Excelじゃだめなの? ナレッジ管理ツールを使わない企業の4つの問題と解決のヒント:ナレッジ管理ツールの利用状況/後編
ナレッジ管理ツールを導入しない企業に理由を聞いたところ、共通する4つの根本的な問題が見えてきた。その状況と解決策を探る。
業務の効率化や品質向上を目的としたナレッジ管理(ナレッジマネジメント)の取り組みに期待が寄せられている。前編では、企業がナレッジを管理するために「Google Workspace」や「Microsoft 365」といったコラボレーションプラットフォーム型ツールや「Microsoft SharePoint」や「Evernote Buisiness」などのドキュメント管理型ツールといったツールを用いている現状を紹介した。
ミーティングや非公式な対話、メモ交換による情報共有に依存している状況や、ツールを導入していても情報のサイロ化、ブラックボックス化に悩む状況が見て取れた。こうした問題はなぜ起こるのだろうか。後編では、「ナレッジ管理ツールの利用状況(実施期間:2024年2月21日〜3月15日、回答件数:233件)」の調査結果を基に、企業がアナログなナレッジ管理の手法に頼らざるを得ない理由や、導入済みのツールに対する企業の所感などを紹介する。
Excelじゃだめなの? ツールを導入しない企業の4つの問題と解決のヒント
まず、ナレッジ管理機能を持つツールを利用していない回答者にその理由を聞いたところ、4つの問題が明らかになった。
1つ目はツールへの理解度の低さだ。「どんなツールがあるか良く知らない」「使い方が分からない」「ツールを使うという発想がなかった。せいぜいExcelを使うくらいだ」といった声が上がった。
2つ目は費用対効果だ。「導入前に費用対効果が測りづらい」「コストパフォーマンスが分からない」といったコメントが寄せられた。従業員同士のコミュニケーションや情報共有に関するツールは、導入前から費用対効果を算出することが難しい場合がある。定量的な効果よりも社内文化の変革といった定性的効果を目的に導入したいと考える例も多いため、いざ上申の際に説得材料に悩むこともあるだろう。ある企業は、パイロット導入期間を設け、その期間に利用した従業員に「生産性が上がったか」などの質問をするアンケートを実施して効果を可視化したという。
3つ目は文化に馴染まないという理由だ。「ツールなど活用する気がない社風」や「部門間の連携が薄く、社内に(情報共有の)文化がないまま今に至っている」のように、ツールを導入したとしても文化醸成のハードルが高く、運用が難しいと考える回答者もいるようだ。「かつてシステムを導入していたが十分に活用できず、コスト削減によりツールの利用を停止した」という苦い経験を振り返る方もいた。
新しいコミュニケーションツールの導入時には、文化を変革するというトップの意思と利用を促進するリーダーシップが必要だ。ある企業では、部門のトップが自らツールを活用し、既存ツールとの使い分けのルールを徹底して実践させるなど、一部強引な方法を取ったという。また、ルールを策定し、運用するための委員会を設置したという企業の事例もある。
4つ目は上位層の理解不足だ。「経営陣の理解不足」や「上層部にナレッジ管理の重要性が認識されていない」などのコメントが寄せられた。ナレッジ管理ツールはチーム内外や組織内外の情報を可視化し、効率的に共有するためのものだ。従業員が統一のツールを使っていることに意味があるため、一部のチームでスモールスタートしたとしても最終的には全社共有を目指す例が少なくないが、導入規模が大きくなるにつれて上位層の理解も必要になる。
これに対しては、前述のようにパイロット導入後のアンケート調査を上申の資料にする他、自社の事業やプロダクトの成長にナレッジ管理ツールが不可欠だという言葉が口説き文句になったという例もある。
ベテラン従業員の退職という危機でツールの重要性を認識する企業も
現在、ナレッジ管理機能を持つツールを利用していない回答者の45.0%は「今後導入する可能性がある」としている(図1)。
