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決断を迫られるSAPのECCユーザー S/4HANAのメリットを再確認しよう

SAP ERP 6.0のユーザーは、2027年のサポート終了を前に厳しい決断を迫られている。さまざまな選択肢がある中、改めてSAP S/4HANAのメリットを確認してみよう。

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 「SAP ERP 6.0」(以下、SAP ECC)のユーザーは厳しい決断を迫られている。

 企業の主な選択肢は、SAP ECCにとどまってSAPがサポート終了日を2027年以降に延期することを願うか、「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)への移行をするか、第三者保守サービスを活用してSAP ECCを延命するか、全てを破棄して別のERPに移行するかのいずれかだろう。

S/4HANAが企業にもたらす9つのメリット

 多くの企業がS/4HANAへの移行は理にかなっていると考えている。統計データを提供するオンラインプラットフォーム「Statista」によると、SAPは2021年第3四半期におけるS/4HANAの加入数を1万7500以上と報告しており、前年同期の1万5100社から増加している。

 専門家によると、S/4HANAには「柔軟性」「コスト削減」「HANAインメモリデータベースによる分析の高速化」など多くのメリットがあるという。SAP ECCよりも使いやすく、クラウドへの移行も容易な可能性がある。

 以下は、S/4HANAがビジネスにもたらす9つのメリットだ。

1.ビジネスモデルの更新が容易

 SAP ECCは、近年ほどの急速な変化を強いられていないビジネスモデルのために構築された。これに対して、近年のビジネスモデルは、高度なテクノロジーや顧客の期待、サプライチェーンの混乱、ハイブリッドなワークフォースなど、さまざまな影響に対応しなければならない。

 コンサルティング企業のClarkston Consultingのアナンド・ナタラジ氏(シニアプログラムマネジャー兼SAPプラクティスリード)は「データを活用し、新しいビジネスモデルにシフトする機会が拡大する中で、企業はS/4HANAを使用してビジネスモデルを容易に変更できる」と述べた。

 S/4HANAはゼロから構築されているため、現在の企業のビジネス手法を考慮している。同氏は「変更を加えたり企業を買収したり、新しい販売チャネルを導入したりしたい場合、このプラットフォームは新しい領域への進出を容易かつ迅速にしている」と付け加えた。

2.企業買収による変更をERP環境に容易に統合可能

 消費財の世界では、企業は小規模なブランドを買収することで新しい市場に進出し、補完的な製品を提供してきた。S/4HANAがローンチされる以前は、こうした買収による変更をSAP ECCシステムに取り込む必要があり、それには多くの時間と多くのリソースが必要だった。

 ナタラジ氏は「S/4HANAで企業は、買収先を必ずしも自社のコアに組み込む必要はなく、むしろSAPのパブリッククラウドに維持できる」と述べた。

3.所有コストの削減

 S/4HANAは、Global Available-to-Promise(グローバルATP)やマスターデータガバナンスなどの機能をコアに取り込んでいる。ナタラジ氏は「インフラストラクチャの観点から、管理するボックスが少ないことは所有コストとメンテナンスコストの削減を意味する」と考える。

 マネージドクラウドプロバイダーであるSyntaxのロアン・ロウ氏(SAPソリューションアーキテクト)は「S/4HANAが実現する共有インフラストラクチャによって、企業は5年ごとにアップグレードが必要なベアメタルインフラストラクチャから脱却できる」と述べている。SAPを仮想化するとともに、パブリッククラウドやプライベートクラウドを利用して、インフラストラクチャを統合できる。

 ロウ氏の推定によると「旧来の物理インフラストラクチャからS/4HANAがサポートするクラウドネイティブな環境に移行することで、企業はITコストを11〜17%削減できる」とのことだ。

 その計画は非常に重要だ。「企業が移行を適切に計画しなければ、SAP ECCやその他のERPシステムからのアップグレードは、コスト超過を引き起こす可能性がある」と同氏は注意を促した。

4.より迅速なインサイト分析

 HANAのインメモリデータベースで稼働するS/4HANAは、パフォーマンスを飛躍的に向上させる。ロウ氏は「スマートなデータ設計によって、集計テーブルやデータの冗長性が削減され、効率が向上する」と語る。ナタラジ氏は「データをデータウェアハウスに保存し、ロードされるのを待つ必要がなくなる。コアERPシステムはアナリティクスを提供し、より迅速な洞察を得られるようになる」と付け加えた。

 そしてロウ氏は、次のように述べた。

 「ビジネストランザクションとアナリティクス機能が同じシステムに存在することで、洞察も早まる。企業はシステムやアプリケーションを切り替えることなく、単一のソースを使用し、一つのアプリケーション内で簡単かつ迅速に意思決定し、ビジネスプロセスを完了できる。これは非常に大きな効率の向上と時間の節約になる」

5.より正確な予測

 組み込みAIと機械学習アプリケーションは、S/4HANAのモデリングや予測を改善するために、ゆっくりと着実に進化し続けている。例えばある小売業者は、ユニバーサルデータエレメントフレームワークを使用して、過去のデータに基づく需要予測をし、天候のようなサードパーティーの要因を取り込むことができる。

 ナタラジ氏は「小売業者は指定された地域で特定の製品の需要を予測するモデルを開発できる」と述べた。

6.期末決算業務の迅速化

 財務部門にとって、データベースの高速化は期末決算業務の迅速化につながる。ナタラジ氏は、「企業はリアルタイムで会計を調整し、現在の財務状況を示すレポートを受領できる。また、S/4HANAでAIや機械学習を適用することで予測会計もできる」と述べた。

7.資産の予防的な管理

 インメモリデータベースや機械学習、AIを活用して、企業は産業用IoTセンサーとS/4HANAを組み合わせた予測分析をできる。製造現場は資産を監視し、機械が故障した場合にアラートを受け取れる。

 ロウ氏は「センサーは24時間365日稼働し、振動や温度、動きを常に監視している。基準測定値によって、企業は機械のメンテナンスが必要な時期や故障の可能性を予測し、より高額な修理や予期せぬ停止を回避できる」と述べた。

8.よりシンプルなユーザーインタフェース

 SAPは、20年以上慣れ親しまれたユーザーインタフェースであるGUIを捨てたわけではない。しかし、ロウ氏によると、SAPはS/4HANA向けにユーザーインタフェースを再設計し、強化されたビジネスプロセスをより反映できるようにしたようだ。

 また、企業は標準的なビジネスタスクを「iOS」および「Android」デバイスで実行するため、S/4HANAに埋め込まれている、または、スタンドアロンモジュールとして利用可能なHTML5ベース(SAPUI5)の「SAP Fiori」のユーザーインタフェースを使用できる。

9.面倒な作業を自動化

 S/4HANAは、簡単なプロセスを自動化する。手動のレポート作成といったタスクを自動化することで、従業員はより生産的なアクションに集中できるようになる。プロセス自動化ツールを追加して高速化・合理化することも可能だ。

S/4HANAは柔軟性が鍵

 S/4HANAを新規導入するグリーンフィールドを計画している場合でも、既存のアドオンを引き継ぐブラウンフィールドを計画している場合でも、S/4HANAに移行する企業は新しいビジネス買収したり資産を監視したりする負荷が下がり、従業員を日常の業務から解放できるといった柔軟性を得られるだろう。

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