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「2027年問題」の新たな救済策? コンポーザブルERPとはIT導入完全ガイド

変化に柔軟に対応できるコンポーザブルERPに注目が集まっている。導入には幾つかの押さえておくべきポイントがある。

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 「コンポーザブルERP」とはその名の通り「Composable(組み立て可能)なアーキテクチャ」に基づいて構成されたERPシステムのことだ。ここで言う「組み立て可能」とはシステムを業務単位でコンポーネントに分割し、それらを自由に組み合わせたり入れ替えたりしてシステム全体を柔軟に構成することを意味する。

 コンポーザブルという概念はERPに限らず広い分野で使われていて、その他「コンポーザブルモデル」「コンポーザブルアプリケーション」などとも呼ばれる。


コンポーザブルERPの考え方(出典:ワークスアプリケーションズ提供)

コンポーザブルERPが注目を集めるようになった背景とは

 もともと日本国内におけるERPの普及は、1990年代後半から大企業を中心にSAPのERPパッケージ製品の導入が進んだことが始まりだ。当時のERP製品は基幹業務のデータを単一のデータベースに集約し、単一のアプリケーションで処理する「一枚岩(モノリシック)」なアーキテクチャに基づいて作られていた。

 この第一世代の「レガシー型」「モダン型」と呼ばれるERPに対して、やがて「ポストモダンERP」という新たなコンセプトが登場した。これは各業務領域を個別に担うコンポーネントやシステムを互いに組み合わせ、より変化に強いシステムを実現しようというものだ。

 コンポーザブルERPはポストモダンERPのコンセプトをさらに推し進めたもので、「変化により迅速かつ柔軟に対応する」ためのものだ。ワークスアプリケーションズの外村卓也氏(プロダクトマネジメント本部 本部長)は、コンポーザブルERPのコンセプトが注目を集めるようになった背景について次のように述べる。

 「ビジネス環境の変化に素早く追従できるERPの必要性は以前から指摘されていましたが、コロナ禍で企業を取り巻く環境が一変したことで改めて注目が集まっています。また、2027年にSAPが提供するERPの保守期間が満了を迎える『2027年問題』がいよいよ現実味を帯びてきたことも、多くの企業がコンポーザブルERPに目を向ける契機になっています」

 ワークスアプリケーションズの藤原誠明氏(プロダクトマネジメント本部 HUEエヴァンジェリスト)は、コロナ禍を機に多くの企業で一気にDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが進展したこともコンポーザブルERPに注目が集まるきっかけになったと指摘する。

 「コロナ禍を機に、多くの企業でクラウドサービスの利用が増え、AI(人工知能)やIoTといった先進技術に積極的に目を向けるようになった結果、ERPについても『このままレガシーなシステムを使い続けていていいのだろうか』と疑問を抱く企業が増えています」

システムのポータビリティを高めて環境変化に素早く追随

 コンポーザブルERPを導入することで、企業はどのようなメリットを享受できるのか。既に述べたように、各業務を担うシステムを互いに切り離し、それぞれを単独で入れ替え可能にすることで、ビジネス環境の変化にシステムがより柔軟に追随できる。

 例えば市場ニーズの変化に対応するために新たな事業やビジネスモデルを立ち上げたり、既存業務に大幅な変更を加えたりする際に、従来はレガシー型ERPにカスタマイズやアドオン開発を施して対応してきた。これには多くのコストや時間を要すことに加え、システムがどんどん複雑化していき、メンテナンスやバージョンアップの手間やコストも大きくなる。

 その点、コンポーザブルERPのコンセプトに合わせて設計、開発されたERPシステムであれば、新たな業務を立ち上げたり既存業務に大幅な変更を加えたりする際に、その業務にマッチしたシステムを選び直し、旧システムと丸ごと入れ替えることで素早くリスクを抑えながらシステムを改修できる。また、カスタマイズやアドオン開発を最小限に抑えることで、メンテナンスとバージョンアップの手間やコストを抑え、より効率的かつ機動性の高いシステム運用を実現できる。

 こうした基幹システムの在り方であれば、ユーザー部門に掛かる負担も軽減できると藤原氏は述べる。

 「カスタマイズやアドオン開発を極力抑え、パッケージ製品の標準機能に業務を合わせるべきだということは以前から言われていましたが、現場のオペレーションを強みとする日本企業ではなかなか実現できませんでした。しかし、コンポーザブルERPであれば業務ごとにシステムを個別に選択できるので、業務にマッチしたシステムを選び、これまで行ってきた既存業務の強みも維持できます」

コンポーザブルERPが持つ特徴とは?

