安否確認サービスを利用する理由や基本機能、選定と運用のポイントを解説
自然災害などの不測の事態が発生した際に、従業員の安否や被災状況を確認する「安否確認サービス」を導入する企業が増えている。安否確認サービスを利用する理由や基本機能、選定と運用のポイントを解説する。
安否確認サービスとは、自然災害などの不測の事態が発生した際に従業員の安否情報や被災状況を確認するサービスだ。自然災害が頻発する日本では、迅速かつ正確に従業員の安否状況を確認することは、事業継続計画(BCP)の観点からも重要だといえる。
キーマンズネットが実施した「安否確認サービスの利用状況に関する調査(2023年)」によると、約7割の回答者が安否確認サービスを導入している一方で、残りの3割の回答者は従来の手段である電子メールなどを使って安否確認をしていることが分かった。また、導入済みの企業からは「従業員の回答率が低い」「いざ災害時に通知が届かない」といった運用に関する課題が聞かれた。
本稿では、安否確認サービスの導入が求められる理由を解説するとともに、基本機能やサービス選定のポイント、運用ポイントを紹介する。
安否確認サービスの導入は今後増加見込み? その背景とは
安否確認サービス「セコム安否確認サービス」を提供しているセコムトラストシステムズの越尾俊明氏(セコムクラウドサービス事業部 執行役員 副事業部長)によると、安否確認サービスは大企業を中心に導入が進んできたが、中堅中小企業でもBCPの策定状況の進捗に伴って導入が増えており、今後も増える見込みだという。
連絡手段の多様化も安否確認サービスの導入率向上を後押ししている。例えばセコム安否確認サービスには、「電子メール」「電話」「LINE」「LINE WORKS」「専用のスマートフォンアプリ」の5つの連絡手段が用意されている。越尾氏は、「個人への新たな通知手段が登場すると、追随して安否確認サービスを新たな通信手段に対応させる傾向は今後も続くでしょう」と予測する。
従来の電子メールなどによる手段に代わり、安否確認サービスを利用する企業が増えているのはなぜか。越尾氏は理由の一つとして、「企業の担当者が被災する可能性」を挙げる。
「安否確認が必要な事案が発生したとき、企業の担当者は従業員の安否を確認して被災情報を収集した上で、従業員に対して指示や情報共有をする必要があります。しかし担当者自身が被災した場合、従来の電子メールなどの手段ではこうした対応は難しいでしょう」(越尾氏)
企業が独自に電子メールで従業員の安否を確認するためには、非常時に連絡ができる電子メールアドレスをあらかじめ収集し、災害時に一斉に電子メールを送信する必要がある。しかし対象になる電子メールアドレスは個人情報に該当するため、従業員が登録を拒否するケースもある。大量の個人情報を適切に管理し、常に最新の状態に更新する負荷も高い。
従業員数が多い大企業の場合、膨大な数の電子メールを一斉送信した際に、電子メールサーバの負荷やインターネット帯域幅などの問題で電子メールが届かないという問題が発生する。従業員数が比較的少ない企業が、電子メールではなくSNSのグループで安否確認を実施しているケースもあるが、こうした「シャドーIT」の利用がセキュリティリスクになり得る。
近年は上記のような安否確認の課題を克服する目的で安否確認サービスの利用が増加している。
安否確認サービスの基本機能
安否確認サービスの基本機能は、「自動一斉配信」「自動集計」「安否や被災状況の可視化」「情報共有」「複数の連絡手段に対応」などがある。
安否確認サービスは、気象庁の地震情報に連動し、安否確認を一斉に自動配信する。従業員は、スマートフォンなどから安否情報や被災状況を回答し、回答は自動で集計される。集計結果はダッシュボードで可視化でき、管理者は従業員の安否や被災の状況を一目で把握できる(図1、2)。従業員同士がやり取りできるメッセージ機能や掲示板機能を備えているサービスもある。安否確認サービスの多くは、電子メールや電話の他にアプリケーションやSNS、SMSなどの複数の連絡手段に対応している。
基本機能の他に、日付や対象者をあらかじめ指定して自動で通知を送る「訓練機能」を備えた安否確認サービスもある。越尾氏は訓練機能の重要性を次のように強調する。
「安否確認サービスは非常時に利用するサービスですが、いざというときに使えないといったことになりかねません。日頃からの従業員への啓発や定期的な訓練が非常に重要です」(越尾氏)
例えばセコム安否確認サービスは、地震が発生すると、管理者に向けた「災害通知」と従業員に向けた「安否確認」の2つを発信しているが、企業独自の訓練では災害通知を発信することが難しい。セコム安否確認サービスは月に1度、地震が発生したと想定してユーザー企業向けに災害通知訓練を実施している。
