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なぜ日本企業はいつまでもERP導入に成功しない? 読者調査を基に分析「IT担当者300人に聞きました」をななめ読み

ERP導入は常に重要なテーマとして取り上げられます。キーマンズネットの調査を基に、ERP導入の現状と課題について考察を深めてみましょう。

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 ITに関連する話題の中でERPは常に重要なテーマとして取り上げられます。キーマンズネットによる「ERPの利用状況に関するアンケート(2023年)」は、IT担当者のさまざまな意見を集計することでERP導入の多様な状況を明らかにしています。

 そこで、調査の前編「1番導入されているERPは? 利用実態を企業規模別、業界別に徹底調査」と後編「SAP2027年の壁、『あるサービス』に大企業が殺到する実態」を基に、ERP導入の現状と課題について考察を深めてみましょう。

企業規模、業界別のERP導入状況

 日本におけるERPの導入状況は、企業規模によって顕著な違いを示しています。特に、従業員数が100人以下の小規模企業では、ERPの導入が少ないことが明らかになりました(図1)。


図1 企業規模別、ERPの導入状況(出典:IT担当者300人に聞きました)

 また、運用課題の調査結果からは、中小企業においてなかなか成果を得られていない状況も浮き彫りになっています。これらの調査結果から、ERP導入の現実と、それに伴う課題が見えてきました。

小規模企業における導入の障壁

 小規模企業は経営層の目が企業活動全体に届く傾向があります。業務プロセスは比較的シンプルで、多くの場合は「Microsoft Excel」などのオフィスツールで十分に処理できます。ERPは一般に、複雑なビジネスプロセスや大量のデータを管理する必要がある大規模企業向けに設計されています。そのため、小規模企業のニーズには必要以上に高機能で、業務で機能を活用する機会は限られます。

 さらに、ERPの導入には大きな初期投資と継続的なメンテナンスコストが伴います。小規模企業はリソースを直接的な収益増加や事業成長にに集中させることが重要なため、限られた予算内で最大の効果を得ることが求められます。高額なERPの導入は費用対効果の観点から抵抗感があることは理解できます。

 また、小規模企業における組織文化や業務プロセスの柔軟性の低さも、ERP導入の障壁となることがあります。ERPは業務プロセスの標準化と自動化を推進するため、導入では既存の業務プロセスを見直し、変更することが求められます。しかし、小規模企業は従業員個々の裁量に委ねられている範囲が広くスピードに優れていることが強みの一つであるため、このようなシステム準拠に強い抵抗感傾向があります。

ERPソリューションへの期待

 これらの事情を踏まえると、小規模企業におけるERP導入の少なさは、現状のビジネスニーズとコストのバランスから理解できます。しかし、業界の急速な変化や事業拡大に伴う業務プロセスの複雑化は避けられないといった現実もあります。変化への対応は、小規模企業にERPの導入を再考させる強い動機となるでしょう。低コストで規模に適したERPの需要は確実に高まると考えられます。

 日本は中小企業が企業数の大部分を占めます。国産ERPは、日本特有のプロセスを組み込むことが可能で、言語や文化の障壁なく導入できる利点があります。また、ERP導入の鍵は、費用対効果の高さだけでなく、導入後のサポート体制の充実にもあります。こうしたハードルを越えたサービスが提供されたとき、小規模企業のERP導入が一層進むことが期待されます。

ERP導入の必要性

 ERPの導入は、業界によって必要な機能が大きく異なります。製造業は「生産管理」や「在庫管理」が事業の成果に直接影響を与えます。ERPはこれらの管理業務を自動化し、正確性を高めるため導入が進んでいるのでしょう(図2)。物理的資源の管理が必要な業界は、手動での監査対応が現実的でない場合が多く、ERPはコンプライアンスの確保と効率化の両面で効果的な解決策となります。


図2 業界別、ERPを利用している業務領域(出典:IT担当者300人に聞きました)

