手組みの大容量NASに、2年間無充電で使えるエコPC、自作レシピを大公開:722nd Lap
インターネットを見ていると、時々、トンデモない発明をする猛者に遭遇することがある。今回は、そんなトンデモ発明をした2人を紹介しよう。
今回の金曜Black★ピットは夏休みの特別版。これまで紹介した数々のウワサや、信じ難い裏話の中から、特に人気の2つのエピソードを紹介する。テーマは「ストレージとPC」だ。
1つ目は、保存データがたまりにたまってクラウドストレージを利用していたけれども、「毎月の支払いがキツい……」と感じた大学生がわずか数千円で大容量NASを自作しちゃった話。しかも、NASの筐体もお手製で、電源ユニットなど必要なものはほぼ全て自分で調達したという。大容量NASの“自作レシピ”を紹介する。
次は、あるソフトウェアエンジニアが、一度充電すれば2年間はほぼ無充電で利用できるPCを開発した話だ。ある工夫によって、超低消費電力なPCができたというが、一体どうやって?
格安で大容量NASを“ほぼ丸ごと”DIYした大学生のスゴ技
PCやスマホを使っていると、いずれ「ストレージ問題」に直面する。スマホで写真や動画をじゃんじゃん撮っていると、内蔵ストレージに収まりきらなくなることがある。そこで頼りになるのがクラウドストレージだが、無償プランでは使える容量に限りがあり、データが増え続けるとやがては有償プランを検討せざるを得なくなる。毎月一定額を支払うのはキツい……と思う人も多いことだろう。
「ならば、自作すればいい」と考えて、格安NAS(Network Attached Storage)を爆誕させた大学生が現れた。その猛者は、香港の大学生トビー・チュイ(Toby Chui)氏だ。同氏はもともと、Googleが大学生向けに提供していた無償のストレージサービスを利用していた。だが、2021年にストレージ容量に上限が設けられたためチュイ氏は有償サービスの利用を検討したが、料金を考えるとためらいがあった。「ならば、自分でストレージを作ればいいんだ」と、チュイ氏自身でNASを作り上げた。かかったコストはわずか60ドル。現在の日本円にして約8000円だ。
同氏がテック系DIYサイトのInstructablesにオリジナルNASの制作過程を公開してたことで大きな話題を呼んだ。
記事によると、チュイ氏は「フットプリントが小さくて、デバイス内部を最大限利用する」「低コストの部品を使って最高のパフォーマンスを引き出す」「互換性が高く、入手しやすい部品を使う」「単一メーカーへの依存を最小限に抑える」「最低でも下り/上りともに100Mbpsの通信速度を実現し、1080pの動画を再生可能にする」を目標に掲げて開発に取り組んだ。自身で部品を選定し、筐体も3Dプリンタで自作した。
チュイ氏がNASの心臓部に選択したのは「Orange Pi Zero」だ。オープンソースのシングルボードコンピュータで、サイズも超小型だ。チュイ氏はそれに合わせて筐体を設計した。その他、SATAからUSB 2.0への変換アダプターや電源ユニット、PCBWay製のプリント基板なども用意した。
筐体の3Dプリントには、Creality3Dの「Ender 3」を使った。高機能ではないものの、手軽に使える製品として人気が高い。ただ、プリントのスピードは決して速いとはいえず、チュイ氏が求めるクオリティーのパーツを作るのに約2日もかかったという。
Orange Pi ZeroにはベースOSとして「Armbian」をインストールした。さらに、NASの制御にはチュイ氏が自作したという「ArozOS」を採用した。ArozOSは「Chrome」「Firefox」「Safari」などの主要Webブラウザで動作するOSで、NASの制御用に改造されたという。
電子部品とHDDを筐体に組み込み、システムをセットアップしてHDDをマウントすれば自作NASの完成だ。これで、自由に使える大容量のストレージが手に入る。ほんの8000円程度でNASが手に入ると思えば、さぞコスパも抜群だろう。
チュイ氏は製作過程を細かく解説し、部品の型番はもちろん、3Dプリンタ用のデータや電子回路図など、パーツの全てを公開している。もちろん、OSの設定も詳しく解説している。やる気があれば、誰でも低価格なNASを作成することが可能ということだ。腕に覚えがある人は、挑戦してみてはどうだろうか。
最長2年も? 充電難民を救うかもしれない超絶エコな手組みPC
ノートPCを持ち運びながら仕事をしていると、「充電なんて面倒くさい」「とにかく長時間動くPCはないものか」と思う時もあるだろう。なんと、その願いをかなえるかもしれない超省エネルギーなPCが、ノルウェーのソフトウェア開発者アンドレアス・エリクセン氏によって開発された。1回の充電で最長2年間は利用可能だという。そのPCの名は「PotatoP」だ。電子工作に関するコミュニティーサイト「Hackster.io」の2023年3月7日の記事でPotatoPが紹介されたことで大きな話題となった。
PotatoPはSparkFun Electronicsのミニマザーボード「RedBoard Artemis ATP」を使ったコンピュータで、CPUにはArmの「Cortex-M4F」を搭載。最大96MHzで動作する。インタフェースはBluetooth 5.0 Low Energyを、ストレージにはmicroSDを使っている。OSは、マイクロコントローラー向けプログラミング言語「uLisp」でEriksen氏がプログラムした「PotatOS」を搭載する。
ディスプレイにはシャープの4.4インチモノクロディスプレイ「LS044Q7DH01」を採用した。LS044Q7DH01はいわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるもので、市販の液晶ディスプレイに採用されている液晶パネルとは異なる。バックライトもなく、電力消費量が非常に小さいのが特徴だ。
電力周りは、主電源として12000mAhのリチウムイオンバッテリーを搭載した。サブ電源にPowerFilmの「LL200-2.4-75」を搭載したことで、太陽光パネルからの給電を可能にする。エリクセン氏は、PotatoPを一般的なラップトップPCと同等に使えるように開発を進めてきた。目標の消費電力は5mWだ。一般的なノートPCの消費電力が20〜30Wであることを考えれば、超低消費電力だといえる。
当初の仕様では、文字を入力して画面に表示することすらできなかったそうだ。エリクセン氏は改良に改良を重ねて、日光による発電で最大で約83日の連続駆動(理論値)を可能にした。しかし、それでは満足しなかったエリクセン氏は、消費電力の大きいmicroSDを超低電力タイプの製品に変更したことで、PotatoPの待機時消費電力を2.64mWまで下げることに成功した。
エリクセン氏によれば、PotatoPは1回充電すれば2年間は充電をしなくても使えるという。もちろん太陽光パネルによる給電も勘定に入れた話だが、まさに電源ケーブルから開放されたデバイスだといえるだろう。
なおエリクセン氏は、最終的にはPotatoPの待機電力をゼロにし、太陽光のみで動作するコンピュータの開発を目指しているという。可能であるなら、われわれの普段使いに耐えられるスペックのPCを無充電で使えるようにしてほしいものだ。
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