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RPA導入企業が注目するPower Automate for desktop、効果を最大化するポイントは

Microsoftが提供する業務プロセス自動化ツール「Power Automate for desktop」。既に他社のRPAを導入している企業が、さらにPADを利用するケースも多いという。その理由とPADの効果を最大化するポイントを紹介する。

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 2017年ごろに一大ブームを巻き起こしたRPA(Robotic Process Automation)は、現在普及期を迎えた。RPAに先行投資した企業の中には、現場による部門単位の業務の自動化からはじめて、CoE(Center of Excellence)の設置などを経て全社に取り組みを拡大することに成功している組織も存在する。あるいは導入当初からCoEが主体となって基幹業務などを中心に成果を出し、部門単位でも内製化を進めるハイブリッド型で効果を上げているケースもある。

 特に大企業においては、上記の2つのパターンがRPA推進の戦略として主流だった。いずれも、複数人のタスクをまたぐような部門単位や全社規模の業務をRPA化の対象として効果を出すという考え方がある。そして今、RPA推進の次の段階として「個人単位の業務」をRPA化する流れがあるという。こうした情勢の中、注目を集めているのが、「Power Automate for desktop」だ。

 「Power Automate for desktop」(以下、PAD) は、Microsoftが提供する業務プロセス自動化ツールで、デスクトップ操作を自動化する。Windows 10および11ユーザーであれば無償で利用を開始できることから注目を集めている。新規でRPAを導入する企業だけでなく、既にRPAを導入している企業が導入したいと希望する例も多いという。

 その理由を掘り下げるとともに、PADを利用して自動化効果を最大化するポイント、さらに導入の注意点などを専門家が解説した。

RPAは全社スケール後にEUCにシフトする傾向、一体なぜ?

 「RPAの自動化対象業務は全社規模から個人規模に移行しています」と話すのは、小野田 聖子氏(パーソルテンプスタッフ Creative事業部 RPA営業推進課 マネージャー RPAアソシエイツ事業責任者)だ。同氏は、2018年にRPA人材の育成派遣サービス「RPAアソシエイツ」を立ち上げて700名以上の人材育成に携わり、これまでに200社を支援してきた

 小野田氏によると、企業のRPAによる業務改善の目的はここ数年で変化しているという。

 「日本にRPAが登場した2017年ごろは、労働時間やコストを削減する目的で、全社的な基幹業務や各部門のメイン業務・共通業務といった、比較的規模の大きな業務にRPAが適用されていました。こうした自動化がある程度進み、現在は少し規模の小さな業務、部署単位や個人単位、少量多品目の業務をRPAで自動化することがトレンドになってきています。こうした自動化は、改善効果は小さいものの、『個人が業務のストレスから解放される』『コア業務に特化できるようになる』といった定性的な効果が期待できます。人材不足が課題視される中で従業員のエンゲージメントを向上させ、個人の業務を楽にする目的でRPAを活用する企業が増えています」(小野田氏)


図 RPAによる改善効果(出典:パーソルテンプスタッフの提供資料)

Power Automate for desktopの2つの導入パターン

 こうした背景があり、個人業務を自動化するPADが注目されていると小野田氏は語る。Windows 10、11ユーザーであれば無償で使える点、日本語対応している点も関心を集めている理由だ。一方でいざ導入するとなると、「使い方を学ぶ時間がない」「使える人やスキルが足りない」といった課題があり、導入に二の足を踏む企業も少なくない。

 ここ一年ほどでPAD活用の相談が増えていると話す小野田氏は、相談を寄せる企業は2つのパターンに分けられると語る。

 「1つ目は既に何らかのRPA製品を導入し、基幹業務の自動化は完了したものの、現場の個人業務の効率化に課題があり、部署単位でクイックに改善したいと考えているケースです。2つ目はRPAを未導入または検討中で、ROI(費用対効果)が出る業務があるか分からないため、コストをかけずに気軽にトライしたいと考えているケースです」(小野田氏)


図 PADの活用パターン(出典:パーソルテンプスタッフの提供資料)

 小野田氏は、1つ目のパターンとして、あるシェアードサービス企業の例を挙げた。この企業は、RPA製品「WinActor」を導入してから3年が経過し、何十台ものロボットを使って主に全社共通の基幹業務を自動化していた。一方で「Excel」などを使った個人業務の効率化に課題を抱えていた。

 そこで、「Microsoft 365」の導入をきっかけにして新たにPADを導入し、用途に合わせてWinActorとの使い分けを考えたという。こうした用途別のRPA製品の使い分けは、小野田氏によると「現在非常に増えている」という。

 2022年10月にMicrosoft 365を導入してPADの利用を開始した同社は、2022年11月に社内勉強会を開催して個人で活用ができる環境を整えた。しかし従業員がすぐに使いこなすのは難しかったため、WinActorの開発と運用を担当している外部人材がPADを覚えて従業員にレクチャーすることになった。そして2023年6月からWinActorとPADの並行利用が開始され、新規開発に関してはまずPADでの開発を検討することになったという。

