システム導入で大混乱はもう嫌……紙とExcelをやめたい企業の苦肉の策とは
ある大手フードチェーンは、Excelで作成した大量の紙書類に課題に感じ、新システムの導入を決めた。しかし、かつて別のシステムを導入した際は「現場が大混乱に陥り、毎日のように問い合わせが殺到しました。あんな思いをするのはもう嫌だ――」。悪夢の再来を防ぎたいシステム部門が講じた一策とは。
とにかく紙が多い。仕事関連で紙を使う機会はめっぽう減ったが、日常生活では紙のお知らせや手続き書類が根強く残っている。新年度になり、子供が学校からもらってくる手紙やサッカーの習い事で提出する書類は全て紙、紙、紙のオンパレードだ。
先日、未就学児の娘が熱を出し、病児保育をお願いするために医者の診断書が必要だった。当然、診断書は紙で、病児保育の施設に提出する他の書類も全て紙だ。自治体に紙の書類を提出する必要があるから、というのが理由らしい。
事前にWebの相談フォームで娘の個人情報や症状などを詳しく連絡していたものの、
「紙の書類が必要だとWebに書いていますよ。きちんと紙で提出してください」と言われてしまうと、確かにおっしゃる通りで、ぐうの音も出ない。紙、いっぱいあるな。紙、何とかならんのか。
システム導入で大混乱はもう嫌……大量の紙とExcelをどうやめる?
先日取材をした大手フードチェーンも紙に悩まされていた。各店舗の申請書類や発注書類などを「Microsoft Excel」(以下、Excel)で作成し、大量の紙を出力していたという。新システムで業務を効率化したいが、かつて別のシステムを導入した際は現場が大混乱に陥り、毎日のように問い合わせが殺到した。その悪夢の再来を防ぐためにシステム部門はある策を講じたという。
同社の店舗内の業務フローは紙がメインで、その量は膨大なものだった。Excelで作成した書類を電子メールに添付する運用にしたことで、紙の出力は少なくなったものの、各システムへの転記作業が手間だったという。FAXでのやりとりも依然として多かった。
その企業では、RPA(Robotic Process Automation)を使ってデータ転記を自動化した他、ローコードツールによるWeb DB化によって情報を集約し、業務の大幅な効率化に成功した。人材不足が叫ばれる中、業務の自動化や省力化は喫緊の課題であり、優先順位の高い領域であることは間違いない。
そうしたシステム導入時に最も苦労したことは、現場への展開だったという。全国の店舗には、老若男女のアルバイトがひしめき合っており、当然ながらITのリテラシーはバラバラだ。若い世代であればスマートフォンやタブレットでの入力に慣れているため、新たなインタフェースを用意してもすぐに対応できる。一方で、使い慣れたExcelのフォーマットを変えてしまうと、大混乱に陥る世代もある。
「以前、あるシステムを現場に展開したときは、数カ月の間、毎日のように問い合わせが殺到しました。店舗のマネジャーはアルバイトの教育と問い合わせ対応でお客さまに割く時間がなくなるし、システム部門には現場からクレームがひっきりなしに届く。あんな経験は、もう二度と味わいたくないですよ」とシステム部門担当者は当時の苦い経験について語っていた。
今回は、ローコードツールでExcelとまったく同じフォーマットを用意し、そこにデータを入力してもらうことで現場の混乱を回避したという。運用が落ち着いた段階で、現場と相談しつつインタフェースを変更するというステップを踏むことにした。導入から約1年が経過した現在は、発言権のある現場の担当者と協議を進め、使いやすい環境を整備しているところだ。
どのようなシステムも“慣れ”が必要で、早急な現場展開は失敗の要因になる。同社では、紙の運用が一部残っているものの、それでも着実にデジタル化への道を進んでいる。いずれはシステムのモダナイゼーションにも着手したいと意気込みを語っていた。
ちなみに、役員に対して報告する書類は、今も紙でないとだめらしい。タブレットが使いこなせず、秘書にお願いして出力せざるを得ないようで、「現場の意識改革もそうですが、経営層にも誰かがモノ申してくれるとうれしいんだけど」との恨み節もあった。神、もとい“紙”は偉大だということか。
注意喚起のツールとして大活躍、家庭での紙活用
紙の書類が多いために、我が家にも小さなプリンタが鎮座している。先日、インク詰まりが発生して必要なタイミングに書類を出力できなかった。結局コンビニエンスストアの複合機を使い、何とかことなきを得たが……。
紙について文句を言ってきたもの、実は我が家でも紙が重宝されるシーンがある。子供たちに向けたメッセージだ。
トイレの壁には九九が書かれた紙やあいうえおの一覧とともに、「きちんと便座をあげて小をすること」「電気を消すこと」「トイレットペーパーがなくなったら交換すること」などといった注意書きが貼りだされている。
玄関には「やること一覧」「まいにちセット」なるものが貼られており、洗面所には「手洗いうがいをすること」「せっけんを使って洗うこと」、廊下には「今年の目標:忘れ物をしない」と書かれた紙も……。
子供の目線の高さに貼られた注意書きの効果のほどはさておき、紙の柔軟性はいまだに評価できるものだ。子供が100点を取ったテスト用紙も貼られているが、あれはモチベーションを高める効果につながるのだろう。
いつか注意書きが不要になり、家中に貼られた紙がなくなることを願うばかりだが、いまだに注意していることは直らない。今日も、新たな注意書きが我が家に貼りだされるかもしれない。
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