脱ExcelにはExcelライクなツールが最適 ノーコードツール「Forguncy」って何?
脱Excelが進む背景や、別システムへの移行の壁、移行先として期待を集めるExcelライクなWebアプリ開発ツールの機能やメリット、選定と運用のポイントなどを紹介する。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が叫ばれる中で、データの一元管理や同時編集などに重きを置いた結果、「Microsoft Excel」(以下、Excel)からの脱却を図る動きが活発化している。そこで注目されているのが、Excelライク(Excelに似た)な操作性を実現したWebアプリ開発ツールだ。
本記事では、脱Excelが進む背景や、別システムへの移行の壁、移行先として期待を集めるExcelライクなWebアプリ開発ツールの機能やメリット、選定と運用のポイントなどを紹介する。
本稿は、メシウスが提供するノーコードアプリ開発プラットフォーム「Forguncy(フォーガンシー)」のプロダクトマネージャーである佐々木 謙汰氏にインタビューした内容を編集部で再構成した。
脱Excelを模索する背景
「脱Excel」が盛んな背景には、幾つかの理由がある。まずは、Excelでの情報のバケツリレーが生産性の低下やミスの原因になることだ。「営業担当者がExcelを使って今月の営業データを集計し、上長に送る。上長は部下から送られてきた複数のExcelファイルを集めて、別のExcelファイルに転記する。さらにそのExcelファイルを――」といったフローは多くの現場で見るものだが、情報のやりとりに労力がかかったり、転記ミスなどのヒューマンエラーが起きたりすることは珍しくない。
Excelはファイルベースで動作するため、データの一元化や同時編集がしにくいというデメリットもある。扱うデータが増えると読み込みや処理速度などのパフォーマンスも低下しやすい。
Excelは長年にわたって企業の業務を支えてきたが、情報共有や管理、データ活用における制約が、現在の業務効率化のニーズやDXの要件に合わないとして「脱Excel」の機運が高まっているようだ。
脱Excelの落とし穴と、脱Excel先で考慮すべき機能
しかし、長年Excelに慣れ親しんだユーザーにとって、操作方法が大きく変わることは負担になる。場合によっては、新しいシステムのUIを使いこなせずに「現場が使ってくれない」ということになりかねない。
「幾つかの企業から話を聞いた限りでは、脱ExcelのためにフルスクラッチでWebシステムを構築するケースも多いようです。ブラウザのフォームに情報を入力するようなシステムです。しかし、何度も画面を遷移しなければならなかったり、何かの拍子に画面を閉じたら入力したデータが全部消えてしまったりと、思い通りに作業できないことが多々あるといいます。もちろんスクラッチなので費用もかさみます」(佐々木氏)
「Excelのようにデータをコピペして入力する」「情報を一覧で確認でき、そこから直接データをメンテナンスする」など、Excelで「できていた」要件を満たせなければ現場での展開は難しくなる。
こうした課題を背景に、脱Excelの受け皿として人気を集めているのが、Excelのような操作性でWebアプリを開発できるツールだ。画面デザイン、機能、ショートカットなどがExcelを踏襲して作られているので、慣れたユーザーならExcelを扱うのと同じ感覚でWebアプリを開発し、利用できる。
Webアプリとして、データの同時更新の難しさや、データのやりとりの非効率性といったExcelの課題を解消していることも重要だ。ERPをはじめ各種システムとの連携機能も用意されているので、各システムやExcelファイルに分散していたデータを一元化でき、煩雑な転記作業が不要になる。集めたデータを二次、三次加工してデータ分析をすれば意思決定の高度化にもつながる。
このように、Excelの操作感を踏襲することで現場のユーザーに受け入れられやすく、Webアプリの利点によってExcelの課題を解消でき、高度なデータ分析機能も有していることが多くの企業に支持される理由だという。
なお、脱Excelの移行先としては「Microsoft Access」(以下、Access)や「Googleスプレッドシート」も人気だが、それぞれ一長一短がある。Accessはデータベース機能が強力な半面、開発に専門性が求められる。各PCにAccessのアプリをインストールして利用するため、アクセスの柔軟性は高くない。さらに、多数のユーザーによる同時更新が難しい、Excelと同様にファイルが乱立するリスクがあることが挙げられる。
Googleスプレッドシートはクラウドベースで共同編集が容易だが、Excelの機能を全て踏襲しているわけではないため、結局はExcelを併用するケースも少なくない。情報のサイロ化や非効率な情報連携といった課題をクリアしきれない点に注意が必要だ。
ExcelライクなWebアプリ開発ツールの特徴
以下は、業務システムの開発を支援する「Forguncy」を例に、ExcelライクなWebアプリ開発ツールの特徴を解説する。
Excel同様の操作性でアプリ開発
Forguncyはレイアウトやフォント、操作方法、設定メニュー、関数などのUIや機能を限りなくExcelに近いものとしている。これによって、Excelを操作する感覚でWebアプリを開発できる。開発後はボタン一つでWebブラウザに置き換わり、動作確認後、すぐにリリースが可能だ。開発した業務アプリもExcelのように操作できる。
外部システムとの連携
外部システムとの連携機能によって、データの一元化が可能になる。基幹システムのデータベースと連携させれば、「前年度までの予算・実績数値を参照しながら、今年度の予算数値を入力する」といった予実管理用の入力画面も簡単に構築できる。Forguncyは「特定の範囲のセルを選択して、数値などをコピーして、他のセルに貼り付ける」といったUIを備えているので、ブラウザであってもExcelと同様に作業を進められる。