地震発生時は、迅速で正確な安否確認が求められるが、不要な安否確認を行わないことも重要だ。安否確認サービスの中には、余震が続いた場合、その都度従業員に安否確認を送るのではなく、管理者にのみ余震通知を送り、安否確認を再度実施するかどうかの判断を促す機能や、一定時間内に発生した余震に対して一括通知を行う機能を備えているものもある。世間では、災害時に安否確認サービスから多くの通知が届いたことで、その都度回答する負荷が高かったという声も上がっている。通知が飽和することで回答率が下がるリスクもあるだろう。余震を考慮した機能は、従業員に重複した安否確認を求めず、非常時に混乱させないメリットがある。
安否確認サービスはUI(ユーザーインタフェース)が非常に重要だ。非常時でも全ての従業員が容易に操作できるように、直感的な操作にこだわってUIを設計しているサービスは多い。セコム安否確認サービスも、基準となるデザインのルールを策定した上で、ユーザーが迷わずに操作でき、非常時でも瞬時に理解できるUIを目指してリニューアルを続けているという(図3)。
また、セコムトラストシステムズは2024年内に位置情報をベースにした安否確認機能の追加を計画している。現在は災害発生地域に居住地や勤務地がある従業員に安否確認を行っているが、それ以外の帰省や旅行といった要因で災害発生地にいる従業員にもメッセージを送信できるようになる。災害に遭った従業員が、安否確認サービスのスマートフォンアプリに位置情報の一時的な利用を許可すると、アプリが位置情報に基づいて安否確認を開始するという仕組みだ。
安否確認サービスの選定ポイント
安否確認サービスには自動一斉配信機能があるが、気象庁の地震情報を基に自動配信するタイプや専門家が誤報でないことを確認してから配信するタイプなどがある。後者は無駄な配信を防ぐ点でメリットがあるが、人手を介さない自動配信のタイプの中には「地震速報から一定時間経過後に配信する」ことで誤報による配信をなくす工夫をしているサービスもある。
安否確認サービスを選択する上で重要なのがセキュリティだ。データセンターやクラウド環境といった管理形態が統一されているかどうかはセキュリティを判断する上で参考材料になる。また、従業員が自ら個人情報を入力するタイプの安否確認サービスであれば、情報漏えいのリスクが小さくなる。
災害発生時でもシステムが継続して稼働することは重要なポイントだ。複数のデータセンターを利用して可用性を確保しているかどうか、災害時に稼働した実績があるかどうかは事前に確認しておきたい。万一のときにユーザーをサポートする有人のオペレーションセンターがあることも安心材料になるだろう。
災害発生時はインフラに被害が発生する可能性があるため、確実性が高い連絡手段が複数確保されていることも重要だ。多くの安否確認サービスには、メールや電話の他に、SNSや専用のアプリケーション、自動音声ガイダンスなどの複数の連絡手段が用意されているが、自社に適した連絡手段があるかどうかは必ず確認しておきたい。また、安否確認の際には一度に大量のメールが送信されるため、メールの到達率や送信速度についても調べておく必要があるだろう。東日本大震災時には、安否確認のメールが届かないことが問題になり、その後サービスの移行を余儀なくされた企業もある。
多くの安否確認サービスは、従業員数によって月額料金が複数のパターンに分かれている。より安価に利用したい企業に向けて機能を限定したタイプのサービスを提供している場合もある。サービスによっては初期費用や月額の基本料が発生するので、製品比較の際はその点にも留意したい。
安否確認サービスの運用ポイント
安否確認サービスを導入しても、必要なときに適切に活用できなければ意味がない。どのような点に注意して運用すべきか。
まず重要なのは、日頃から訓練をして非常時でも冷静に対処できるようにしておくことだ。防災の日である9月1日や東日本大震災が発生した3月11日、阪神淡路大震災が発生した1月17日に訓練を実施している企業は多いが、安否確認サービスを提供しているベンダーに協力してもらった上で、月に1度などの定期的な訓練の実施を視野に入れたい。
非常時でも冷静に対応できるように、従業員にポケットマニュアルを配布している企業もある。ポケットマニュアルは安否確認の方法とルールが記載されているカード形式のマニュアルで、災害発生時にはそのマニュアルを見ながら報告ができるようになっている。
災害発生時は混乱し、安否確認の通知に気付かないことも多い。最初の通知に回答がないとき、回答があるまで自動で何度も再送する機能が備わっている安否確認サービスもある。こうした機能を利用することも、安否確認サービスを適切に活用する上で役に立つだろう。
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