迫るSAP ERPの保守期限 企業はどう動いている?【実態調査】:ERPの利用状況(2024年)/前編
キーマンズネットはERPの導入状況を調査した。多くの企業が利用しているSAP ERP(ECC6.0)の保守期限が2027年末と迫る中、企業はどのような動きをしているのだろうか。
経営資源の可視化とスピーディーな戦略策定に寄与するERP。2024年3月の「ITR Market View:ERP市場2024」によると、ERP市場の2022年度の売上金額は1687億円と前年度比11.6%増で、提供形態別ではパッケージ市場で同3.4%減、SaaS市場は同26.8%増であった。
2022〜2027年度におけるCAGR(年平均成長率)はパッケージ市場で2.5%減、SaaS市場で20.3%増と予測され、ERP市場はクラウド型ERPを中心に拡大していく見込みだ。
そこでキーマンズネットは「ERPの利用状況に関するアンケート(2024年)」と題して調査を実施した(実施期間:2024年3月8日〜29日、回答件数:241件)。前編となる本稿では、企業におけるERP利用の現状を紹介する。
流行りのSaaS型ERP 導入はまだ先?
まずERPの導入状況を調査したところ、全体の41.1%が「利用している」、12.0%が「現在は利用していないが、導入予定」と回答した(図1)。
導入割合を従業員規模別で見ると、100人以下の中小企業は10.3%だが、5001人以上の大企業では60.7%と、6倍近くもの差が見られた。101人〜500人、501〜1000人の中堅・中小企業では4割〜5割の導入率であることから、100人を超えた辺りで導入を検討する企業が増えるのが分かる。
次に導入形態を見ていこう。一般的に自社仕様にカスタマイズしやすい「オンプレミス」型は49.2%で、「SaaS」(32.8%)や「IaaS、PaaS」(21.1%)などのクラウド型は53.9%と、わずかに後者の利用が上回っている(図2)。2023年度の調査では「オンプレミス」が48.0%、「SaaS」が36%、「IaaS、PaaS」が20.0%であったことから、2024年になってもオンプレミスが優勢な状況が分かる。
従業員規模が大きくなるにつれてIaaSやPaaSの割合が高まる。拡張性や利便性の高さといったSaaSのメリットと、オンプレミスのカスタマイズ性の高さのバランスを鑑みてIaaS、PaaSを選択するケースも少なくないようだ。
中堅・中小企業では過半数が不満を訴える
ERPはどのような製品が利用されているのだろうか。勤務先で導入しているERPを尋ねたところ、全体では「SAP ERP(ECC6.0)」(29.3%)、「SAP S/4HANA」(23.2%)などSAP製品の利用率が高い(図3)。フリーコメントには「ZAC」や「MCFrame」「THOMAS GLOBE」「Infor ERP LN」「i-ルネサンス」「MA-EYES(カスタマイズ有り)」「Infor Syteline」が寄せられた。
ERPを選定する上で重視するポイントを聞くと、全体では「業務プロセスの標準化」(29.7%)、「標準機能の充実」(24.2%)、「経営情報の可視化」「システムの一元化」「旧バージョンを利用していた」(同率で17.2%)が上位に挙がった(図4)。
SAPユーザーに絞ると、「標準機能の充実」や「旧バージョンを利用していた」「海外製でグローバルなノウハウを取り込める」を選択する傾向にあった。
また、5000人以上の企業の13%が「海外製でグローバルなノウハウを取り込める」を選択し、他の規模帯を大きく引き離した。大規模な企業ほどグローバルスタンダードの準拠を重要視しているのが分かる。
一方、「GRANDIT」や「GLOVIAシリーズ」の導入企業では、「国産で日本の商習慣に合う」「業界特化のテンプレートがある」の割合が高い。MicrosoftやOracleのERPを導入している企業は「他の社内システム/サービスとの連携」が選定ポイントの上位に挙がるなど、各サービスの特徴を捉え、自社の課題や運用に合うサービスを選定しているのが分かる。
続いて、導入しているERPの満足度を調査したところ「とても満足している」(2.0%)と「満足している」(51.5%)を合わせ、53.5%が満足している結果となった。
従業員規模別で見ると、1001人以上の企業の半数以上が「満足」と回答したが、1000人以下ではその割合は42.9%と半数を下回った。不満の理由をフリーコメントから探ってみると、3つに大別できる(図5)。
1つ目は「使い勝手の悪さ」に関するコメントで、「直感的に使えるIF(インタフェース)ではない」や「動作が遅い、UIが使いにくく、得たい情報にたどり着くための手数が多い」「各部門で処理速度が遅いと言われることが多い」などがあった。中小企業は問い合わせへの対応に工数を割きにくいため、使い勝手の善し悪しが業務負荷に大きく影響するのだろう。
2つ目は「運用コストが高い」という不満だ。「オンプレ(Iaas)のため、継続的なバージョンアップが必要」や「機能改善のためのマンパワーの確保が難しい」「業務とのギャップが大きくカスタマイズには大きなコストがかかる」など、ユーザー対応コストはもちろん、ライセンス保守やカスタマイズにコストがかかるといった不満が寄せられた。3つ目は「システムの老朽化」だ。「サービス拡大(利用機能の拡大)に現システムが追い付かなくなっている」といった声が寄せられた。
「SAP 2027問題」を視野に、第三者保守サービスの需要が増加か
こうして寄せられた不満のポイントはERPの課題でもある。現在導入しているERPに関する課題を尋ねたところ、「保守やライセンスのコストが大きい」(26.3%)や「システムが老朽化している」(24.2%)、「運用に人手がかかっている」(24.2%)が上位に挙がった(図6)。
特に不満の大きかった1000人以下の中堅・中小企業では、他規模帯と比べて「業務プロセスにシステムが合わない」(22.9%)や「利用中のシステムのサポート終了期間が迫っている」(20.0%)、「UI/UXが悪く利用しづらい」(17.1%)といった課題が挙げられ、企業の成長スピードや運用面での成熟度にシステムが追い付いていない状況が予想される。
また、SAP ERPのサポート期間が2027年末に迫り、早期の検討が求められている。いわゆる「SAP 2027年問題」だ。1000人以下の中堅・中小企業の20.0%が「SAP ERP(ECC6.0)」を利用している一方で、サポート終了を見越した移行先の一つである「SAP S/4HANA」は8.6%の利用にとどまり、他規模帯と比べて割合が低い。
人件費を含めた保守コストの高騰や、EOS/EOLへの対応、業務プロセスに合わせたシステム設計のためのIT人材確保といった課題への対応策として注目されているのが「第三者保守サービス」だ。
調査の結果、「利用している」は31.3%で、「利用予定」は9.1%となった(図7)。2023年8月に実施した前回調査と比べて「利用している」が0.4ポイント、「利用予定」が1.7ポイントと、微増ではあるが増加傾向にある。ERP運用に課題を持つ企業の選択肢の一つとして今後動向を注視していきたい。
以上、前編では企業におけるERPの利用実態を紹介した。後編ではクラウド型ERPの利用傾向が強まる中で、リプレースのニーズや課題の有無について調査結果を基に紹介する。
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