ERPベンダー8社比較 各製品の対象と得意業種を理解しよう
ERPにはベンダーや製品ごとに得意とする業種や企業規模がある。本記事ではERP分野をリードする8社の強みと市場での位置付けなどを紹介する。
一定以上の規模の企業は、その活動を調整するためにERPを必要とするようになる。従業員が数百人になると導入するというのが一般的だが、業界アナリストによると、事業内容が複雑ならそれ以下の規模でもERPが必要になることもあるという。
ERPに関心を持つ業種は多岐にわたり、製造業やサービスプロバイダー、非営利団体、政府機関などが効率的かつ効果的な運営のためにERPを求めている。近年では何十年も使ってきたオンプレミス型ERPからクラウドベースのERPに移行するところも多い。これまでにERPを使ったことがなかった組織もSaaS型ERPなどクラウドベースのシステムを導入している。
このようなERPの需要増加で市場はかなり大きくなっている。Fortune Business Insightsの調査によると、ERPの世界市場は2023年が714億ドル(約10兆5700億円)。2030年はさらに成長して1878億ドル(約27兆8100億円)になる見込みだという。
ERPベンダー8社比較 それぞれの得意領域と立ち位置
会計や人事、注文管理など、一般的な業務プロセスの実行のためにERPが必要とされている中、ベンダー側は他社製ERPとの差別化を目指して機能を提供している。
Gartnerのバイスプレジデントアナリスト、アラン・スタンリー氏によると、ERPの中にはサプライチェーンツールというコンセプトを打ち出しているものもあれば、財務機能に注力したシステムもある。特定の業種に対応するベンダーもあり、専門化のおかげで業界屈指の大手をパフォーマンスで上回ることもある。
調査会社Constellation Researchのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストのホルガー・ミューラー氏は、「ERPを選択するときにはさまざまな要素を検討するよう企業経営者にアドバイスしている」と語る。バックオフィスの機能全般に対応できるかどうかだけでなく、自社の業種や地理的条件、社内の技術などに適合しているかどうかといったことも考慮しなければいけないのだという。
ミューラー氏は何よりも機能面の適合性が重要だとし、「機能面でのギャップが多いと、それを埋めるための出費が必要になり、結果として高くつく上に実装も遅れる」と説明した。
「既存のERPから新製品にアップグレードする場合にベンダーを変更しない組織が本当に多い」と語るのは、TechVentiveの創業者でプレジデントのブライアン・ソマー氏だ。他のベンダーがより自社に合ったものを提供できるかもしれない以上、新規参入しているベンダーで、コストを大幅削減できる価格構成を提供しているようなところがあるのなら検討する価値はある。ソマー氏はZohoを例に挙げている。
ERPにも多くの製品が存在する。MicrosoftとOracle、SAPの3社が市場を支配しているが、小規模ながらさまざまな点で対抗できるERP製品を提供しているプレイヤーも少なくない。
今回は複数のERPを比較できるように、市場シェアやアナリストのランキングなどから優秀とされている8社取り上げ、提供しているERPの特徴を紹介していく。
SAP
ERP販売世界第1位といわれるSAPは、中小規模から大規模の組織で使用できる製品を提供しているが、最大のターゲットは中規模から大規模、およびグローバルな組織だ。流通や製造、小売、サービス業の他、政府や非営利組織など、数多くの業種に対応している。
SAPはサプライチェーン志向と企業の独自プロセスへの対応能力が他社製品との差別化点だ。会計やHRなどのあらゆる組織が必要とする要素に加えて、製造管理や調達、物流に関する機能を備えている。また、サプライチェーン計画や倉庫と輸送の管理のための包括的なスイートシステムもある。
ミューラー氏はSAPについて「ディスクリート(加工組立)製造とプロセス製造、両方の製造業に非常にうまく対応できている」と評した。
SAPにはカスタマイズ可能なオンプレミス型ERP製品の他にSaaS版も提供している。ERPのフラグシップ製品は「SAP S/4HANA Cloud」で、他にも中小企業向けの「SAP Business ByDesign」がある。
Oracle
「Oracle Fusion Cloud ERP」と「Oracle NetSuite」を組み合わせればOracleもERP業界トップの一角を占める。市場シェアはかなり大きくSAPに次ぐ規模になっている。
Oracle Fusion Cloud ERPは、中規模上位から大規模の組織に向けた製品で、グローバルな組織も利用できる。製造業や一般消費財など、対応する業種は非常に多い。機能は、会計や財務管理、HRといった基礎的な業務プロセスに加えて、請求やビジネスインテリジェンス(BI)、CRM、製品設計、在庫管理などがそろっている。多言語化対応もされており、モバイル機能も備えている。オンプレミスとSaaSの両方に引き続き対応している。
一方、Oracle NetSuiteはクラウドベースであり、機能は多いがOracle Fusion Cloud ERPの機能が全てあるわけではない。ターゲット顧客は小規模から中規模の組織、プロセス製造とディスクリート製造の両業種、主に北米を拠点とするサービス中心の企業など。SaaS型のERP製品のまさに先駆けとして、1998年に別の名称(NetLedger)で登場した。
