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デジタル技術がもたらす健康被害をどう乗り越えるか ガートナーが提言

デジタルデバイスはわれわれの生活に欠かせないものだが、その利用による健康被害も無視できない。ガートナーが主張する「デジタル機能障害」を乗り越える方法とは。

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 コロナ禍で加速したハイブリッドワークだが、それによってもたらされたものは、残念ながらポジティブな影響ばかりではない。デジタル・ワークプレース(デジタルシフトした職場環境)がもたらす「デジタル機能障害」と呼ばれるネガティブな影響は、今後数十年の間に必ず顕在化するだろう、とGartnerでは見ている。これを最小限に抑えるにはどうすれば良いのか。

 ガートナージャパン(以下、ガートナー)が2023年8月29〜30日に開催した「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」のセッションの中から、ギャビン・テイ氏(バイス プレジデント アナリスト)による「ハイブリッド・ワークの障害となるデジタル不適応をどう克服するか」の講演内容を紹介する。

デジタル機能障害とは何か

 2022年にGartnerが行った「Digital Worker Experience survey」の結果によると、「仕事の全てまたはほとんどを何らかの仕事用デバイスを利用して行う」と回答したデジタル・ワーカーは71%に上った。また、70%以上のデジタル・ワーカーは、6〜25個のアプリケーションを仕事で利用していることも明らかになった。

 ハイブリッド・ワークでは、ノートPCやスマートウォッチ、スマートフォン、タブレットなどのさまざまなデジタル機器が必要とされる。仕事の間だけではない。仕事が終わったら、いち早くスマートフォンを手に取り、更新された情報を手に入れようとする人も多いだろう。今ほどデジタル化が進んでいなかった時代では考えられなかった状況だ。

 この環境の変化によって、「デジタル機能障害」が近い将来もたらされるだろう、とテイ氏は指摘する。

 デジタル機能障害とは、「スマートフォンやコンピュータ、ソーシャル・ネットワーク、その他のデジタル・アーティファクト(人工物)をはじめとするデバイスやサービスを使用することによって、特定の身体器官や行動パターン、システムの機能に異常や障害が生じること」とGartnerは定義する。要するに、デジタルの乱用によって生じる問題の数々のことだ。

 例えばストレートネックやブルーライト、自分が発信した情報に対してすぐにリアクションが欲しくなる「今すぐ」の文化、常に最新情報を手に入れないと気が済まない「F.O.M.O」(Fear of Missing Out:取り残されることへの恐怖)といったものだ。


図1 ストレートネックの影響(出典:ガートナーの講演資料)

 特にストレートネックとブルーライトは個人の健康に悪影響を及ぼす。ストレートネックになると、関節炎や脊髄のズレ、神経損傷など、永久的かつ深刻な損傷を引き起こす可能性がある。ブルーライトにさらされ続けるとメラトニンの分泌が抑制され、体内時計が狂う。そうすると睡眠の質が悪くなり、臓器の自己修復が妨げられ、長期にわたる健康被害を引き起こすかもしれない。

 米国人がスマートフォンをチェックする回数は、1日平均46回。18〜32歳に限定すると、その数は1日平均150回にまで増える。また、現代人の集中力は8秒しか持続しないというデータもあるという。「『TikTo』『YouTube』『Facebook』。これら3つのソーシャルメディアは、デジタル・ドーパミンを生み出すトップ3だ」とテイ氏は語る。米国の大学で行われている研究によれば、テクノロジーの使い過ぎは「10〜20%の脳の萎縮」「70%の鬱症状の増加」「20%の成績低下」をもたらすとされている。

 テイ氏は「これは厄介な現代病だ」としながらも、「ガートナーが考案したプロセスにより、将来的なデジタル機能障害を低減できる」と説いた。

デジタルとアナログの掛け合わせでデジタル機能障害を軽減する

 テイ氏はある大手グローバル企業の事例を挙げた。この企業では、顧客からの申し込み処理を自動化するためにAIベースのシステムを開発した。これだけを聞くと業務効率化に貢献する素晴らしいシステムのように思える。しかし、このシステムは顧客から申し込みが入ると社内のさまざまな部門宛に自動でメールを飛ばす仕組みであり、毎日何万通ものメールが飛び交うようになってしまったのだ。


図2 自動化が引き起こした意外な弊害(出典:ガートナーの講演資料)

 テイ氏によれば、この失敗を生み出した原因は「トップ・マネジメントの熱意だけで意思決定を行い、包括的な計画がされていなかったこと」にある。「自動化は幾つかの点で役に立つが、全ての問題を解決するわけではない」と同氏は強調する。

 将来的なデジタル機能障害を低減するためには、次のようなデジタル一辺倒ではない包括的な活動が役に立つという。米国のハイテク企業が行っている実践例をいくつか見てみよう。

  • LinkedIn:クリニックを開設(精神科医、カイロプラクター、鍼灸師など)
  • Cisco:多様な代替療法を提供(鍼治療、スポーツ医学など)
  • Intel:Health for Life Centerの設置(鍼治療とカイロプラクティック・ケアなど)
  • Porsche:業務メールの禁止(勤務時間外、週末/休暇中)

デジタル機能障害に立ち向かうガートナーの4つの提言

 では、組織としてデジタル機能障害にどう立ち向かえば良いのか。

 例えば「体調は大丈夫ですか?」という質問に対して、「頭が痛い」と答えた人がいるとする。しかし、それは頭に問題があって痛みが出ているのではなく、本当はストレートネックやブルーライトといったものが引き金になっているかもしれない。

 このようにデジタル機能障害は、人体の中で“垂直方向”に問題が起きる(図3の「レイヤー」)。ある場所で起きている表面的な問題の背景には、他の場所に原因があるかもしれない。

 その問題を解決しなければ、その人自身だけでなく、他の同僚や家族、社会、組織、そして国全体までもが影響を受けることになる。つまり“水平方向”に問題が起きるのだ(図3の「プレーヤー」)。個人の問題は必然的に集団に影響を及ぼし、広範囲に拡大する可能性を忘れてはならない。


図3 レイヤーとプレーヤーの考え方(出典:ガートナーの講演資料)

 「デジタル機能不全は長期化することが分かっているが、これに対処する方法やテクニックがあることは分かっている」と話すテイ氏は日立の事例を紹介した。同社は「ハピネスプラネット」という従業員で応援しあうアプリを活用して従業員エクスペリエンスの向上を図っている。スマホに搭載されている加速度センサーを使い、幸せで共感や信頼のある人間関係を「ハピネス関係度」として数値化&モニタリングする。これにより組織全体の幸福度と生産性を高めていける仕組みだ(注)。

 実際、日立では労働者の心理的資本が33%、利益は10%上昇。1時間当たりの売り上げは34%、店舗での売り上げは15%上昇したという。

 最後に、ガートナーの提言をまとめておこう。

  • IT/人事部門の幹部と連携して組織全体のデジタル機能障害を把握する
  • ウェルネスを極めたデジタル・エリートとして、包括的な改善策のリスト作成に着手する
  • デジタル・テクノロジーを取得/使用する際には、デジタル・デトックスの機能と仕組みを利用させるようにし、従業員のストレスを軽減し、リアルな関係を維持することを支援する
  • ガートナーの「レイヤーとプレーヤー」というシステム思考のアプローチを使用して、組織の機能障害の根本原因を特定する

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