ノーコード/ローコード導入企業の4割が実施する"野良アプリ撲滅対策":ノーコード/ローコード開発ツールの利用状況(2023年)/前編
市民開発を促すとして近年話題のノーコード/ローコード開発ツール。期待を集める一方で、アプリケーションのブラックボックス化やそれに伴うセキュリティリスクなど、さまざまな問題も指摘されている。導入企業の取り組みを紹介しよう。
企業によるDX(デジタルトランスフォーメーショ)推進も背景にアプリケーション開発の迅速化が期待されるツールとして、近年ノーコード/ローコード開発ツールに注目が集まっている。ITRが2023年2月に発行した市場調査レポート「ITR Market View:ローコード/ノーコード開発市場2023」によると、2021年の売上金額は611.6億円と前年度比18.6%の成長だった。
著しい成長をみせるノーコード/ローコード開発ツール市場だが、導入後はアプリケーションの管理、運用や統制が課題になるようだ。導入企業はどのような対策を打っているのか。キーマンズネットでは前年に続き「ノーコード/ローコード開発ツールの利用状況」(実施期間:2023年7月4日〜25日、回答件数:260件)と題して調査を実施。前編となる本稿では企業での普及、導入状況や導入の目的、導入後の課題などを紹介する。
なお、本稿で取り扱うノーコード/ローコード開発ツールは、ドラッグ&ドロップなどのGUI操作によって、コーディング作業なしに(あるいはわずかなコーディング作業で)アプリケーションのUIデザインから開発、テスト、デプロイ、実行、管理などを実現するものを指す。
中堅・中小企業で導入率に変化
はじめにノーコード/ローコード開発ツールの普及状況についての実感値を聞いた。普及していると「とても感じる」(10.0%)と「やや感じる」(26.9%)を合わせ、36.9%が普及を実感していると回答した(図1)。
一方「あまり感じない(41.5%)」「全く感じない(13.8%)」の合計55.3%と過半数だった。2022年7月に実施した同調査では「普及いる」(45.4%)と「普及していない」(46.3%)が拮抗する結果だった。この1年で普及しているという実感が薄まったようだ。
では実際の導入率はどうか。
ノーコード/ローコード開発ツールを「導入している」とした回答者は、31.2%と2022年の前回調査と比較して3.6ポイント増加した(図2)。
2021年実施の前々回調査からは11.2ポイント増で、3年連続で導入率が増加している。「導入していないが、具体的な導入に向けて検討中」(8.5%)と「導入していないが興味はある」(27.3%)を合わせた35.8%が、導入に"前向き"であることから、今後も導入が進むと考えられる。
なお「導入済み」と「検討中」を合わせた割合を従業員規模別でみると、1001人以上の大企業では48.6%と約半数である半面、100人以下の企業では29.1%と大きな開きが見られ、導入率も規模の大きな企業ほど高い傾向にあった。一方、2022年からの1年間での伸びをみると、100人以下の企業の「導入済み」「検討中」の割合は20.4から29.1と8.7ポイント増加している。今後は規模問わずノーコード/ローコード開発ツールの導入が進むと考えられる。
導入後は「ブラックボックス」「属人化」に懸念あり
導入が進むノーコード/ローコード開発ツールだが、企業が期待するメリットは何か。調査では上位に「開発スピードの向上」(61.2%)、「アプリケーション開発コストの削減」(47.7%)、「開発の内製化の促進」(44.2%)が挙がった(図3)。
ノーコード/ローコード開発ツールで高度なプログラミング知識を持たない担当者でも活用できるため、事業部門が現場の知見を盛り込みながらシステム化を進められることが特徴だ。特に、基幹システムではカバーできないような「スキマ業務」のアプリケーション化については、これまで情報システム部門を通して、社内外の開発パートナーなどに依頼する必要があったが、現場主導の取り組みが進むことで、開発のスピード向上やアプリケーション開発のコスト削減、開発の内製化につながると期待できる。
一方、導入後には課題も生じるようだ。活用上の懸念については、「アプリケーションを管理できずブラックボックス化・属人化する」(48.1%)、「開発人材がいない」(41.9%)、「設定ミスなどでセキュリティのリスクが出てくる」(29.6%)、「使われないアプリケーションが増える」(29.2%)などが上位に挙がった(図4)。
前回調査との比較では「設定ミスなどでセキュリティのリスクが出てくる」が8位から3位に、「使われないアプリケーションが増える」が6位から4位に浮上した。2021年には、「Microsoft Power Apps」で開発されたアプリで個人情報含む約3800万件のデータレコードが漏えいした事故も発生しており、こうした事例によってセキュリティ意識が高まっているとも考えられる。
こうしたデメリットから、ノーコード/ローコード開発ツールを利用しないと判断した企業もあるようだ。「現在導入しておらず、今後も導入する予定はない」とした回答者にその理由を聞いたところ、「昔のEUC(End User Computing:エンドユーザーコンピューティング)のように無法地帯化する」といった声が寄せられた。組織管理下にない「野良アプリが生まれる」ことによるセキュリティリスクを不安視する回答者も多かった。
他にも「制約が多すぎて詳細な要件を実現するためには手作りの方が適している」や「(ノーコード/ローコード開発ツールは)ほとんどがサブスクリプション制で価格面では安くならない」といった機能、コストのメリットを感じないとする声が挙がった。
さらにツールを利用する以前に「ノーコード開発は業務プロセスの標準化とセットで進めないと、その先の顧客満足度につながらない」や「自分の担当業務を改善する意識がない人にとっては(使いこなすことが)難しいと思う」など、業務プロセスの見直しのフェーズに課題があるという意見も見られた。
導入企業の4割が実施する"野良アプリ撲滅対策"
ここまで、ノーコード/ローコード開発ツールは市民開発を促進するが故に、ブラックボックス化や属人化といった問題が生じることが分かった。導入企業ではどのような対応をしているのだろうか。
調査では、「開発されたアプリケーションの利用状況、リスク、品質のモニタリング」(40.8%)、「開発権限の割り当てと管理」(39.8%)、「開発ルールの策定」(33.0%)が上位を占めた(図5)。ノーコード/ローコード開発ツールを一部の業務効率化のためだけでなく、全社的なプロセス改善に役立てるためには、アプリケーションの開発・運用状況の可視化だけでなく、開発者を限定するための権限付与、第三者確認などのルール作成、管理体制の構築、リテラシー向上といった施策を"全社横断"で実施する必要がある。この点は、導入企業の運用状況として「後編」で詳しく調査結果を紹介したい。
ノーコード/ローコード開発ツールに期待すること
最後に、ノーコード/ローコード開発ツールに期待することについても聞いた。最も回答率が高かったのは「導入費用」(61.2%)で、これに直観的なUI/UXで非エンジニアでも開発しやすい」(42.7%)、「セキュリティ機能が充実している」(30.8%)「APIによる多システムとの連携性」(30.0%)、「画面テンプレートやサンプルアプリの数が多い」(30.0%)などが続いた(図6)。
後編では、開発作業者の「所属部門」や「コーディングスキルのレベル」「開発スキルの教育・習得方法」「統制・管理の実施状況」「開発しているアプリケーション」「今後連携させたい技術」などを紹介する。
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