次世代ゲーム機戦争の裏話 「セガサターン」に2基のCPUが必要だったワケ:725th Lap
約30年前に世に送り出された「セガサターン」には、ある事情によってCPUを2基搭載する必要があった。その裏にあった騒動とは。
2023年の今、コンシューマーゲーム機といえば、まず思い浮かぶのが「PlayStation 5」と「Switch」だろう。この2強時代に至るまでに幾多のゲーム機が誕生しては消えていった。
セガ(当時はセガ・エンタープライゼス)が1994年に送り出した「セガサターン」もその一つだ。セガサターンには2つのCPUが搭載されているが、その裏にはちょっとした騒動があったという。2つのCPUを搭載しなければならなかった、ある理由とは?
CD-ROMドライブ内蔵の32bitゲーム機全盛時代、PlayStationとセガサターンはしのぎを削っていた。いわゆる「次世代ゲーム機戦争」だ。しかし、2D処理が得意だったセガサターンに対して、3D処理に長けていたPlayStationの方が「鉄拳」や「BIOHAZARD」など多くのゲームタイトルに恵まれ、大きな人気を博した。そしてファイナルファンタジーシリーズ初の3Dゲーム「ファイナルファンタジーVII」が1996年にPlayStationで販売され、ここで次世代ゲーム機戦争の勝敗は決した。日本のみならず米国でのセガサターンの売り上げも振るわず、いつしかセガサターンは負け組になってしまった。
そんな懐かしいセガサターンに関するエピソードが、かつて日立製作所の半導体部門だったルネサスエレクトロニクスの「SH-2開発秘話」で語られた。それによると、前期モデルのセガサターンには日立製作所の32bitRISCアーキテクチャ「SuperH RISC engine(SH)」を採用した「SH-2」チップが1台に2基搭載されていたという。これには、ある理由があった。
振り返ること1990年代初頭、新たなハードウェアの開発を検討していたセガは高性能なCPUを探していたが、なかなか要求に応えるものに巡り合えなかった。セガが日立製作所のPA-RISCアーキテクチャマイコン「PA-10」の採用を見送ったという話を耳にしたSH開発チームは、SH-2の前モデルである「SH-1」をセガに猛アピールした。
そのアピールが報われてか、セガはSH-1を採用した新型ゲーム機の開発に取り掛かった。SH開発チームは喜び勇んでSH-1の量産に励んだ。ところが、コンシューマーゲームは32bitがウリとなる時代に突入していたため、16bitアーキテクチャだったSH-1にセガは納得せず、32bitアーキテクチャへの変更を要請した。既に量産が開始していたものの、背に腹はかえられないとばかりにSH開発チームはわずか2カ月で32bitアーキテクチャに改良したSh-2の開発と量産に成功した。
ところが、セガサターンと同時期に発売されたPlayStationや「NINTENDO 64」が高い3D処理能力を搭載すると知ったセガは、3D演算性能が低いことを理由に「やはりSH-2ではダメだ」と言い出し始めた。SH-2の演算能力を上げるためにはその設計を根本から見直す必要があったため、SH開発チームは「さすがにそれは無理だ」とさじを投げそうになった。
そこで、ある妙案が浮かび上がった。SH-2が持っていた「マルチプロセッシング技術」を採用してSH-2を2基搭載することで、演算能力を底上げしようと考えた。ちなみにSH-2のマルチプロセッシング技術は、日立社内で開発していた情報端末でSH-2をマルチプロセッサ構成で使いたいという要求に渋々応える形で機能を実装したのだったが、それが功を奏したことになる。
これがセガサターンに2基のSH-2プロセッサがCPUとして搭載された理由だ。なお、搭載されたSH-2チップの正式名称は「SH7604」だ。セガサターン後期型では2チップが統合されたが、2チップ構成とは言いながらも性能が2倍とまではいかず、並列処理によって性能の向上を図った程度の効果だったという。また、2基のSH-2をサポートする目的で「Saturn Control Unit」というコプロセッサも搭載され、メモリアクセス制御や3D処理などを担っていた。
セガサターンは1994年11月22日に発売され、1997年までに累計756万台が製造された。都合約1500万基のSH-2が出荷されたことになり、日立製作所のSHチップはRISC型プロセッサとして世界シェア2位を誇ったのだという。
最近では、最新のコンソールでセガサターンや「ファミリーコンピュータ」などのレトロゲームをプレイできるため、昔を思い出してプレイしてみるのもいいかもしれない。
上司X: セガサターンに2基のプロセッサが搭載された理由が明かされた、という話だよ。
ブラックピット: セガサターンですか。あまり自分の好みのタイトルがなかった記憶しかないんですよね。
上司X: セガって大昔は米国の会社だったからな。いろいろあって日本資本になったけどさ。
ブラックピット: 米国セガも昔は必死だったんでしょうね。日本でも1996年ぐらいに次世代ゲーム機戦争の決着はついていた気がしますもん。
上司X: だな。ついでにセガはセガサターンの次の「ドリームキャスト」でもしくじってるからなあ。まあ、しょうがない。
ブラックピット: ドリキャスの失敗でセガはハードから撤退ですもんね。かたやプレステは5まで発売されて、何度かしくじってる任天堂もSwitchで大成功ですしねえ。
上司X: ITの歴史を取り上げることも少なくないけど、ゲームの歴史はこれまた面白いもんだよな。
ブラックピット: そうですか? セガサターンのことなんて別に覚えていなくても大した問題じゃないですよ。
上司X: そんな冷たいこと言うなよ。CPUが2基載ってたなんて話はなかなか興味深いじゃないか。夏の終わりにネットニュースから昔のゲーム機のことを思い出して懐かしむ、そんな企画も楽しいものじゃないか?
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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