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ベネッセが生成AI活用でコンタクトセンター業務とWebサイト運用を効率化 その成果は?

全社1万5000人に向けたAIチャット導入、コンタクトセンターやWebサイトの業務改善、そして新サービスへ――。ベネッセはDX推進に生成AIをどう活用したのか。

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 ベネッセホールディングス(以下、ベネッセ)はこれまで、社内の業務効率化やサービスへの応用まで、大企業としては異例のスピードで生成AI活用を進めてきた。その取り組みの概要について、ベネッセ社内のDXを推進するキーパーソンとパートナー企業2社が開催したメディアセミナー「Benesse DX Media Seminar vol. 4」で語った。

ベネッセとAIの関わり

 ベネッセのDX(デジタルトランスフォーメーション)をグループ会社横断で推進する組織が「Digital Innovation Partners」。ここで副本部長を務めるのが水上宙士氏だ。

 ベネッセとAIの関わりは浅くない。これまでも「進研ゼミ」や学校向けの教育DX化支援サービス「ミライシード」において、個別学習カリキュラム作成などでAIの予測機能を活用してきた。昨今、急速に普及した生成AIについても積極的に活用を進めつつある。

 「生成AIは今後、社員の働き方や仕事の在り方そのものを変える可能性がある。そこで、社内業務において生成AIの活用を急速に進める必要があると考えた」と、水上氏は語る。

 例えばデザイナーが広告用の画像を作る場合、これまでであれば自身の経験値を基に構成やコピーなどを考え、自分で手を動かしてデザインを仕上げていくのが普通だった。しかし、生成AI活用が前提となると、デザイナーの仕事は生成AIに指示をして複数案を提案してもらい、その中から目的に合致したものを選択するような形に変わるだろう。もともとの仕事の進め方だと2週間くらいかかっていた作業が1、2日に短縮され、仕事に必要とされるスキルセットも大きく変わってくる。それを見越して、今こそ社内業務において生成AIの活用を急速に進める必要があると、ベネッセは判断したのだ。

生成AI活用の3ステップ

 ベネッセは生成AI活用を3つのステップで進めてきたと水島氏は語る。

  1. 社内利用の開始(2023年4月〜)
  2. 社内業務の効率化(2023年6月〜)
  3. 顧客向けサービスの提供(7月〜)

 ステップ1が社内での利用。生成AIが今後の仕事に大きな影響を与えることが確実ならば、皆が生成AIを使いこなせるようになる必要がある。しかし、ただ皆が自由に使えるようにしてしまえば、セキュリティやガバナンスの点で懸念が残る。そこで、2023年4月にMicrosoftの「Azure OpenAI Service」を活用した社内向け生成AI「Benesse Chat」(当初の名称は「Benesse GPT」)を導入し、グループ全社の約1万5000人に展開した。導入決定から2週間弱でのリリースだった。企画のブレインストーミングや契約書の確認、メールマガジンの作成など、さまざまな活用事例が生まれ、有用なプロンプトなどを社内で共有するコミュニティー活動も広げていった。

 ステップ2が社内業務の効率化。Benesse Chatの活用事例を基に、大きく業務効率化できそうな領域を特定した。具体的にはコンタクトセンター業務とデジタルマーケティングにおける生成AI活用を一気に進めることにした。実際の業務はベネッセ社員だけでなくパートナー企業と共に進めていくことになるため、ベネッセが戦略作成とプロジェクトマネージメントを担い、パートナーとの共同プロジェクトという形をとった。

 ステップ3では、2023年7月に進研ゼミ小学講座「自由研究おたすけAI」を発表。小学生向けに独自にカスタマイズした生成AIを期間限定で無料公開し、自由研究をテーマに安心安全に配慮した設計で思考力向上を目指すサービスを提供した。

 今回のセミナーではステップ2におけるコンタクトセンターとWebサイト運用について、プロジェクトを推進するパートナー企業の責任者が語った。

次世代型コンタクトセンタープロジェクト

 次世代型コンタクトセンタープロジェクトのPoC成果とロードマップについて説明したのは、TMJでベネッセ事業本部事業企画部部長を務める宮川正雄氏だ。TMJは1992年にベネッセの前身である福武書店から分社独立したBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス提供企業だ。2017年にはセコムの100%子会社となったが、ベネッセの事業に造詣が深く、現在も多くの業務を受託運営している。

人とAIが共生するコンタクトセンター

 ベネッセのコンタクトセンターにおける課題の一つがオペレーターの採用と育成だった。オペレーターの稼働時間数は毎年4月の入学シーズン前後に突出し、多忙を極めるが、この時期の採用は年々難しくなっている。また2〜4カ月ほどの契約期間では、育成にかけられる時間も限られ、オペレーションの品質維持も一苦労だ。

 次世代型コンタクトセンタープロジェクトが目指すゴールは、生成AIを活用して労働集約型のビジネスを抜本的に転換していくことだ。また、商品サービスのパーソナライズ化が進む中で1人当たりのオペレーターが蓄えられる知識には限界があるため、業務知識をAIでサポートしつつ人間のオペレーターを顧客対応の質の向上に集中できるようにする狙いもある。

