OpenAIのCEO解任で組織が崩壊 取締役会が学ぶべき教訓は
OpenAIの取締役会は、共同創業者であるサム・アルトマン氏を解任したことで、ほぼ全ての従業員を失いかけた。OpenAIのリーダーシップの交代をめぐる世論の混乱は、幾つかの教訓を与えてくれる。
OpenAIの取締役会は、共同創業者であるサム・アルトマン氏を2023年11月17日(現地時間、以下同)に解任した。その結果、OpenAIのほぼ全ての従業員に該当する700人以上の従業員は取締役会に「取締役会が辞任し、アルトマン氏とブロックマン氏が復職しなければMicrosoftに入社する」と迫った。
人事分野の研究者によると、OpenAIのリーダーシップの交代をめぐる世論の混乱は、CEOの業務の承継と円滑な移行について、幾つかの教訓を与えてくれるという。
OpenAI取締役の解任劇の全貌
これまでの経緯を要約すると、OpenAIの取締役会は、共同創業者であるサム・アルトマン氏を2023年11月17日に解任し(注1)、同氏について「取締役会とのコミュニケーションにおいて一貫して誠実さを欠き、取締役会が責任を果たすことを妨げた」と述べた。
取締役会は、同社のCTO(最高技術責任者)であるミラ・ムラティー氏を暫定的なCEOに任命した。その後、OpenAIは、ムラティー氏に代わって、Twitchの元CEOであるエメット・シア氏を暫定的なCEOに任命した(注2)。これにより、ムラティー氏は週末の間だけCEOだったことになる。
一方、OpenAIに出資するMicrosoftは、アルトマン氏と、OpenAIの共同創業者で前社長のグレッグ・ブロックマン氏を獲得した。ブロックマン氏は、OpenAIの会長を解任された人物で、アルトマン氏の解任後に同社から離れていた。
Microsoftは、両氏の他にもOpenAIの元従業員を獲得し、AIについて高度な研究を行う新しいチームを率いることになった(注3)。OpenAIのほぼ全ての従業員に該当する700人以上の従業員は、2023年11月20日に取締役会に対して、「取締役会が辞任し、アルトマン氏とブロックマン氏が復職しなければMicrosoftに入社する」と強く迫る手紙を送った(注4)。
※OpenAIでは、2023年11月17日から現在に至るまでに、3人の人物がCEOを務めており、従業員は「取締役会の行動を理由に企業を去る」と強く迫っている。
人事分野の研究者によると、OpenAIのリーダーシップの交代をめぐる世論の混乱は、CEOの業務の承継と円滑な移行について、幾つかの教訓を与えてくれるという。Gartnerで人事実務に関するリサーチを担当するアレクサンダー・カース氏(シニアプリンシパル)は以下のように述べた。
「取締役会とCEOの関係は、どの企業や組織においても最も重要な関係の一つだ。CEOを維持するか解任するかに関する最終的な決定を下すのは、取締役会だ。これらのステークホルダーの間には、業績がどのようなものであるかについて共通の理解がなければならず、またCEOがその仕事にふさわしい人物であるという非常に高い信頼が必要だ。裏を返すと、取締役会はCEOの業績を尊重するのだ。取締役会は気まぐれに行動したり、短期的な結果に基づき急激な変更をしたりしてはいけない」
CEOと取締役会の関係が重要
「ChatGPT」が2022年11月にローンチされて以来、OpenAIの評価額は、株価からの推定で860億ドルになった(注5)。カース氏は次のようにも述べた。
「CEOは、取締役会が自分の業績をどう考えているかについて驚いてはいけない。大切なのは、双方向の関係だ。CEOは取締役会に組織の進捗状況を伝える必要があり、取締役会はCEOに期待を伝える必要がある。CEOが取締役会の考えに驚くようでは、誰も得しない」
CEOの後継者の計画については、カース氏は以下のように述べた。
「新しいCEOが就任する前から始めるべきだ。取締役会はCEOと協力して、状況が変化したり、トラブルが発生したりした場合に、CEOをどのように交代するのかについて計画を立て、急激な移行があった場合に暫定的なトップとして誰が後任を務めるかを念頭に置いておくべきだ。組織の長期的な存続のための計画が必要だ」
カース氏によると、CEO自身、CHRO(最高人事責任者)、取締役会がCEOの後継者に関する計画に関与する形が理想だという。これらの関係者が協力して、全てのステークホルダーの役割と責任を明確にし、それらの役割にふさわしい社内外の候補者を特定するプロセスや採用戦略、新しいCEOが持つべきスキルや能力を特定するのだ。
