「プロジェクト管理ツール」だけでは不十分 プロジェクト管理の基本と失敗を避けるアプローチを解説:「IT担当者300人に聞きました」をななめ読み
プロジェクト管理ツールは全ての問題を解決する魔法のつえではありません。効果的なプロジェクト運営には、ツールの機能を超えた包括的なアプローチが必要です。プロジェクト管理の全体像を再認識し、その成功に必要な要素を掘り下げます。
「キーマンズネット」の読者調査「なぜテレワーカーの多いプロジェクトは失敗しがち? 読者の考える原因と解決策」によると、8割以上の人が「プロジェクトの失敗経験がある」と回答しています。その背景には、テレワークにおけるプロジェクトの失敗経験が強く反映されています。
ピックアップされた課題としては「進捗(しんちょく)管理の難しさ」「タスク管理の難しさ」が挙げられ、プロジェクト管理ツールによる解消を期待されている様子が伝わります。しかし、プロジェクト管理ツールは全ての問題を解決する魔法のつえではありません。効果的なプロジェクト運営にはツールの機能を超えた包括的なアプローチが必要です。
本記事ではプロジェクト管理の全体像を再認識し、その成功に必要な要素を掘り下げます。
プロジェクトの目的とゴールの明確化
プロジェクト成功の第一歩は、明確な目的と具体的なゴールを設定することです。これによって、プロジェクトチーム全員が共通の目標に向かって努力する基盤を築けます。
多くの参加者が暗黙知や共通文化を持っていると、どこか曖昧な要素を残した状態でプロジェクトがスタートしてしまいます。そして、目標が明確でないプロジェクトは、方向性が見失われやすく、期待される成果を出すことが困難になります。
ゴール設定における評価基準の必要性
ゴールを設定する際には、単に達成すべき目標をリストアップするだけでなく、それらの目標がどのように測定されるかについての基準も定義する必要があります。これは目標の達成度を客観的に評価するために不可欠です。
評価基準はプロジェクトの具体的な成果物や、成果が計画通りに進んでいるかどうかを判断するための指標となります。具体的には、次のような方法で評価基準を設定します。
- 定量的な指標: 成果を数値で表せる指標を設定し、達成度を明確に測定できるようにします。例えば、売上目標や生産数量、市場シェアの増加率などがあります。適切な目標設定のために、社内の専門家が責任を持ってプロジェクトに参加する必要があります
- 定性的な指標: 数値では表現しづらい品質や満足度など、定性的な側面を評価する基準も重要です。主観による評価にならないように設定することが重要で、例えば顧客満足度調査や製品の品質評価などが該当します。
SMART基準
ゴールはSMART基準(具体的であること、測定可能であること、達成可能であること、関連性があること、時間的に制限されていること)に沿って設定されるべきです。この基準に従うことでゴールが現実的で達成可能なものとなり、プロジェクトの計画と進行がスムーズになります。
このように、プロジェクトのゴールを明確にして適切な評価基準を設定することで、プロジェクトの進捗を正確に把握し、計画に沿って効果的に進めることが可能になります。
リソースの効率的な管理
プロジェクトの成功を確実にするためには、利用可能なリソース(人材、資金、時間、設備)を効果的に管理することが不可欠です。適切なリソース管理は、プロジェクトのスムーズな進行に役立ち、コストと時間を節約することにつながります。
リソース管理の重要性とその影響
プロジェクトの進行でリソースの適切な配分と管理は中心的な役割を果たします。ゴールやリソース管理が意識されることがなく、期間のみに焦点が当てられたプロジェクトは失敗する可能性が高まります。
期間だけを重視すると焦りを生み、品質の低下や重要なタスクの見落とし、リソースの無駄遣いが発生するリスクが高まります。プロジェクト計画は、冷静な心と強い達成意欲の両立を必要とします。
効率的なリソース配分の方法
- 見積もりとアサイン: プロジェクト開始前、必要なリソースの種類と量をできる限り正確にリスクを見据えて見積もり、各フェーズやタスクに適切に割り当てます
Tips: 見積もりの傾向として、製造系の人は自分のベストエフォートを見積もり根拠とするため過少申告になりがちです。営業系の人は顧客へのコミットを要するというリスクを避けて過剰申告する傾向があります。意見を出し合ってバランスをとりましょう。
