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7割が老朽化、オンプレPBXに苦しんだJALがZoomを選んだ3つの理由

日本航空(JAL)グループは、老朽化したPBXと固定電話というレガシー電話環境をZoom Phoneによって刷新した。クラウドPBXの選択肢はさまざまあるが、なぜZoom Phoneを選んだのか。移行にどのような壁があったのか。プロジェクトのキーパーソンが語った。

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 老朽化したオンプレミスPBXと固定電話というレガシー電話環境の柔軟性や運用コスト、サポート終了などの課題を抱えた企業がクラウドPBXの導入に踏み切っている。

 JALグループもその1社だ。同社の電話システムは、約160台のオンプレミスPBXと、3500回線の電話回線、約7200台の固定電話を含む大規模なものだった。さらにオンプレミスPBXの約7割が老朽化していたという。

 同社では2000年代前半に、この大規模な電話システム刷新を検討した。しかし「通話品質に満足していたこと、刷新にかかるコストが高かったこと」が理由で刷新を保留した。その後、電話システムの老朽化が進み、「約7割のオンプレミスPBXが老朽化し、更改しなければならない時期に来た」という。同グループの田上智基氏(デジタルテクノロジー本部 システムマネジメント部 コミュニケーション企画グループ グループ長)は「電話システムはITとは少し異なる分野だけに、当社での取り組みはなかなか進んでいなかった」と振り返る。

 ところが今は、「Zoom Phone」への移行が進み、固定電話の削減と年間数百万円に上るPBX運用費用の削減を実現している。田上氏が「Zoom Phone」への移行に踏み切った背景、選定の要件や決め手、現場展開の工夫などを語った。

オンプレミスPBX刷新で留意した3つのポイント


日本航空株式会社 田上智基氏

 田上氏は、「クラウドPBXへの移行を今回検討したのには3つのポイントがあります」と語る。

 1つ目は、オンプレミスPBXの老朽化対策だ。同社では、すでに7割のPBXが老朽化しており、故障時に修理できないものも使い続けていた。

 2つ目のポイントはオンプレミスPBXの運用コストだ。「各社、各部門が個別に電話システムの最適化を考えて、電話番号や電話機を減らしても、大きなコスト削減になりません」と田上氏は語る。

 さらに、レガシーな電話環境によって働き方の柔軟性が損なわれることも課題として挙がった。「固定電話での受電が必要な部署もありますが、テレワークをしていても出社を余儀なくされる人がいます。在宅勤務だけでよい人との間に不公平感が出てきました」(田上氏)

 これら3つのポイントを解決するために、同社は電話システムの移行先を何にするかを検討した。クラウド型PBXは有力な移行先だが、オンプレミス型のPBXのリプレースも選択肢に挙がった。最終的に、同社は次のような要件を定めた。

 「老朽化」の問題は、各拠点PBXの個別対処では間に合わない。新規のPBXの導入やリプレースは莫大なコストがかかる。さらに、各拠点で設備保守管理や電話会社への手配、工事手配、スペース契約といった運用管理業務が発生する。これらを考慮して、コストを一本化、可視化できるシステムが必要だと判断した。

 2つ目の「運用コスト」も同様だ。同社では、グループ内で複数のPBXが稼働し、それらの保守、運用がサイロ化して無駄なコストが発生していた。システム構成をシンプルにして一元管理することでこの問題を解消できると考えた。さらに操作が簡単なであれば、従業員教育のコストや手順書の作成などの作業を省力化できる。

 3つ目の「働き方の柔軟性」に関しては、オンプレミスPBXでは難しく、クラウドPBXへの移行が最適解だと判断した。田上氏によれば、特に重視したのがこの要件だという。

Zoom Phoneを選定した3つの理由

 複数のクラウドPBX製品を検討した結果、同社は3つの理由から最終的にZoom Phoneを選択した。

 同社は「Zoom Meeting」を2018年ごろから導入し、全グループでWeb会議が浸透していた。「従業員が各種機能を理解してうまく使いこなせるようになっていました。使い慣れた画面に電話機能が追加されるだけであれば、現場に受け入れてもらいやすいと考えました」(田上氏)

 他社の製品を利用するならば新しいアプリケーションをインストールし、使ってもらう必要が出てくる。「ITに苦手意識が強い人もいる。Zoom PhoneはZoom Meetingと統合されていて、どこを操作すれば電話ができるのかがすぐに分かる」と田上氏は話す。

