せっかく生産性向上したのに製造業の人材不足が止まらないのはなぜ?
製造業では生産性の改善が見られるにもかかわらず、人材不足の状況が続いている。なぜだろうか。調査結果から分かった現状と、解決に向けた幾つかの取り組みを紹介する。
シンクタンクのUKG Workforce Instituteが2023年8月28日(現地時間)に発表した報告書によると(注1)、2022年に比べて生産能力や収益、シフト業務に関する改善が見られるにもかかわらず、製造業を営む企業の76%が「労働力不足は依然として深刻な状況だ」と回答し、66%が「空白のポジションを埋めるのに時間がかかっている」と回答している(注1)。
UKGで製造業を担当するキリーン・ゼンク氏は次のように述べる。
「製造業を営む企業は自社の置かれた状況の深刻さを理解している。パンデミックによる労働力不足が他の業界に影響を及ぼすよりもはるかに前から、彼らはこの問題に取り組んできた。このまま放置すれば経済を停滞させかねない製造業の人材不足を解消するために、多くの組織が有意義な措置を講じている。製造業を営む企業はこの課題を理解し、人材に焦点を当てたり、テクノロジーの進歩に注目したりすることで人材の採用や定着を図っている」
なぜ人材不足が解消しないのか?
生産性向上に向けた努力が実を結んでいるにもかかわらず、なぜ製造業における人材不足が止まらないのだろうか。幾つかの企業や団体では既に対策が始まっているようだ。
米国の製造業における人事リーダー300人以上を対象とした調査では、約62%が離職率の上昇を報告し、57%が2022年と比べて未充足の雇用が増加していることを報告した。また、約54%が「年間の離職率が20%を超えている」と回答している。
これを受けて、多くの人事担当者は「採用の多様化」や「現場従業員の業務体験の改善」「現場マネジャーの育成」を優先課題として挙げている。約24%が女性を積極的に採用しており、39%が多様な採用を組織の「最優先課題」と考えている。
加えて、80%が自社に2つの異なる文化があることを認識している。つまり、生産ラインで働く時間給のチームメンバーよりも、正社員の間におけるポジティブな文化と業務体験が重視されているのだ。回答者の約68%は「専門能力の開発や柔軟なスケジュール、予測可能な勤務体系、有給休暇、福利厚生など、製造の現場で働く従業員の経験や取り組みを支援するために、自社は十分なことをしていない」と答えた。
ゼンク氏は「業務の構造や差異によって、全ての従業員が同じ経験をすることは難しいかもしれないが、製造業を営む企業には、組織のあらゆるレベルにおける公平性を高める機会がある」と指摘する。
幾つかの業界で労働危機が続く中、リーダーたちは一丸となって意識改革と人材パイプラインの構築に取り組んでいる。技術職に関する北米の業界団体Skilled Trades Advisory Council(STAC)は、建設業や小売業などの熟練した技能を必要とする業界でイベントやキャンプを実施したり、奨学金を提供したりして、それらの業界への就職を考えてこなかった若い層や女性に対してアピールしている(注2)。
一部の業界において、リーダーたちは未開発の才能の源泉として女性に注目している。テクノロジー業界では、有色人種の女性は未だに不平等な過小評価を受けている(注3)。製造業界では、フレーバーシロップを製造するToraniが、現場で働く女性の数を625%増やした(注4)。近年、同社はポテンシャル採用に重点を置き、製造スキルの向上を図り、介護などの家庭の優先事項に対応できる柔軟な環境を提供している。
出典:Despite productivity gains, manufacturers still struggle to find talent(HR Dive)
注1:Manufacturing Turning Point? Annual UKG Survey Shows Labor Improvements Visible Despite Uphill Climb(UKG)
注2:NEST, skilled trades industry leaders launch council to address labor shortage(HR Dive)
注3:Amid tech talent shortage, women of color are tech-ready and untapped(HR Dive)
注4:How Torani ― maker of those ubiquitous coffee syrups ― brings women into manufacturing(HR Dive)
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