導入目的としては「業務の効率化」(92.6%)に続いて「ベテラン社員のノウハウ継承」(81.5%)が多い(図2)。特にベテラン社員のノウハウ継承については、前編でも「業務に一番詳しい従業員が退職したらどうしよう」という心配の声があることを紹介したように、業務が回らなくなるかもしれないという喫緊の課題を前にしてナレッジ管理の必要性を痛感するケースが多いようだ。
全社導入or部門のみ? ツール導入企業に聞く「導入範囲」の実態
一方、既にナレッジ管理機能を持つツールを導入している回答者の目的は少し異なるようだ。「業務の効率化」(67.6%)が最も多いことはツール未導入の企業と変わらないが、2位に「業務品質の向上」(40.5%)、3位に「技術力の向上」(32.9%)が続き、「ベテラン社員のノウハウ継承」(30.1%)は4位だった(図3)。
企業がナレッジ管理ツールを導入する目的は、組織の習熟度と現在直面している課題に依存する。未導入企業は、業務効率化やノウハウ継承といった基本的なニーズの解決を目指しているのに対し、導入済みの企業はツールでナレッジベースを充実させた後の、従業員の技術力向上や業務品質の向上に目を向けていると考えられる。
導入単位は「全社」(43.9%)が最多で、次いで「部門ごと」(26.6%)が続いた(図4)。
ツール満足度は42.7%……満足より「不満」が多くなる要因とは?
企業がさまざまな効果を期待してナレッジ管理ツールを導入したことが分かったが、前編ではツールを導入していても情報のサイロ化、ブラックボックス化に悩む状況を伝えた。
後編でナレッジ管理機能を持つツールの回答者にツールの満足度を聞いたところ「とても満足している」(1.7%)と「まあ満足している」(41.0%)を合わせた42.7%が満足している一方で、「やや不満がある」(40.5%)と「とても不満がある」(16.8%)を合わせた58.5%が何らかの不満があると答えた(図5)。
ツールの不満をフリーコメントで聞いたところ2つの理由が見えてきた。1つは操作性の悪さだ。「入力の手間が多い」や「UIが独特すぎて直感的に使えない。誰かに教えてもらうかマニュアルを見ないと検索も思ったようにできない」などのコメントが挙がった。
UIや操作性の悪さが原因でアウトプットのハードルが上がり、ナレッジを蓄積する”入口”の役割を果たせていないツールも少なくないようだ。こうした事態が続くことで「一般ユーザーにはとっつきにくい。そのため一度使った人がリピートしようと思わず離れていってしまう」や「入力が大変でマンネリ化している」「ツールを使っても余剰操作が増加するだけで効率化できない」のように、ナレッジを共有するモチベーションが下がることを危惧する声も見られた。
2つ目は検索性に対する不満だ。「検索性が悪く欲しい情報が見つからない」「サービスによっては非常に検索効率が悪い」など、情報を探し出せないことへの不満があった。ナレッジ管理ツール選定の重視ポイントでも「検索機能の強力さ」が上位に挙がっていることからも(前編参照)、検索精度やスピードなどの機能面は必須の確認事項とすべきだ。
管理ツールの満足度に関わる意見ではないものの、ツールの運用ルールに対する不満も多く寄せられた。「ツールの運用方法の習熟が図られていない。インストールしておしまいになっている」や「体系的に使う仕組みや生かされる術がない」「結局情報が集まる人は忙しく情報の公開が進まない。組織風土が根付いていない」や「ツールの問題と言うより、人的な問題の方が大切」などのコメントが印象的だった。ツールはあくまで手段であり、ナレッジ管理の目的に立ち返り、そのための運用設計や改善を継続することが重要だということが分かる。
これに関しては、率先して新しいツールを活用する情報感度の高い従業員にインフルエンサーの役割を果たしてもらうという方法がある。こうした立ち位置の人物を集めて前述の委員会を設置し、従業員がツールを使いこなせるようにサポートとトレーニングを提供するという方法も考えられる。
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