無視できない生成AIによるビジネス上のメリット 企業にできる“後押し”を解説
生成AIが世の中に浸透し始めて1年も経過していないが、多くの従業員が経営陣に報告せずに生成AIをビジネスに活用している。企業は生成AIによるメリットを無視できない状況で、求められる役割とは。
生成AIが世の中に浸透し始めて1年も経過していないが、この技術はすでにビジネス現場で普及が進んでいる。調査によると、多くの従業員が経営陣に報告せずに生成AIを使用しているという実態もある。
従業員には、生成AIを活用して単調な反復作業から解放されるといったメリットがある。しかし企業は、生成AIにより生じる事業上のリスクを無視することは難しい。企業が生成AIを導入する上でやるべきこととは。
約5万人の従業員に生成AIを提供する狙い
スーパーマーケットチェーンを展開しているウォルマートは、従業員が業務で生成AIを活用できるツールの導入を進めている。2023年8月30日の「LinkedIn」の投稿で、ウォルマートのドナ・モリス氏(エグゼクティブ・バイスプレジデント兼チーフ・ピープルオフィサー)は、同社の従業員向けに「My Assistant」という生成AIを導入すると発表した(注1)。同社は、このプログラムがドキュメントの作成や要約、問題解決などのプロセスを迅速化するとしている。
『CIO Dive』によると、このプログラムは従業員の生産性や創造性、革新性を高めることを目的とし、デスクトップとモバイルを通じて約5万人の従業員が利用できる(注2)。
モリス氏の共著者であり、ウォルマートにおいて新規事業と新技術を担当するシェリル・アイノア氏(エグゼクティブ・バイスプレジデント)はLinkedInに次のように書いた。
「この技術によって、従業員は単調な反復作業から解放され、顧客およびメンバーの体験を向上させるためにより多くの時間と集中力を使えるようになる」
ビジネス現場で普及する生成AI
一般ユーザーが生成AIを認識し始めて1年も経過していないが、この技術はビジネスの現場でますます普及している。これは、自社独自の生成AIを展開するベンダーのおかげでもある。
調査会社のForresterにおける「Future of Work」チームのJ.P.ゴーンダー氏(バイスプレジデント兼主席アナリスト)によると、中でも注目されているのは、Microsoftの「365 Copilot」とGoogleの「Duet AI」だ。これらは既に多くの従業員に使用されているソフトウェアにAIを統合するものだ。
例えば、従業員はMicrosoftやGoogleのツールを使用して、AIとコミュニケーションを取り、スライドショー用の画像を迅速に取得したり、データ分析のためのピボットテーブルを作成したりできる。ゴーンダー氏は、これらのツールのもう1つの利点は、セキュリティやプライバシー、使用方法を雇用主が監査できる追跡機能を備えていることだと言う。
「生成AIは、人間とソフトウェアの間の摩擦を減らすだろう。私たちがすでに使っている技術やソフトウェアの多くにおいて、とても役立つものになるだろう」(ゴーンダー氏)
追跡機能の狙いは、従業員が上司に知られることなく、一般に公開されているAIツールを日常業務に利用することを防ぐためだ(注3)。企業に関するレビューを提供するGlassdoorのFishbowlが2023年2月に行った調査によると、従業員の3分の1以上がAIツールを業務に使用しており、そのうちの68%が「経営陣に報告せずに使用している」と回答した。
生成AIが抱える問題
「このアプローチにはいくつかのリスクが伴う」とゴーンダー氏は言う。機密性の高い組織データをAIツールに提供することによるセキュリティの懸念や、ユーザーのプロンプトに反応して不正確な情報や誤った情報を提供するAIの「幻覚」といった問題だ(注4)。
「全ての生成AIプログラムには潜在的にマイナス面がある」とゴーンダー氏は指摘する。特に、AIが原稿作成やメッセージングに使用される場合、その信頼性は懸念事項の一つだ。
「もし私があなたに電子メールを送った場合、それがアシスタントを使って書かれたものなのか、それともCopilotに書かせたものなのかは分からないだろう。どちらのシナリオが真実なのかを知ることは重要だ。CEOが個別の電子メールを送ったとしても、それが実際にCEOが書いたものでない場合、コミュニケーションにおける信頼性はどの程度なのだろうか」(ゴーンダー氏)
雇用主はすでにAIの限界をある程度認識している。モリス氏とアイノア氏は「この技術は従業員がより速く、より効率的に仕事をこなせるようになる可能性を秘めているが、判断力に欠け、文脈の理解には限界があり、アウトプットは学習に使用されたデータに依存する」と書いた。
従業員にとってもトレーニングは重要だ。IBM Institute for Business Valueの報告書によると、再教育がAI導入の課題となっている(注5)。ゴーンダー氏は「AIを導入する雇用主は、従業員がこの技術を最大限に活用できるよう主導権を握るべきだ」と述べ、次のように続けた。
「AIを導入するのであれば、従業員を訓練するのはあなた方の責任だ。投資に対する効果も、従業員が適切なスキルを備えられるか否かにかかっている。従業員が適切に使用できなければ、AIは効果を発揮しないだろう。組織が従業員に対して、組織が認めていないAIを業務に利用することを禁じたとしても、生成AIのプラットフォームが広く利用されるようになっているため、一定の緊張は生じるだろう」(ゴーンダー氏)
こうした懸念にも関わらず、いくつかの指標において、従業員のAIに対する関心は高まっている。人材紹介事業を営むRobert Halfの調査によると、アメリカの従業員のおよそ10人に4人が「生成AIは自分のキャリアにプラスの効果をもたらすと思う」と回答しており(注6)、人事担当者の半数以上も同じ意見を有している。ゴーンダー氏によると、このような関心の高さがあるため、雇用主はAIの問題にどのようにアプローチするか時間を取って検討すべきとのことだ。
出典:Generative AI is already affecting work, but a ‘long journey’ awaits(HR Dive)
注1:Empowering Associates and Creating Better Work Experiences through New GenAI Tool(LinkedIn)
注2:Walmart rolls out generative AI-powered assistant to 50K employees(CIO Dive)
注3:Most employees using ChatGPT, other AI tools for work aren’t telling their bosses(HR Dive)
注4:Chatbots sometimes make things up. Is AI’s hallucination problem fixable?(AP)
注5:Augmented work for an automated, AI-driven world(IBM)
注6:Worker confidence in AI may be growing despite unease about the tech(HR Dive)
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