 小野田氏は、さらに2つ目のパターンとして、ある専門メーカーの例を挙げた。この企業は全社的にWinActorを導入していたが、営業部門では「難しそうでハードルが高い」という理由で未導入だった。しかし営業部門には営業プロセスに伴う細かい事務作業が多く発生し、部門長が従業員の負担を軽減する方法を模索していた。そこでMicrosoft 365の社内展開に伴ってPADの導入を検討することになり、社内勉強会で実際にPADを触ってみた従業員が手応えを感じたことから、導入を決断する。

 同社は2023年1月にPADの導入を決めたものの、従業員が通常業務と並行しながら開発することが難しく、2023年7月に外部人材の登用を決めた。現在は、外部人材の力を借りてPADによる自動化を進めながら、人材教育も進めている。2024年1月を目安に従業員が自ら開発を進められるよう、寄り添い支援を継続しながら運用の引継ぎを検討しているという。

 これら2つの事例は「『何のためにPADを使うか』という組織方針をあらかじめ策定したこと」「方針の実現に足りないことを見極めて対策を講じたこと」の2点がポイントだと小野田氏は話す。

 「新しい取り組みを自社の人材だけで遂行するのは容易ではありません。外部のリソースをうまく活用できるかどうかが、PADのような優れたツールを自社にフィットさせるポイントです」(小野田氏)

Power Automate for desktopを自社で活用するためのポイント

 PADに限らずRPAを自社で活用する上では人材の育成が重要になるが、そのコストを捻出するための社内調整が課題になりがちだという。パーソルプロセス&テクノロジーでPower Platform内製化支援サービスを立ち上げ、幅広い企業のDX推進企画・導入を担当している玉井美妃氏(ワークスイッチ事業部 コンサルティング第二統括部 マネージャー)は、単に削減時間だけを見て費用対効果を考えるのではなく、人材育成による将来的なメリットを見込んで総合的に必要なコストを判断すべきだと話す。

 「ある企業は、自律的にPADでロボットを開発できる人材の育成を目的とした『寄り添い型研修サービス』を利用して開発者24人を育成し、ロボット26台を開発しました。工数やコストの削減はもちろん、現場で業務を改善する従業員が育ち、将来的な投資につながったという感想をいただいています」(玉井氏)

 玉井氏によると、他にも事前研修を実施して従業員の認識を合わせたり、ロボット開発に対する考え方や手法に関する共通言語を作成したりすることでPADを推進しやすくなるという。

 また、従業員一人一人がPADに興味を持ち、積極的に開発を進められる環境を整備することも重要だ。

 「まずはPADに対する興味を持ってもらうところから始め、最終的には当たり前のツールとして認識され、改善が継続する環境を整備する必要があります。興味を持ってもらう方法としては、自社ポータルサイトにPADに関する情報を継続的にアップしたり、PADで自動化している様子を社内で披露したりすることが考えられます。開発を担当した従業員をお披露目会に呼び、自動化の効果を具体的に語ってもらうのもよいかもしれません。他にもサポート環境や自己学習環境、コミュニティなどを構築することで、従業員が開発に取り組みやすくなります。また、PADは個人・チーム業務の自動化に適したツールであり、比較的自由度が高いため、ガバナンスを効かせるためのルール作りが必須です」(玉井氏)

 こうした環境整備にもコストがかかるため、PAD単体ではなく、最初からPower Platformの活用を考える企業も多いと玉井氏は語る。

 「Power Platformの活用でより大きな相乗効果を見込めば、投資する費用に見合う効果を最初から計画に盛り込めます」(玉井氏)

 PADはWindows 10、11ユーザーであれば誰でも無償で利用できることから、ここ数年注目度が急上昇している。しかし「個人業務を自動化する」「活用人材の育成や環境整備にコストがかかる」といった特徴から、自社で活用するには幾つかのポイントを押さえておく必要がある。

 また、玉井氏によると、RPAを既に導入している企業がPADに興味を持つ背景には、「ROIを基準にして自動化対象業務を選定し、自動化によってある程度の効果が出たが、削減時間が高止まりして効率化のスピードが落ちた。そこで選定基準から外れた業務をPADで自動化し、さらなる効果の創出を期待している」といったことがあるという。

 業務改善における効果創出が課題となる中で、今後さらに注目度が増すと予想されるPAD。自社の状況に合わせて適切に活用し、効果の最大化につなげたい。

本稿は、2023年7月28日にパーソルテンプスタッフが主催したウェビナー「Power Automate Desktopで上手に自動化を進めるには? 活用企業の導入背景から考える自社にあったパターンと人材確保のポイント」の内容を編集部で再構成した。

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