大丸松坂屋の大規模な電話システム刷新、製品比較で重視した項目とは?
大丸松坂屋百貨店は、オンプレミス型PBXを「Zoom Phone」に移行して、固定電話をスマートフォンに切り替えた。電話システムの大規模な刷新を決める上で、さまざまな観点から比較検討をしたという。その詳細と、刷新後のメリットとは。
「オンプレミス型PBXが老朽化したため、保守や維持が難しくなっていました」と明かすのは大丸松坂屋本社でバックオフィスの構造改革と業務改革を担う佐藤 隆氏(大丸松坂屋百貨店 業務本部 業務改革部部長)だ。
大丸松坂屋百貨店は、オンプレミス型PBXを「Zoom Phone」に移行し、固定電話をスマートフォンに切り替えた。電話システムの大規模な刷新を決める上で、さまざまな観点から比較検討をしたという。その詳細と、刷新後のメリットについて佐藤氏が語った。
キャリア方式と徹底比較、老舗百貨店に選ばれたZoomPhone
創業1717年の大丸と創業1611年の松坂屋の持ち株会社として2007年にJフロントリテーリングが設立された。2010年には大丸松坂屋百貨店が誕生し、現在は百貨店事業や不動産事業、クレジット事業、2019年に傘下に入ったパルコ事業、その他の子会社を含め計23社のグループに成長している。デジタル化にも積極的で、300以上のファッションブランドの月額サプスクリプションレンタルサービス(会員数12万人)「アートメディア(アートヴィラ)」や化粧品OMO(Online Merges with Offline)の取り組みである「DEPACO」も展開している。同社の公式会員アプリは有効会員数約165万人に上る。
同社では、営業活動とバックオフィス業務のデジタル化にも積極的だ。グループウェアやワークフローなどのITシステムの統合や、RPA(Robotic Process Automation)や電子契約システム、スマートフォンなどを導入している。
現在はZoom Phoneを使った電話システムの刷新に取り組んでいる。
「耐用年数を大幅に越えて保守サポートも切れたPBXを使わざるを得ない拠点もあります。PBXの更改は数億円規模の大事業になることもあります。百貨店は休みがほとんどなく、電話業務を停止できないので工事の日程を確保しにくいという問題もあります」(佐藤氏)
こうした理由から、オンプレミスPBXの刷新ではなく、クラウドPBXの導入を決めたという。図1は、電話システム刷新の方式について比較ポイントをまとめたものだ。
インターネット回線を利用するクラウドPBXは機器設置の必要がなく、SIMなしのスマートフォンやPCも利用できる。イニシャルコストは端末費用とネットワーク工事費用のみで、ランニングコストも削減可能だ。機能の拡張性も高いと判断した。
固定電話機のスマートフォンに移行することによるランニングコストや、オンプレミス型PBXの減価償却費や保守費用、端末費用を10年間のTCO(総保有コスト)で比較した数字も合わせて社内で共有し、クラウド方式アプリ型の優位性が際立っていることを説明した。
クラウド方式アプリ型はZoomと他社のサービスを試して比較し(図2)、Zoom Phoneによる電話システムを構築することに決めた。
「事業部門は音声品質を重視します。Web会議で「Zoom」の音声品質は分かっていましたが、比較検討時もZoom Phoneが優れていました」(佐藤氏)。
現場ではPBX代替のメリットを超えるチャットや録音、音声合成機能が好評
まずは札幌店にZoom Phoneを導入し、運用を開始した。事業部門は上記の比較項目には含まれていない効果に心ひかれた従業員が多かった。
「4桁の数字をタッチすれば通話できる操作性の良さと、チャットを効果的に使えること、通話を録音できること、自動応答用に音声合成ができることが評価されました。『本日の営業は終了しました』などの定形的なメッセージを簡単に作成できます」(佐藤氏)
固定電話は1万台のスマートフォンに移行して、現場のコミュニケーションが進化した。事業所内にはWi-Fiを張り巡らし、携帯電話網と使い分けることでストレスのない運用ができている。
「百貨店には1拠点600店舗ほどのショップがありますが、それぞれに固定電話機がありました。これを全てスマホに置き換えています。チャットが使えるようになるので、これまでフロアマネジャーが各ショップに紙や電話で連絡していた設備の故障や顧客への案内、注意喚起といった事項をグループチャットで一斉に伝えられるようになりました。緊急対応が必要な伝言や、朝会・説明会のお知らせ、設備の障害通知、閉店時間の変更通知などもチャットで伝えられるようになりました」(佐藤氏)
参考までに、同社のZoom Phoneの導入フローは図3の通りだ。この資料を基に、次の拠点への展開をスムーズにしている。2024年度中にはZoom Phoneの全店展開を完了する計画だ。
管理者としてZoom Phoneの多彩な機能と管理機能に感嘆
佐藤氏は、Zoom Phoneの管理機能についてもメリットを感じているという。
「百科店は、複雑で多様な電話機能を必要とします。オンプレミスPBXで機能を追加しようとすると追加費用がかさみ断念したこともありました。Zoom Phoneは必要な機能を実現できます」(佐藤氏)。
管理画面でユーザーやグループの作成や番号付与、留守番電話音声の作成(音声合成)、通話録音設定などが可能だ。スマートフォンは従来のビジネスフォンの機能である複数番号受電および発信、保留、転送などを利用している。IVR(自動応答機能)やラウンドロビン(リスト順に電話を着信させる機能)は標準機能として備わっている。
佐藤氏は代表電話にかかってきた顧客の要件を現場につなぐ工数をいかに効率化できるかにこだわったという。取次ぎをするスタッフは、顧客の用件をショップに伝え、理解してもらった上で電話の発信者に「どうぞお話しください」と伝える。この一連のやり取りをスマートフォンでもスムーズにできたという。
一方で、携帯電話網の使用時に通信品質が安定しない場合があることや、米国のシステムであることから番号非通知の着電を「Anonymous」と表示するためユーザーがハッカー集団からの電話かと怖がったことを「改善してほしい点」だと話す。
電話交換業務をAIが担う未来
2025年以降は、在宅勤務の従業員がインターネットを介して電話交換業務をできる環境を整え、ゆくゆくはAIがその業務を代替できるようにすることを考えている。
Zoomには機械学習の共同研究のために、全店で1日約3000種の交換種の音声データを提供し、そのデータによる教師なし学習と、返答のパターンを学ばせる教師あり学習をする提案をしている。ゆくゆくは企業内に閉じた環境で運用したいと佐藤氏は話す。
本稿は4月12日に開催されたZVC Japan主催の「Zoom Experience Day Spring」での講演内容を編集部で再構成した。
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