Microsoftが秘密裏にAppleに売ろうとしていたもの:731st Lap
かつて良きライバル関係にあったAppleとMicrosoft。ある情報筋によると、Microsoftが期待を込めて開発してきたあるものをAppleに売却しようと話を持ち掛けていたことがあったという。
今でこそApple製品でOfficeアプリなどMicrosoftのアプリケーションを利用することは珍しいことではなくなったが、かつてAppleとMicrosoftは良きライバル関係にあったことはご存じの通りだろう。
そんな微妙な関係にあった両社だが、Microsoftが「あるモノ」をAppleに売却しようと話を持ち掛けていたことが分かった。Microsoftが売却しようとしていたあるモノとは。そして、その裏にある内情とは?
あるモノとは、サーチエンジン「Microsoft Bing」(以下、Bing)だ。
AppleのWebブラウザ「Safari」の検索エンジンはデフォルトで「Google Search」に設定されている。これは、GoogleがAppleに対して巨額の報酬を支払っているからだ。AppleがGoogleへのトラフィックを計測し、それに応じた報酬が支払われる契約となっている。もちろん正確な金額は不明だが、2002年にこの契約が締結されてからGoogleはAppleに対して年間150億ドル(約2兆2000億円、2023年10月13日現在のレート)以上の報酬を支払い続けているという。
AppleとGoogleの関係を横目に、Microsoftも同様の展開を考えていたようだ。『Bloomberg』が2023年9月29日に報じた内容によれば、Bingがリリースされた2009年以降、Microsoftはデフォルト検索エンジンにBingを採用するようAppleと何度か話し合ってきたという。
ある情報提供者がBloombergに話した内容によると、2020年ごろにMicrosoft幹部は思い切ってAppleにBingを売却する話を持ち掛けていたそうだ。とはいえ、その内容は買収を協議する以前の対話程度のものであって、具体的な交渉に至るまでもなかったという。残念ながらBingの売却話は実現しなかったということだ。
他方で、GoogleとAppleの検索エンジンにおける提携関係について、独占禁止法に触れているのではないかと訴訟が起こされた。
『Associated Press News』が2023年9月28日に報じたところによれば、その裁判の中でMicrosoftの幹部のミハイル・パラキン氏は「Appleは長くMicrosoftとBingの採用について話し合ってきたが、それは決して本気ではなかった。Googleからより高いライセンス料を引き出すための“交渉の切り札”としてBingを採用する可能性を残していた」と証言する。
実際のところ、2017年までは音声アシスタント「Siri」を介したWeb検索や、「macOS」のデスクトップ検索機能「Spotlight」の検索エンジンとしてBingが採用されていた。しかし、Safariのデフォルト検索エンジンとなることはかなわなかった。もちろん、Appleは長年の実績から「Bingを採用しようとしていた」と独占禁止法に抵触しないと反論するだろうが、パラキン氏の証言が今後の公判に影響を与える可能性は大きいだろう。
こうしたもめ事がある一方で、Appleが独自の検索エンジン「Pegasus」(コードネーム)を開発しているという情報もある。どれほどの検索性能があるかは不明だが、Spotlightのようなデスクトップ検索機能として利用されるのではとの予測もある。まずはデフォルトの検索エンジンを自社製のものにしておき、その後の選択をユーザーに委ねることで独占禁止法への対策とする見方もあるようだ。
Appleのデフォルト検索エンジンの座を巡ってMicrosoftが奮闘してきたのは事実のようだ。買収話がまとまっていたら、今ごろはAppleのデフォルト検索エンジンはBing一択の世界線だったかもしれない。
BingのAIチャット機能が話題になったが、今後はGoogleも同様のAI機能を搭載するだろう。そして、何より自分に適した検索エンジンを選択するのはユーザー自身だ。さて、数年後に覇者となっているのはどの検索エンジンだろうか。
上司X: Microsoftが、自社の検索エンジン「Bing」をAppleに売却しようとしていた、という話だよ。
ブラックピット: 2020年ぐらいの話ってことですよね。その頃って……。
上司X: まあ、今もBingのシェアはGoogleに比べたら決して大きくはないけど、2020年時点で6%程度という統計結果がある。
ブラックピット: 長く提供してきた割には、なかなかうまくいっていない印象ですよね。
上司X: 「Windows」のデフォルト検索エンジンにできればいいんだろうけど、それこそ「Internet Explorer」の件で独占禁止法に違反って話だったし、難しいんだろうな。
ブラックピット: その割にはWindowsを使っていると「Microsoft Edge」を使えだの、Bingがいいですよだのと言ってきますけどね。
上司X: しかし、実際のところ使ってみると、Bingは対話型の生成AIと合体してだいぶ使い勝手が変わった印象だな。まあ、Googleとどっちがいいかは人によるかな。
ブラックピット: 僕は結局Googleですけどね。Bingのチャット検索も使ってみましたけど、なんというか「ChatGPT」と同じ感じで、回答が信用できるものかどうかはよく分からないんですもの。だったらGoogleで検索して、自分で検索結果を精査した方が向いてますね。
上司X: おお、歯に衣着せないご意見をどうも。だから俺も「人による」って言っているわけだよ。それにしても、「Android」でGoogleがデフォルトの検索エンジンなのは当然だからさ、AppleではGoogle以外の選択肢が広がると良いけどな。コードネームPegasusがどんなもんかは分からんけど、それにも期待しながらAppleの独禁法裁判にも注目していこうじゃないか。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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