ミューラー氏はOracleのERP製品について「サービス業へのサポートがSAPよりもしっかりしている」と評した。
Microsoft
エンタープライズ向けアプリケーション市場のあと一つの雄はMicrosoftだ。同社のERP「Dynamics 365」は、中規模上位の組織がターゲットで、グローバル展開にも対応する。さまざまな業種の組織に対応しており、プロダクト中心企業とサービス中心企業のどちらの利用者もいる。
Dynamics 365も機能が充実しているが、業界アナリストによると、他のトップERPで選択できる機能が一部欠けているという。
Dynamics 365はパブリッククラウドの「Microsoft Azure」で稼働している。主にSaaSとして提供されており、他のMicrosoft製アプリケーションとの連携が容易だとされている。また、MicrosoftのAIデジタルアシスタント「Microsoft Copilot」も備えている(Copilotは「Microsoft Office 365」の「Word」「Excel」「Outlook」「Teams」といったアプリケーションにも搭載されている)。
Microsoftでは他に、中規模下位組織の市場に向けた「Dynamics 365 Business Central」も提供している。
Infor
InforはERP市場でのシェアがそれほど大きくなく、ランキングではたいてい4位だが、Gartnerの2023年版「マジック・クアドラント」では、プロダクト中心企業向けクラウドERPの「リーダー」に挙げられている。Gartnerによると、Inforは顧客の業種と規模に応じてコア部分を差し替えたアプリケーションを提供している。また、Inforといえば、Baan、Lawson、Mapicsといった、一般にオンプレミスに分類される古いERPのブランドを大量に獲得したことで知られており、その一部については名称を変更して販売やサポートを継続している。
InforのメインのERPである「Infor CloudSuite」は、機能をカスタマイズできる。ビジネスプロセスを業界のベストプラクティスに合わせたいと望む製造業者への対応に注目している調査会社もある。
一方で、Inforはサービス中心クラウドERPの「Constellation ShortList」にも選出されており、ミューラー氏によると「十指に余る業界に深く浸透している」という。
Workday
Gartnerの「マジック・クアドラント」でサービス中心企業向けクラウドERPのリーダーに挙げられているWorkday。財務やHR、計画、プロジェクト管理、プロフェッショナル・サービス・オートメーション(PSA)に対応したSaaS型ERPには、強力な分析機能とBI機能が搭載されている。
一部の業種に向けてはその業種に特化した機能を提供しており、中でもサービス業に最も力を入れている。顧客は中規模から大規模、グローバルな組織が大半を占める。
Workdayのプラットフォームはサードパーティーのソフトウェアと連携でき、非常に多くのアドオンが用意されている。BIと分析の機能も引き続き拡大している。
ミューラー氏はWorkdayのサービス業志向を取り上げ「この部分がSAPとの違いだ」と評した。
Sage
市場シェアは小さいものの、かねてより中小規模向けERPの注目プレイヤーとされてきたSage。オンプレミスとクラウドの両方のシステムを提供している。「Sage Intacct」は財務管理を重視したSaaS型ERPだが、HRとプロジェクト管理の機能も備える。
Sageには他に「Sage X3」という主力ERPがあり、こちらは製造業や流通業、倉庫業のニーズに対応したサプライチェーン機能が強い。
Epicor
Epicorはプロダクト中心クラウドERPでConstellation ShortListに選出されている他、Gartnerのマジック・クアドラントでも同分野のリーダーに挙げられている。
一般的なバックオフィス機能に対応している他、資材所要量計画(MRP)やマルチサイト管理、マルチプラント業務管理、予測、計画、スケジュール調整などの機能を備える。高度な分析、構成、価格、見積もりの機能もある。
ERPの多くの小規模プレイヤーと同じく、Epicorもターゲットは中小規模の組織だ。アナリストによると、EpicorのERPはディスクリート製造分野の複雑な要件の扱いや小売りと卸売りに特に強みがあるという。
IFS
IFSもプロダクト中心ERPのConstellation ShortListに選出されているベンダー10社のうちの1社だ。
Constellationのミューラー氏によると、同社のERP「IFS Cloud」は、航空宇宙や化学、建設、産業機械、公益事業をはじめとする、専門の製造業分野に特に強い。
また、資源集約型の製造業や流通部門が大きい組織への対応が強みだと見ている調査会社もあった。
古くからあるERPのプレイヤーであることから、IFS CloudはHRなどのよくあるバックオフィスの機能のツールの他に、資産管理やマルチサイト計画、現場レポートなどのツールをはじめとする製造とオペレーションのための機能を備えている。
IFSのターゲットは中規模から大規模の組織であり、これはトップ4以下のERPベンダーとしては少数派だ。Gartnerのマジック・クアドラントでは「ビジョナリー」に挙げられている。
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