 2つ目は、導入から運用管理まで一貫してベンダーに任せられることだ。通信キャリアとの電話回線の契約やライセンス契約、デバイスの準備、電話番号の継続利用といった要件調整、設定、設置、稼働確認などの一連の作業をベンダーに任せられることで、移行の省力化や短期間での展開が可能になった。

 3つ目は、事務電話に対する基本サービスがデフォルトで提供されていることだ。オンプレミスPBXでは豊富な機能が備わっているが使わないものも多かった。Zoom Phoneは、日本企業がよく使う機能が分かりやすく備わっていたと田上氏は評価する。

社内には「ゼロスタートでJALの電話業務を変える」ことを強調

 Zoom Phoneの導入前は、現場にスムーズに受け入れられるようにさまざまな工夫をした。

 「2割くらいの人は現場の安心、安全を考えて少しでもリスクを感じると踏み込んでくれません。その意識を切り替えてもらうことが大事です」(田上氏)

 そこで「電話業務を変える」コンセプトを前面に出した。「古くなったものを更新する、もしくはちょっと良いものが出たから変えてみる」というような概念ではなく、「ゼロから電話業務を見直してください」という問いかけをして、次の項目を強調したという。

  • 新事務電話基盤に「Zoom Phone」を採用
  • 専用内線網を廃止、前者での内線通話が可能
  • 従来の電話機とPC・「iOS」端末からも発着信が可能
  • 自社設置の定期的なPBX更新や保守は不要
  • 必要なときに必要なだけ使える利用料方式を採用
  • 使い慣れた「Zoom Meetingアプリ」で業務開始
  • 既存の電話機との形容も可能(ハイブリッド構成)

 これらの項目を伝えて、移行がストレスフリーであること、操作がシンプルであること、従来のように固定電話が利用できることをアピールした。

 「電話システムが変わるという印象を緩和し、電話業務について考えてもらえるように取り組みました。現場のヒアリングを重ね、従業員の気持ちに寄り添うことが大切です。シンプルで移行が簡単というだけでは現場に刺さりません。まずは業務について聞いてどのように対応できるかを一緒に考えることで、現場は一歩、二歩と歩み寄ってくれます。難しい要件も、業務を整理することで実現できるという展望が見えてきます」(田上氏)

 ツールについては、PBXの基本機能(共有ライン、自動転送、通話転送、保留、通話録音、営業時間設定など)に加え、Zoom Phoneの強みであるコールキューや自動応答(IVR)、コールパーク、Zoom Meeting昇格、ボイスメール機能、通話ブロック、プレゼンス機能などを活用できることを強調した。

新オフィスでは固定電話を約7割削減、年間数百万円のコスト削減も

 同グループは2023年12月からオンプレミスPBXや固定電話、電話回線などを含めて、Zoom Phoneによる電話環境への移行を開始した。まずは天王洲本社の間接部門を中心に移行が完了した。

 「2024年の2月末までに600台の固定電話を約200台にまで削減(削減率67%)できました。電話回線(番号)の削減などによって、2月末時点の試算では約年間数百万円を削減できる見込みです。既存の業務を見直し、コミュニケーションの一部を電話からメールやチャットに移行したことで効率化につながりました」(田上氏)

 今後は、空港の電話設備を順次Zoom Phoneに移行する予定だ。空港では接続条件や運用フローなどに制約が多いため、オンプレミス型PBXをいかに減らせるかに挑戦しているという。当面はオンプレミスPBXとのとのハイブリッド構成を維持し、将来的にはオンプレミス型PBXの全廃を目指す。

 「クラウド型PBXの事務電話におけるシェアは2〜3割です。もっとシェアを上げて、企業間コラボレーションやアイデアの持ち寄り、協働ができる環境になるとよいと思っています。IT部門はモノを入れて維持管理をするだけでなく、ワクワク感をもって、『各種デジタルツールで会話すると楽しい』と遊んでいるような感覚で仕事ができればいいと思っています。部門や職制などの壁を超えて、フラットに上下関係なく一緒に考えてよい方向に向かうのが、本部長の考え方ですし、私たちもさらに一歩踏み出したいです」(田上氏)

本稿は、ZVC JAPAN が2024年4月12日に開催した「Zoom Experience Day Spring」におけるセッション「なぜ、 日本航空はクラウドPBXの導入を決めたのか?」の内容を編集部で再構成した。

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