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松尾豊氏が提言する生成AI活用で日本が次のステップに進むための一手とは

AI開発で世界から周回遅れとなった日本だが、生成AI活用においてはスタートダッシュを切れたと東京大学の松尾氏は評価している。この流れを成果に結び付けるために必要な一手とは。

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 生成AIによって大変革があらゆる場面で始まっている。世界で、日本で起こっている変化をどう捉えるべきか。そして、日本企業がそれを生かし、新たなサービス・事業を創出していくにはどうすればいいか。日本政府のAI戦略会議の議長を務める東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センターの松尾 豊教授とエヌビディア合同会社の井崎武士氏(崎の字はたつさき)が対談した。


左からエヌビディア 伊崎武士氏、東京大学 松尾 豊氏

生成AI活用に乗り遅れないために、日本企業が必ずやるべきこと

 「最近はテレビや新聞などで生成AIという言葉を見ない日はない。『ChatGPT』にしても、画像生成AIにしても、ベースの技術は2017年のTransformerや2015年前後のDiffusionモデルなど以前からあったものだ。しかし、文章や画像を非常にうまく生成できることが誰の目から見ても明らかになったことでブームに火が点いた」と松尾氏は語る。

 生成AIの進歩は、Transformerを使った事前学習の貢献が大きい。テキストの場合は、自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)を基に、次のワードを予測するネクストワードプリティクション、ネクストトークンプリティクションという技術が使われている。人間が目や耳から情報を受け取って予測しながら判断するように、AIも予測技術によって精度が高まる。

 もう一つの技術的な動きとして、AIモデルが巨大化したことも挙げられる。従来の機械学習ではパラメータは適当な数にすべきという考え方があったが、今は巨大化すればするほど精度が上がるという現象が認められている。

 一方、井崎氏は、生成AI活用の場も広がっていると指摘する。

 「ChatGPTの月間利用者は、リリース後わずか2カ月で1億人に達した。2023年6月のOpenAIのWebサイトの訪問数は19億回だ。そのうち4%は日本で、アメリカ、インドに次いで3番目に多い数字となっている。ChatGPTによる世界のGDPの押し上げ効果は7兆ドルと試算される。最新版であるGPT-4ベースでは医師国家試験で約8割の正答率を出すなど、ChatGPTの精度の高さが見て取れた。さらに、画像生成系AIのStable Diffusionを使えば、絵の苦手な私でもリアリスティックな作品が簡単に作れる」(井崎氏)


ChatGPT登場のインパクト(出典:井崎氏の投影資料)

 井崎氏は海外のさまざまな生成AIの事例を紹介した。顔のスワッピングをする「Insight Face」や電話会議の文字起こしを元に文書を生成する「Briefly」、ChatGPTを活用したメールアシスタント「Ghostwrite」、入力文章に応じた静止画やGIFを抽出する「Super Meme」などだ。アドビの「Adobe Firefly」は人が着ている服を赤いジャケットに変更するといった指示を出せば、その人の姿勢に合わせたジャケットの画像を生成する。「DragGAN」は、画像の中で動かしたいポイントを指示すると、AIが自然にモチーフを移動させるというもの。画像内の犬の顔にドラッグポイントを設定して、その箇所をドラッグで動かせる。


画像生成AIの事例(出典:井崎氏の投影資料)

生成AIが社会や人間の在り方を変える

 生成AI、特に大規模言語モデル(以下、LLM)による今後の変化を考えると、言葉を使った仕事の効率化・自動化の進展が予測される。松尾氏は「労働人口が減り続ける日本にとって、生成AIは救世主となる」と指摘する。

 生成AI技術は今後も進化し続けると考えられる。松尾氏は進化の方向性の一つとして大規模データの活用を挙げた。その場合、組織の規模や資本力、さらにデータの質を高めるアプローチが求められる。少ないパラメータ数でファインチューニングの質を高めるという方向性もある。

 「おそらくどこかの段階で、LLMの限界が見えてくる。限界が見えた時点でブレークスルーが起こる可能性がある。今後5年や10年、20年で大きな変化が起こるだろう。産業社会も変わり、人間の在り方や考え方も変わる面白い時代だ」(松尾氏)

 その変化の中で、日本企業は生成AIを利益につなげられるのだろうか。松尾氏は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」がカギになると強調する。AIで業務プロセスを変える、あるいは付加価値創出することで企業の利益につながる可能性があるという。

 「既存産業に生成AIを活用して革新を起こすには、自社の事業が持つ価値やこれまで培ってきた技術のつながりをベースにしなければならない。医療や金融、製造など巨大産業に成果に結び付けることが、今後の課題となる」(松尾氏)

 日本ではプロンプトエンジニアリングが注目されているが、生成AI自体の開発にも取り組む必要があると松尾氏は考える。生成AIのポテンシャルを考えて、LLMを独自開発する、活用する、サービスに組み込むというアプローチが求められる。

 「生成AI開発においては、日本には計算資源が足りないという課題があるという。これは松尾氏が議長を務めるAI戦略会議のテーマでもあり、政府も力を入れる領域だ。とはいえ、現状では計算資源が桁レベルで足りないため、拡充を急がなければ戦う土俵に上がれない」(井崎氏)

変動に乗り遅れないよう、次のステップへ

 生成AIのブームの中で、多くの日本企業がこの地殻変動に乗り遅れまいと奮闘している。日本政府も今までにないスピード感でさまざまな施策に取り組んでいるという。

 「日本企業の生成AI活用のスタートダッシュは、“花マル”を付けてもいいくらいだと思っている。2007年に『iPhone』が登場してパラダイムシフトが起きた際は、アメリカの4〜5年後に日本にもやっとブームがきた。すでにプラットフォームやビジネスプレイヤーも確立していて、日本企業が太刀打ちするのは難しい状況だったことを覚えている。しかし今回は、日本と世界の盛り上がりがほぼシンクロしている。ここからまた離されてしまうと海外勢に負けてしまう。ぜひ次のステップに進んでほしい」(松尾氏)

 日本企業が次のステップに進むために必要なこととして、松尾氏が挙げたのは次の3つの施策だ。一つは、生成AIを各企業の従業員がトライしやすい状況を整えること。現状は、情報セキュリティの懸念から、企業はChatGPTの業務での使用を避ける傾向がある。生成AI利用をどう進めるべきか、国や業界団体がベストプラクティスの共有を進め、ガイドラインや指針などを積極的に打ち出すことが求められる。

 ChatGPTで企業内の情報を検索できるようにするなど、日常業務で生成AIを活用できる仕組みをつくること、さらに自社の業務に踏み込みつつ、LLMを使ったアプリを開発して業務効率化や付加価値創出につなげることも重要だ。これら3つの施策に取り組むことは、生成AIの活用トレンドにキャッチアップして、DXにつなげるために必須の条件だと松尾氏は話す。

 「スタートダッシュの勢いを生かして、施策に次々と取り組むことが大切だ。生成AIでは、『あんな使い方もできる、こんな使い方もできる』と創意工夫を凝らすことができる。それは日本人の得意分野だと考えている」(松尾氏)

本記事は、NVIDIAが2023年7月28日に開催したオンラインイベント『NVIDIA 生成AI Day 2023 Summer 始まった大変革、日本企業がとるべき一手』の内容を編集部で再構成した。

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