データを加工してダッシュボードを作成する機能もあり、「マネジャー向けに営業データなどを集計し、グラフなどでビジュアル化した分析画面を用意する」といった使い方も可能だ。
ワークフロー機能
Forguncyは、社内稟議や休暇取得といった申請、承認手続きのためのワークフロー機能を実装できる。集めたデータを一覧化した画面を管理者向けに作ることも可能だ。ワークフローとデータの一元化によって、「Excelファイルのバケツリレー方式」の業務プロセスを大幅に効率化できる。
柔軟な管理機能
ユーザーが自らノーコードでアプリを開発できるようになると、「野良アプリ」の発生リスクが上がる。データベースの定義を理解できていないユーザーが、勝手にフィールドを追加してデータベースを破損してしまい、復元に時間がかかったという例もあるという。データへのアクセスを制限していなかったことで、アプリの画面で「従業員の給料」などの機微な情報がユーザーから丸見えになることも起こり得る。ノーコードでのアプリ開発ツールはそのような事態を防ぐための管理機能が不可欠だ。
Forguncyの管理画面(Forguncy Server)は、アクセス権限・利用ユーザーの管理、データベースへのアクセス監査の他、開発されたアプリのリリース・利用状況を詳細に把握できるログ機能を備えている。こうした管理機能を活用することで、野良アプリの増殖やデータベース破損、意図しないデータの公開などを防ぐことができる。
ExcelライクなWebアプリ開発ツールの選定ポイント
Excelの操作性を踏襲したWebアプリ開発ツールとしてはForguncyの他に「Smartsheet」「CELF」などが挙げられる。選定時はどのような点に留意すべきだろうか。佐々木氏は以下の3点をポイントに挙げる。
(1)既存の資産をどこまで活用できるか
Forguncyの場合、既存のExcelファイルのインポート時に、同時にデータベースを構築する機能がある。見積書であれば、取引先名や商品名、数値などを自動で拾い上げてデータベースとして成形する。大量のファイルをインポートしても、かかる時間は数分程度だという。
VBAでマクロを組んでいる場合、それらに対応できるのかも選定のポイントになる。ForguncyはVBAには対応していないものの、ノーコードでマクロ相当の自動化を設定できる「コマンド」機能を備えている。
なおExcelでガントチャートを自動生成するといった特定の使い方を想定している場合は、そうしたUIが実現できるのかどうかを導入前に確認したい。
(2)現場の使用感をどこまで再現できるか
脱Excelにおいては、ツールを利用する現場が使いやすいこと、受け入れやすいことが重要だ。そのためにはExcelの操作性やレイアウトを限りなく再現できるシステムが望ましい。ほとんどの製品では無料評価版が用意されているので、それを開発者、現場ユーザーが試用し、本当に「Excelライク」なUIを備えているかどうかを確認することが望ましい。
(3)ライセンス体系やシステムの拡張性
ライセンス体系は、ユーザー数に応じた課金体系と、同時接続数に応じた課金体系に大別できる(Forguncyは後者)。前者のユーザー型ライセンスは、利用人数が少ない場合は料金も安く済むが、ユーザー数が増えるにつれてコストが膨らむことになる。後者の同時接続型はユーザー数が増えたとしても金額を最小限に抑えられるため、アプリケーションを利用する人(アカウント数)が膨大になる場合は同時接続ライセンスを検討したい。用途・頻度・ユーザー数に応じて適した課金体系を選ぶことで、想定以上に料金が跳ね上がるといったリスクを防げる。
複雑な開発が必要な場合はオプション料金が必要になることもある。まずは自社が実現したい要件を明確化し、その要件を満たす機能が搭載されているのか確認すべきだろう。
導入後は小さく始めて横展開、運用は情シス主導で
ExcelライクなWebアプリ開発ツールの導入、運用の流れは以下の通りだ。まず、オンプレミス版かクラウド版かを選択する。セキュリティを重視する場合や、基幹システムとの連携を想定する場合は、オンプレミス版が適している。クラウドからオンプレミスへのデータ転送にはコストと時間がかかるため、大量のデータをやりとりする場合もオンプレミスが有利だ。
ちなみにForguncyはオンプレミス製品だが、レンタルサーバ事業者のカゴヤ・ジャパンと提携し、クラウド上でForguncyを利用できるプランもある。もちろん「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」にサーバツールをインストールすれば、クラウドサービスとしても運用できる。
次に、開発環境を整える。Forguncyの場合、サーバに「Forguncy Server」を、開発者のPCに開発ツールの「Forguncy Builder」をインストールする。
開発、運用のフェーズでは、いきなり全社展開を目指すのではなく、一つの部署やチームで試験的に導入し、効果を検証しながらステップアップしていくことが望ましい。現場のユーザーに「自分でも業務アプリを開発できた」と成功体験をしてもらうことが、市民開発を促進するコツだ。
また佐々木氏は、「開発と運用の分担」を推奨している。繊細な運用が必要になるデータベース設計や、セキュリティの肝である権限管理などの全体設計は情報システム部門が担い、開発は現場に近いメンバーが行うのが理想的だ。現場のニーズをくみ取りながら、俊敏にアプリ改善を進められる体制を整えることが肝要だ。
ExcelライクなWebアプリ開発ツールは比較的新しいツールであり、各社が機能開発にしのぎを削っている。業務効率化を実現し、DXを促進するソリューションとして、ますます注目度が高まっていくはずだ。Forguncyも今後、冗長化構成を取れる環境整備や、管理統制の強化といった点で続々と機能開発を進めていく考えだという。
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