2022年11月にOpenAIが大規模言語モデル「ChatGPT」を発表し、大きな話題を呼んだ。2023年3月にはより精度の高い「GPT-4」がリリースされ、オフィス業務の自動化をさらに強化する存在として、自社のサービスや業務に技術を組み込むケースも続々と発表されている。生成AIが業務自動化分野の可能性をさらにおし広げた2023年だが、企業の業務自動化はどこまで進んでいるのか。
業務自動化の現在地を探るために、キーマンズネットは「業務自動化に関する意識調査2023年」と題してアンケート調査を実施した(期間:2023年7月20日〜8月31日、有効回答数:606件)。本連載は、全8回にわたってアンケート調査から得られた結果を紹介する。
第1回となる本稿では、業務自動化の状況を概観し、自動化の範囲や業務領域、利用している技術、生成AIに対する読者の所感などを紹介する。なお、グラフで使用している数値は、丸め誤差によって合計が100%にならない場合があるため、ご了承いただきたい。
生成AI時代に業務自動化はどれほど進んだのか
現在、企業における業務自動化の状況を探ると、多くの企業が業務自動化の重要性を認識していることが明らかになった。「PCでの定型的な繰り返し作業」「一部非定型の作業」をデジタルツールによって代替しているかという質問には、「推進している」が44.7%と約半数にのぼり、「推進していないが重要事項だと認識している」が42.2%、「推進しておらず、必要性も感じない」は13.1%だった。多くの回答者が業務自動化の重要性を認識し、場合によっては自動化のプロジェクトを推進していることが分かる。どのような業務が自動化され、どのような技術やツールが用いられているのか。
「推進している」とした回答者の中で最も多いのは、「一つのアプリケーションで完結する個人タスクの自動化」(71.6%)で、次に「複数のアプリケーションを遷移するチームタスクの自動化」(53.9%)、「複数のアプリケーションを遷移する社内横断的なタスクの自動化」(27.3%)が続いた(図1)。一般的に自動化の範囲が広がるほどに、関係者の調整や自動化プロセスの開発の難易度が上がるため、個人業務から全社業務へと自動化レベルが高まるほど、実践する企業が少なくなることは自然だと言える。
企業規模別に業務の自動化レベルを見ると、5000人以上でチームタスクの自動化および社内横断的なタスクの自動化の割合が最も高いが、大企業であっても必ずしも高度な自動化を実施しているわけではなく、企業規模と自動化レベルの関連性は明確ではない。
技術、ツール選択においては、「RPA(Robotoc Process Automation)」(78.2%)が最も多く用いられ、RPAの次には「Excelマクロなどのアプリケーション内の自動化機能(60.1%)、バッチ処理(34.3%)が挙げられる(図2)。
さらに、自動化の範囲が広がるにつれて「AI/機械学習」や「チャットbot」といった企業のデータを解釈して価値を生み出すツールの他、「iPaaS」「ETLツール」といったデータの統合や変換、連携に関連するツールを使用している割合が増えている。業務アプリケーションのテストや自動化プロセスそのもののテストを効率化する「テスト自動化ツール」の割合も順当に増加しているようだ(図3、4、5)。
業務自動化の文脈では、2016年ごろからRPAが大きなブームとなり、コーディングなしにシステム化からあぶれたPC業務を手軽に自動化できることが大きな期待を集めた。RPAの得意分野はデータ入力や収集、チェック作業といった局所的な作業だが、早くからRPAによる自動化に着手した企業は、RPAをハブとして、AI技術(AI-OCRや画像認識、音声認識)やチャットbot、iPaaSといったツールを組み合わせることで自動化プロセスの範囲を広げている組織もある。
2017年ころには、「RPAはさまざまな技術を乗せるためのプラットフォームになる」という予測があったが、実際に先進的な導入を進めた企業ではその予測が現実となっている。
なお、2020年ころからは、こうした複数のツールや技術を組み合わせて全社的なプロセスを自動化する概念として「ハイパーオートメーション」という用語も流行した。実際に、RPAベンダー各社は、UI操作の自動化のみならず、上記のような技術を基に機能強化を図り、自動化のカバー範囲を拡大している。
自動化の導入とその深化の進行により、対象となる業務の領域にも変化が見られる。自動化を取り入れている企業を全体的に観察すると、特に注目される業務領域は「データ分析」(41.3%)、「財務・会計」(29.2%)、「文書管理」(28.4%)だ(図6)。一方で、自動化の深化度合いによっては、上位3つの項目は変わらないものの、「顧客サービス」や「販売・マーケティング」といったフロント業務領域の割合が増加していることも確認される(図7、8、9)。
フロントオフィス業務の効率化は、顧客体験の質の向上やサービス提供までのリードタイムの短縮に直結する。多くの企業が初めにバックオフィス業務を自動化の対象として選ぶ理由は、そのリスクが低く、コスト削減の効果が明確であるからだ。この成功体験を基に、さらなる効率化や競争力の強化、そして組織全体の業務最適化を追求する中で、フロントオフィス業務の自動化の重要性が高まってきていると言える。
一方、フロント業務の自動化は、無機的な対応や技術の不具合は顧客満足度の低下やブランドイメージの低下を招くリスクがあるため、技術と人の協働を重視したアプローチが求められる。
業務自動化の課題
前述したように、業務の自動化の導入が進む中で、新たな課題も浮かび上がっている。複数のアプリケーションの連携が必要となる自動化タスクにおいては、データの整合性や連携の安定性の確保が課題になる。
一部の自動化タスクでは、人間の目でのチェックや評価が不可欠だ。このようなタスクの監視や評価のための時間が予想以上にかかることもあるため、自動化の範囲や深度を適切に調整することが求められる。
業務自動化を効果的に実施するためには、さまざまな技術やツールを活用し、組織全体に適用することが推奨される。一方でRPAやAI技術の導入には、定期的なシナリオの更新や保守が必要であり、技術力とともに人材の確保や体制の整備も重要な課題だ。
次回以降では、RPAを中心とした業務自動化の状況を深堀りするとともに、問題点や解決の方向性について考察したい。
【おまけ】AIは人間の仕事を奪うのか
業務自動化を一歩進める技術としてのAIの可能性に関する意見や所感は、企業や個人によってさまざまだ。特に、2022年からの生成AIブームの中で、高所得の職種でさえAIに取って代わられる可能性が指摘され、人間の仕事の領域が狭まるとの懸念が出てきている。この背景を踏まえて、企業のAI技術、特に『ChatGPT』のような高度な自動化技術への所感を調査した。
結果として、「ChatGPTの仕事やキャリアへの影響に関して楽観的に捉えている」と答えた者は68.1%と過半数だった。反対に「悲観的に捉えている」と答えた者は14.3%、そして「影響は少ない」と感じる回答者は17.5%となった(図10)。
全体として、多くの回答者がAIの影響に対して楽観的な見解を持っており、悲観的な意見やAIの影響をあまり感じないとする意見は少数派であることが確認された。この結果から、AIとの共存を前提とした今後の業務の進化やキャリア構築の重要性が示唆される。
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