 一方、IT業界はERPの導入が後回しにされがちです。この業界は人件費が主要なコストであるため、人事や組織を管理するツール、いわゆるHRテックに注目が集まります。これは、従業員の管理とモチベーション向上が事業成功の鍵を握っているためです。また、SaaS事業のように顧客基盤が広い場合は営業や顧客の管理が重視され、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)の導入が重要となります。

 ERP導入を検討する際は、業界固有の要件と事業の戦略的目標に基づいて判断することが重要です。慎重な検討を通じて、最適なシステム導入の道筋が見つかるでしょう。

クラウド時代のERP

 日本におけるERPの大きなシェアを占めるのは、本調査結果によれば「SAP S/4HANA」(28.0%)と「SAP ERP(ECC6.0)」(21.0%)で、これらは合わせて約半数を占めています。特に大企業において、SAPはグローバル対応ERPシステムとしての地位を確立しています。


企業規模別、導入しているERP(出典:IT担当者300人に聞きました)

SAPとクラウド移行

 現在、SAPの大きな焦点は、クラウドへの移行にあります。「SAP2027年の壁」と呼ばれる期限に向けて2つの動きが見られます。

 1つ目は、従来のオンプレミスの延命措置です。サードパーティーによる保守延長サービスによって可能なこの選択が、システムだけでなく業務のレガシー化を容認する決定となってしまうことに注意してください。

 2つ目は、アンチレガシーの立場からのクラウド移行です。古いシステムの運用コストを見直し、柔軟性とスケーラビリティを向上させるクラウド化は、移行プロセスにおいて、データマイグレーションや、カスタマイズやアドオンの互換対応、セキュリティ問題の解決といったチャレンジを伴います。また、クラウドへの移行は、組織内の業務プロセスや従業員のスキルセットにも影響を及ぼし、教育と適応が必要になるでしょう。

 SAPのクラウド移行は単に技術的な変更以上のものとなります。これは、企業のデジタル変革の道筋を定める戦略的な決定で、将来のビジネスの柔軟性と成長を実現する重要なステップとして位置付けられます。真の経営課題に取り組み、新しい技術環境を最大限に活用することが、日本企業の大きな課題となることは間違いありません。

 RPのクラウド移行について、キーマンズネットの「SAPのクラウド移行ってどうやるの?」 漠然とした疑問をスッキリ解決する記事8選で多くの示唆があります。特にSAPが提供するクラウド移行をきっかけとしてERPの価値を最大化するための具体策は専門家としての経験に溢れています。

 そのトピックの一つであるシステム投資思想について、「住宅に対する姿勢」を例に考察しています。

日本企業のシステム投資

 日本企業の文化は「環境適応型の木造建築文化」を反映しており、IT予算は現行業務の最適化や初期投資の早期回収に重点を置いています。これは、「合わなくなったら建て直す」というアプローチを意味し、変化に迅速に対応するが、長期的な視点が欠けている可能性があります。

欧米企業のシステム投資

 一方で、欧米企業の文化は「長期耐久型の石造建築文化」を反映しており、IT予算の多くをオペレーションに割り当てています。彼らは「使いながら価値を高める」という戦略を採用し、長期的な成長と発展を重視します。

ERP導入方法への影響

 この文化的な違いは、ERP導入の方法にも影響を及ぼしています。傾向として、日本企業は既存の業務プロセスをデジタル化することに焦点を当て、ERPの真の価値を生かしきれていない場合があります。一方欧米企業は、ERPを使った業務プロセスの改革を通じて、長期的な価値創出を目指していると考えられます。

ERPについて改めて考える

 日本企業の特徴の一つである環境適応型のアプローチは、迅速かつ正確に環境の変化を捉え、それに適応することが重視されます。この観点から、特定の機能に特化したシステムが優れていると考えられるのは自然なことです。

 例えば、財務管理の領域で国産の会計ソフトウェアとERPを比較するとします。個別機能で単純比較すると、法改正の追随や特定業務の効率化などにおいて、国産会計ソフトウェアのメリットが顕著に見えることが多いでしょう。しかし、ERPの本質を深く理解すると、この比較が必ずしも適切でないことが分かります。

ERPは何のためにあるのか?