「CEOの後継者に関する計画を効果的に実行するためには、外部とのコミュニケーションのみならず、従業員との内部コミュニケーションも含めた強固なコミュニケーションが必要だ。直属の部下でなくても、従業員はCEOと非常に特別な関係を築くことがある」とカース氏は述べた。
「通常、ほとんどの組織は強固なコミュニケーションプランを持っておらず、変化が生じた際に、外部とのコミュニケーションに焦点を当て、従業員が自分の仕事を失ったり、企業の将来の方向性に不安を感じたりする可能性があることを無視している」とカース氏は言う。多くの場合、従業員とコミュニケーションを取る役割は、CHROに委ねられる。
カース氏は、次のように述べた。
「CEOの引継ぎが行われる際、取締役会と組織が行うべき最も重要なことは、透明性をもって適切に行動し、なぜその決断が下されたのかを社内外に対して十分に説明することだ。CEOの交代は組織にとってチャンスだが、同時に大きなリスクも伴う。取締役会が自信を示すことができればできるほど、従業員はリーダーシップ、新しいCEOとそのチームに自信を持つことができ、より良い結果につながる」
アルトマン氏が解雇された2日後の2023年11月20日、OpenAIの共同創業者兼チーフサイエンティストのイリヤ・スッツケバー氏は、考えの変化を「X」(旧『Twitter』)に投稿し(注6)、取締役会の方針転換を要求する従業員の手紙に署名した。
「取締役会の行動に参加したことを深く後悔している。OpenAIに害を与えるつもりはなかった。私は、私たちが一緒に築いてきた全ての物事を愛しており、企業を再結成するために全力を尽くす」とスッツケバー氏は書いている。
Gartnerが2023年の初めに行った調査によると、取締役会の51%がCEOの後継者に関する計画を文書化していないという(注7)。
「大きな落とし穴は、計画がないことだ」とカース氏は述べた。
※2023年11月22日:OpenAIは、2023年11月22日の早朝にXで「サム・アルトマン氏が新しい取締役会と共にCEO(最高経営責任者)としてOpenAIに復帰することについて、基本合意に達した」と発表した(注8)。
出典:OpenAI’s 3-CEO weekend: A cautionary tale for leadership transitions(HR Dive)
注1:OpenAI announces leadership transition(OpenAI)
注2:What you need to know about Emmett Shear, OpenAI’s new interim CEO(AP)
注3:A statement from Microsoft Chairman and CEO Satya Nadella(Microsoft)
注4:Enjoy unlimited access for $2 a month your first 6 months.(The New York Times)
注5:OpenAI’s $86 Billion Share Sale in Jeopardy Following Altman Firing(The Information)
注6:Ilya Sutskever(X)
注7:Succession Planning Is Back in the Spotlight(SHRM)
注8:OpenAI(X)
© Industry Dive. All rights reserved.
関連記事
- 解雇を恐れる従業員が心の拠り所にする”あること”とは?
解雇に敏感な従業員はどうすれば安心するのか。ある調査結果から分かった、職場の士気が上がる3つの方法とは。 - マスク氏を批判した従業員の末路――スペースXの“ブルシット”対応から学ぶこと
イーロンマスク氏が率いる宇宙開発ベンチャースペースXで、マスク氏を批判して、説明責任を果たす文化を求める公開書簡を提出した従業員が一部解雇された。この事件を受けて、スペースX内部で横行しているハラスメントや、同社の不誠実な対応を元従業員が告発した。同社の対応から学ぶべきこととは。 - レイオフしたのに「恨まれない」企業の特徴とは?
労働者を解雇しても、企業が「あること」に気を付ければ、人員が必要なときにまた戻ってきてくれるかもしれない。