 具体的にコンポーザブルERPとはどのような製品やサービスを指すのか。前述した通りコンポーザブルERPはアーキテクチャを設計する際のコンセプトを指す言葉であり、特定の製品ジャンルを指すわけではない。従って、特定の製品を取り上げて「これはコンポーザブルERPだ」「これはコンポーザブルERPではない」と分類するのは難しい。

 また、現時点では自社製品が「コンポーザブルERPである」と明確に示しているERPベンダーも極めて少ない。

 「コンポーザブルERPを自ら名乗るということは『うちの製品はいつでも別のものと入れ替えられます』と言っているのに等しいので、ベンダーが自ら自社サービスをコンポーザブルとアピールするケースは少ないかもしれません。ただし、コンポーザブルERPのコンセプトと親和性が高い、もしくはコンポーザブルなアーキテクチャを意識した製品の特徴を挙げることはできます」(外村氏)

 外村氏はコンポーザブルなERP製品の条件として「SaaS型」であることを挙げる。それも、アドオン開発を前提とした製品ではなく、標準機能を豊富に取りそろえ、カスタマイズやアドオン開発なしでも広範な業務を網羅できる製品がコンポーザブルERPと親和性が高い。

 また、オンプレミス型の製品よりもクラウド型の製品の方が、よりコンポーザブルだといえる。近年ではERPに限らず、あらゆるジャンルの業務システムをSaaS型のクラウドサービスとして導入するケースが増えている。コンポーザブルERPも多くの場合、こうしたSaaS型のシステム同士を連携させることでERP全体の機能を構成することを前提としている。

 「コロナ禍以降、『Zoom』や『Microsoft Teams』といったSaaSのビジネス利用が一気に広がりましたが、これらのアプリケーションを自社専用にカスタマイズしようとは思わないでしょう。同様に、SaaSとして提供されるERPも、一般的にはカスタマイズして利用するケースは少ないため、コンポーザブルなアーキテクチャとの親和性はオンプレミス型の製品と比べてより高いと言えます」(外村氏)

 他のシステムと連携するためのインタフェースを備えていることも重要な条件だ。具体的にはAPIで機能を公開していたり、外部からデータベースを参照することを許可している製品の方が他のシステムとの連携をとりやすく、よりコンポーザブルといえる。

まずは自社業務の可視化とシステムのグランドデザインが重要

 自社の基幹システムを一気にコンポーザブルERPのアーキテクチャに移行するのは簡単ではない。藤原氏はこれについて「そもそも全ての業務システムをコンポーザブルにする必要はない」と指摘する。

 「変化があまり生じない業務については、当然のことながらシステムも頻繁に変更する必要はありません。また、自社の強みの源泉であるコア業務については、汎用(はんよう)的なパッケージ製品やSaaSでカバーするのは難しいため、スクラッチ開発で自社に最適化したシステムを構築し、それを長く運用し続けた方がいいケースもあります」(藤原氏)

 コンポーザブルERPの導入を検討する際には、製品やアーキテクチャの前に、まずは自社業務の現状と課題を洗い出し、将来目指すべき企業像や業務の形を明確にして、その上で「「標準化すべき業務とそうでない業務」と「システムを入れ替え可能にしておくべき業務とそうでない業務」を見極めることが大切だ。

 そうして「標準化できる、すべき業務」「システムを入れ替え可能にできる、すべき業務」を特定した上で、製品やサービスの選定に臨むべきだ。その際には、業務システム全体のグランドデザインをしっかり描くことが重要だ。

 「複数の製品やサービスを連携させるコンポーザブルERPのアーキテクチャは、一枚岩のERPと比べてシステム構成は複雑になりがちです。従って、製品やサービスの連携がERP導入の本来の目的である『経営の見える化』につながるよう、システム全体のデータ連携やプロセス連携をしっかり設計する必要があります」

 今後、コンポーザブルERPのコンセプトが世の中に浸透していけば、単に異なる製品やサービス間を連携させるだけではなく、各製品やサービス間で共有する共通データ基盤やシステム連携プラットフォームが提供されるようになるだろう。そうなれば、コンポーザブルERPの導入はもはや単なるパッケージ製品導入の枠を超えて、企業全体のエンタープライズアーキテクチャの設計と深く関わることになる。

 コンポーザブルERPの導入を検討する際は経営層にもその意義を理解してもらい、全社的な変革プロジェクトとして社内のさまざまなステークホルダーと密接に連携しながら進めていく必要がある。

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