クラウドERPにデータ移行するためのベストプラクティス12選
クラウドERPへのデータ移行は導入を成功させるための重要な要素だ。データマッピングや移行パラメーターの決定などにおけるベストプラクティスを紹介する。
クラウドERPの導入を成功させるためにはデータ移行が重要になる。プロジェクトリーダーは、早い段階でデータ移行の範囲を確定し、人員を確保したいところだろう。
本稿は、クラウドERPへのデータ移行を成功させるために不可欠な12のベストプラクティスを紹介する。
1. 移行するデータの決定
移行対象のデータを決定するため、まずERPの導入により影響を受けるアプリケーションを特定し、次にERPが置き換えるすべてのアプリケーションを特定する必要がある。複数のアプリケーションを置き換える場合は、それぞれのアプリケーションから新たなERPにデータを移行する可能性がある。
2. アップロードテンプレートの早期見直し
新たなERPにデータをアップロードするには、旧ERPから抽出したデータを、新たなERPのテンプレートに合わせて整えることになる。どれくらい手間がかかるのかを評価するため、早めにテンプレートを確認する必要がある。
3. データマッピングの複雑さを理解する
データマッピングプロセスの一環として、各システムのデータの型を考慮する必要がある。例えば、あるアプリケーションは顧客IDで英数字を利用できるのに対し、もう一方のアプリケーションでは数字しか利用できない可能性がある。このような場合、データのマッピングや移行のプロセスで、型の違いをどのように処理するか決めなければならない。
4. 移行パラメーターの決定
多くのプロジェクトリーダーは、新しいクラウドERPに一部のデータのみを移行する選択をする。その理由として、「データ量が多くなると移行に時間がかかる」「古いデータが今後の事業に関係ない可能性がある」「全てのデータを移行するとコストがかかる」などが挙げられる。
このような理由から、プロジェクトリーダーは特定の日付以降のデータのみを移行することになる。また、ベンダーからの継続した入力が終了しているデータを移行するかどうかなど、他のパラメーターを追加することもできる。
5. 新たに必要なデータの決定
データ移行の過程は、新しいERPに取り込むデータや、そのデータが新しいERPのデータロードにどのように影響を与えるのかを検討する良い機会でもある。
あるデータが移行前のシステムに存在せず新たなERPに必要な場合は、移行プロセス中に作成する必要がある。これは、データの属性や日付のフィールド、または新しいアプリケーションで必要な可能性がある。
6. 移行しないデータをどうするか
データの一部を移行すると決めた場合、移行前のERPに残っているデータをどうするかを決める必要がある。以下のような3つの選択肢がある。
移行前のERPにアクセスできる場合
古いERPにアクセスできる場合は、全員のアクセス権を読み取り専用するのがよい。新たな入力をブロックすることで、必要なときに古いデータを参照できる。ERPのベンダーによっては、読み取り専用モードのERPに対してアクセス用の割引料金を提供している。
データが必要ない場合
今後データが必要ない場合は、将来の参照用にデータをスプレッドシートにアーカイブするだけでもよい。古いERPに含まれるデータの量と複雑さを考慮することで、スプレッドシートを使用することができるどうかを判断できる。
データにアクセスする可能性がある場合
第3の選択肢は、データを保存する専用のデータベースをセットアップする方法だ。定期的ではないが、時々データにアクセスする必要がある場合に有効だ。
データベースをセットアップして、新しいERPに移行されなかった全てのデータを移行する必要があるので、それなりの工数がかかるプロジェクトになる。また、データ抽出を簡素化するためにアプリケーションやレポートを開発する可能性もある。
7. カットオーバーのスケジュールと二重入力の計画
旧ERPから新ERPへデータ移行を開始する日付を決定することは重要だ。データを抽出後も従業員は旧ERPでデータを入力して業務する可能性がある。その場合は、データ抽出後に古いERPシステムで入力したデータを新しいERPシステムに手動で入力する必要がある。
データの抽出や整理、新たなERPへのインポートには数日から数週間かかることがある。時間かかるほど、移行後の変更をすべて新システムに入力する二重入力が必要になる。
8. ERPに依存している内部プロセスの確認
カットオーバーのスケジュールでは、旧ERPのデータに依存している他のアプリケーションや内部プロセスへの影響を考慮する必要がある。例えば、財務チームは月末に旧ERPのデータにアクセスする可能性がある。このような場合、旧ERPを長時間利用できなくするのは難しくなる。
9. 手動でデータ入力する計画を立てる
移行を自動化するための時間と労力に対して、手動で移行した方が工数が低い場合もある。例えば、データの移行を自動化できないベンダーが5社ある場合、5社分の変換スクリプトを作成するよりも、データを新しいアプリケーションに手動入力したり、データを編集したりする方が手間がかからない可能性がある。
10. データに余計なものが混じっていないか、正確かを確認する
新しいERPにデータを移行するスケジュールには、移行するデータが正確であるかどうかを検証する時間入れたほうがよい。データのクリーンアップが必要な場合は、抽出の前にスケジュールを組んでおく必要がある。このプロセスに時間を割くことで、新しいERPのデータが初日から正確になる。
11. 詳細なカットオーバー計画の作成
カットオーバーのデータ移行に必要なステップを示す詳細な計画は、データ移行を成功するための重要な要素だ。
計画で全ての依存関係を考慮し、チームの全員がいつ自分の役割を果たすべきかを知ることができる。データ移行には、データの抽出や変換、新しいERPへのデータアップロード、手作業による入力、最終的なデータ検証など、多くの人が関与する。
12. テスト移行の実施
データ移行のスクリプトが正しく動作しているかどうかを確認する最善の方法は、テストデータの移行をすることだ。テスト移行でエラーが見つかった場合は、修正して再テストができる。本番移行が成功するという確信を得るために、複数回テスト移行を実施するのが一般的だ。
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