1年後、これらの3つの要因は弱まっており、大量退職自体が過去の出来事になるだろう」と述べた(注3)。
特にハイテク業界では、レイオフのリスクが従業員を現在の職場にとどまらせている。以前であれば、従業員は現在の雇用主の元ではない場所に成長の機会を求めていたかもしれない。「しかし、現在、従業員はそれらを社内で見つけようとしている。昨今の経済状況を考慮するとリスクの高い選択をするメリットはない」とエル・マイシー氏は述べた。
コロナ禍は従業員に大きな影響を与えたが、マネジャーがその全容を理解できていない可能性もある。「従業員が抱える全ての苦悩を雇用主は知るべきだという意味ではない」と断った上で、エル・マイシー氏は次のように述べた。
「雇用主は、従業員が今どのような状況に置かれているのかをくみ取る優しさを持つべきだ。過去数年間、多くの不確実性があり、私たちは安定と普通の生活を模索している」
従業員への“優しさ”を実現するのは、オープンで思いやりのある職場の文化かもしれない。ADPの調査によると、従業員の68%が自分の肉体的な健康についてオープンに話せると感じており、64%が心の健康についてもオープンに話せると回答している。また、上司からサポートされていると感じる従業員は全体の64%で、同僚からサポートされていると感じる従業員は全体の71%である。
転職による経済的利益の減少
大不況の時期、従業員はより魅力的な職場や給与の高い職を求めて転職した。
しかし、転職しても同じような経済的利益を得られるとは限らない。ADPが集めている給与に関する情報によると、転職した従業員の年間の給与増加率は、2022年6月にピークの16.4%に到達したが、2023年4月には13.2%に減少している(注4)。
こうした事実はあるものの、従業員の給与に対する期待が低いわけではない。ADPによると従業員は高い生活費に見合った給与を求めており、62%の人が「過去1年間に昇給した」と回答し、その増加率は平均で6.4%だった。44%の従業員は現職の給与が不十分だと考えており、83%は2023年に昇給を期待しているという調査結果もある。
一方で、エル・マイシー氏によると、報酬が全てというわけではなく、最近ではお金が従業員にとってそれほど重要な要素ではなくなっているとのことだ。
「お金は確かに経済的な安定をもたらすが、人々は自分自身と自分が取り組んでいる仕事に見合う形でお金を稼ぎたいと考えている」
その中には、職場やプロジェクト、同僚とのつながりを求める気持ちも含まれている。組織とのつながりを感じれば、人は喜んで現在の職場にとどまるのだ。
出典:The Big Stay: Why workers are opting to stay put rather than quit(HR Dive)
注1:Quits: Total Nonfarm(JTSQUR)(FRED Economic Data)
注2:MainStreet Macro: The Big Quit is over. Here comes the Big Stay(ADP Research Institute)
注3:MainStreet Macro: The Big Quit is over. Here comes the Big Stay(ADP Research Institute)
注4:ADPR Pay Insights(ADP Research Institute)
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