 「このプロジェクトを通じて、人とAIが共生するコンタクトセンターのオペレーションメソッドを確立したい」と、宮川氏は語る。

5つのPoC施策

 ベネッセはこれまでもコンタクトセンターにおけるAI活用を積極的に進め、チャットbotや入電予測ツール、音声認識AIによる本人確認、オペレーターの自動評価といった仕組みを構築してきた。現在はこれらの取り組みで培った既存のアセットを生かしながら、そこに生成AIをプラスしてより効果を高めるために以下の5つのPoC(概念実証)施策を進めている。

  1. チャットbotやFAQの生成AI化
  2. チャットやメールの回答文の生成
  3. 音声botによる用件ヒアリングの自動化
  4. 商品情報や業務マニュアル類の自然文検索
  5. 応対履歴の要約文生成

メール業務おける回答文生成は人力の約半分の時間で

 2つ目のメール業務における回答文生成では、すでに生成AIの効果が明確になった。Benesse Chatに顧客からのメール内容を引用し、その下に回答したい内容を記述し、最後に「このAの問い合わせに対してBの内容で回答するメール文を作成してください」という具合にプロンプトを入力すると、返信文が自動的に生成される。これにより、1件当たり約15分かかっていた作業を8分にまで短縮することができた。

 PoCは10月から始まっていて、11月下旬に全てが完了する予定だ。2024年はさらに活用を拡大し、2025年には顧客接点のAI割合を6割にすることを目標に掲げる。

次世代型Webサイトプロジェクト

 次世代型Webサイトプロジェクトについては、メンバーズ執行役員エグゼクティブ・プロデューサーの白石哲也氏が説明した。メンバーズは長年にわたりベネッセのWebサイト運用支援を手掛けてきた。白石氏は今回のプロジェクトの目的について、「生成AIなどのテクノロジーを活用してより効率的で高度なWebサイト運用を実現すると同時に、業務プロセスそのものを見直し、変えていくことにあった」と話す。

 ベネッセのWebサイト運用においてはこれまで、制作工程にかなり時間がかかること、社員のスキルにばらつきがあり品質を安定させるのが難しいこと、公開までにデザインイメージなどがずれて修正が多くなることなどの課題があった。これらの課題に対して運用フローの見直しや生成AIの活用、ノーコードCMS(コンテンツ管理システム)の活用などの施策を実施することで、本来注力すべき売り上げ向上施策に取り組めるように改善したというのが、取り組みの概要だ。

生成AIツールの導入で運用フローを効率化

 まずは運用フローの抜本的な見直しだ。企画から制作、コンテンツのリリースまでのプロセスで、どこの作業に時間がかかっているかを特定し、作業工程を全面的に見直した。

 次に、生成AIを活用してWebサイトに最適なコピーを容易に開発できるようにすることで、スキルの標準化を図った。具体的には、教材案内のDMに使ったテキストを使って生成AIが約10秒ほどでキャッチコピー案や説明文などを出力できるようにした。単に紙のDMのコンテンツの焼き直しではなく「Webに最適なコピー」にしたところが大きなポイントだ。また、このツールはベネッセ専用に独自開発したもので、未公開情報の漏えいを防ぐためにChatGPTのAPIを利用して学習に使われないような工夫も施している。

 さらに、ノーコードCMS「STUDIO」により、あらかじめWebに最適に設計されたコンポーネントを選択して簡単にページを構成できるようにした。エンジニアに依存していた作業を専門知識がない担当者でも容易に編集できるようにし、かつCMS上で指示書や確認・修正履歴なども一元管理ができるようになり、先述の生成AIで出力したコピーも活用できるようにした。

Webサイト制作のコストを4割削減

 クリエイティブ最適化はWebサイト制作のみならず、その後の改善活動や広告(バナーやLP)の領域においても必要だ。そこで、生成AIをはじめとしたさまざまな技術を活用し、全体業務を高度化していく予定だ。


Webサイト運用の業務プロセス改善後の全体像(出典:メンバーズ)

 PoCの成果としては、進研ゼミ中学講座のWebサイト制作コスト4割削減を実現した他、制作期間を8週間から3週間へ短縮することに成功した。運用体制も最適化し、これまで10人を投入していた業務を3人でこなせるようになった。この成果を踏まえ、今後は「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ小学講座」「進研ゼミ高校講座」にも同様の仕組みを導入していく予定だ。

 白石氏は、テキスト系の生成AI以外にWebサイト制作で活用が期待できる最新技術として、「Adobe Photoshop」の画像生成AI機能である「Adobe Firefly」を挙げる。

 「進化するテクノロジーをいち早くキャッチアップして、業務に使えるものはすぐに組み込むことが求められる。普段使い慣れているツールでも、実はプラグインをインストールすることで、これまでできなかったことができるようになることもある。そういったところを活用していきたい」(白石氏)


 水上氏は、今回のコンタクトセンターとWebサイト運用領域における生成AI活用の中で実感していることとして、パートナー企業との連携の重要性を強調する。

 「社員自身がテクノロジーを使いこなせるようにならなければいけないが、共に仕事をするパートナー企業も巻き込みながら、最適解を共に考えていく必要がある。それが、現時点でわれわれが感じているま生成AIとの向き合い方だ」(水上氏)

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