 この質問に対する答えはERP(Enterprise Resource Planning)という名称から明らかです。目的は、経営リソースを最適配分し続ける計画立案を支援することです。これにより経営者はデータの正確性と迅速な入手を実現し、より精度の高い経営判断を下すことが可能になります。

経営者と実務部門のニーズのギャップ

 しかし、ERP導入に当たって、経営者と実務部門のニーズの間にしばしばギャップが発生します。経営者は事業状況を短時間で把握したいと考える一方、実務部門は既存の業務プロセスを変えずにミス無く業務遂行できる使いやすいシステムを求めます。このギャップが埋まらない場合、ERPの導入は業務効率化に偏重し、最終的な経営判断の質を向上させることが難しいものとなります。

パッケージスタンダードを理解する

 ERP導入の成功には、まずパッケージスタンダードを理解することが重要です。既存の業務プロセスや自社ならではの常識を主張する前に、ERPのスタンダードを受け入れる必要があります。ERPにおけるスタンダードは、その目的達成のための「正義」であり、業務プロセスの最適化や効率化の基準となります。

業務をフィットさせる

 業務最適化のメリットは、従業員の経験と効率化が現場レベルで実現されることです。しかし、実務部門の業務効率化だけを重視しすぎると、経営資源の最適化が後回しにされるリスクが生じます。

 国産ERPベンダーは、国内の事情を反映してこのバランスを取る工夫をしていますが、自社の業務最適化を優先すると、企業固有の事情に応じたカスタマイズが必要となり、コストが増大する可能性が高まります。そのため、自社の業務をERPのスタンダードに適合させることが重要です。実務部門の抵抗の前で進まないという実態があることは承知していますが、これを突破しなければERPの価値を大きく損失してしまいます。

日本企業に求められる文化の変革

 ここまでに記してきたように、日本企業はシステム利用の文化を「スタンダード準拠」、「オペレーション志向」に変えることが求められています。この変化により、ERPは長期的かつグローバルに適応し、業務改革を通じてその価値を最大限に引き出すことが可能になります。このアプローチは、単に既存業務をデジタルに置き換えるのではなく、ERPによる業務改革に積極的に乗り出すことを意味し、DX推進の道標として強く機能します。

 「分かっていながら変われない」という問題は、筆者がERP導入業務に携わっていた20年以上前から存在しており、今なお日本企業が直面している課題です。現行の業務をトレースするという考え方が多くの問題を引き起こすことを、改めて認識する必要があります。

 筆者はかつて、ERP導入でパッケージ費用を大きく上回るカスタマイズ費用と長期化する開発期間、その間に発生するパッチ適用やアップデートが要因となる機能バグへの対応に追われました。プロジェクトは複雑化し、運用開始の目途が立たない状態の中で時間が過ぎ、この間に起きた環境変化から、さらなる仕様変更への要望が起こるという負のスパイラルに陥ったことで、着地点を定めるために右往左往した経験があります。

 日本企業がこの状況から脱却し、グローバルな競争環境において成功するためには、根本的な思想の転換が求められます。ぜひ、皆さんの力でこの文化的シフトを実現し、未来を切り開いてください。

著者プロフィール:西脇 学(DLDLab. 代表)

 大学卒業後は電源開発の情報システム部門およびグループ会社である開発計算センターにて、ホストコンピュータシステム、オープン系クライアント・サーバシステム、Webシステムの開発、BPRコンサルティング・ERP導入コンサルティングのプロジェクトに従事。

 2005年より、ケイビーエムジェイ(現、アピリッツ)にてWebサービスの企画導入コンサルティングを中心に様々なビジネスサイトの立ち上げに参画。特に当時同社が得意としていた人材サービスサイトはそのほとんどに参画するなど、導入・運用コンサルティング実績は多数に渡る。2014年からWebセグメント執行役員。2021年の同社上場に執行役員CDXO(最高DX責任者)として寄与。

 現在はDLDLab.(ディーエルディーラボ)を設立し、企業顧問として、有効でムダ無く自立発展できるDXを推進している。共著に『集客PRのためのソーシャルアプリ戦略』(秀和システム、2011年7月)がある。

Twitter:@DLDLab


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