- モニタリングと調整: プロジェクトの進行中にリソースの使用状況を継続的に監視し、不足が見られる場合は迅速に調整します。リソースの過剰または不足による問題を未然に防ぎます
Tips: 進捗状況は担当者の自己申告ベースになりますが、「オンスケ(オンスケジュール)です」という報告をうのみにすると後になってトラブルが露見します。私は「夏休みの宿題現象」と名付けています。
それほど進捗がない状況でも、まだ間に合うという思い込みや自己弁護によって「今はまだ間に合うので大丈夫です」という意図でオンスケと報告していることが大半です。仮に前倒しできているタスクがあれば詳細を話すでしょう。
- リバランス(計画見直し): 変化するプロジェクトの要件と進捗状況に柔軟に対応するため、定期的にリソース管理計画を見直し、必要に応じてリソースを再配分します
Tips: プロジェクトのリソースに「余裕資金」を作れれば勝ち筋が見えてきます。プロジェクト前半から、計画の前倒しを意識して進めましょう。
また、進捗の遅れに対する早めの対応が失敗予防の鉄則です。しかし、担当者のサボりを許容することにならないように内容を見極める必要があります。成果物の品質とリソース配分が適当な範囲におさまるよう管理することがプロジェクトマネジャーの責務です。
プロジェクトのリソースを効率的に管理することで、遅延を避けることや予算内に最高の成果を出すことが可能になります。リソース管理は、単にリソースを割り当てるだけでなく、プロジェクトのライフサイクル全体を通じてこれらを最適化し、適応させるプロセスです。
コミュニケーションの重要性
プロジェクトの成功に効果的なコミュニケーションは欠かせません。本調査でも失敗要因として「関係者とのコミュニケーション不足」が1位に挙げられていました。
透明で一貫したコミュニケーションは誤解を防ぎ、プロジェクトの各ステージでのスムーズな進行の血液となります。放置すればよどんでしまうがプロジェクトコミュニケーションの特徴です。常に循環し、行き渡るように配慮し続けましょう。
コミュニケーションプラン
プロジェクト開始時にコミュニケーションプランを明示することが大切です。最低限、以下の3点を決めてください。
- 定例ミーティング: プロジェクトの課題と進捗状況を確認し、重要事項を判断するために定期的なミーティングを設定します。あらかじめ決定しておくことでスケジュール調整の煩わしさを解消し、欠席者を出さない運営が可能にします
Tips: 定例ミーティングへの欠席が目立つメンバーはプロジェクトから排除します。少なくとも重要な役割を持たせることは厳禁です。この決断が遅れるとプロジェクト失敗の原因となるので注意してください。
- 情報プラットフォーム: チームメンバー間で情報を共有するためのプラットフォームを定義します。例えば、プロジェクト管理ツールやチャットツール、ファイル管理ツールなどが挙げられます。各ツールで共有する具体的な内容を決定することで、プロジェクト内の情報濃度のばらつきや散在を予防できます
Tips: プロジェクトに関する報告、相談などはオープンなツールでやりとりすることを徹底しましょう。非公式のグループチャットや個人間メッセージでプロジェクト関連の情報をやりとりしているメンバーが出現することがありますが、これは情報漏えい、重要事項の隠蔽(いんぺい)などにつながるため認められません。
- 責任範囲: 各メンバーの責任範囲を明確にします。そうすることで、製造やマーケティング、営業、情シスなど、それぞれに期待される立ち位置から意見しやすく、また、相互に意見を聞きやすい状態を保てます。定例ミーティングの参加メンバーは責任範囲に照らし合わせて選定し、その立場からの発言を促しましょう
Tips: ミーティングで無責任な立場から感想を言うことは禁止しましょう。ミーティングの進行を妨害するばかりでなく、必要な発信の遅延や議論の停滞を常態化させる危険性があります。傾向として社歴や年齢の高い人がやってしまいがちです。
チームの強度とレスポンス
プロジェクト進行中には、多種多様、大小さまざまな問題が発生し続けます。プロジェクトをスムーズに進めるために、最も注目すべきポイントは「チームの強度」です。
チームの強度はスポーツ用語なのでビジネスで耳にすることはあまりありませんが、日常的なチーム内規律の徹底、目標へのコミット、プレイ(業務)における質と集中力を高く保つことができるかどうかを「強度」と表現します(ここで言う強度は運動負荷のことではありません)。強度が高いチームでは、どんな小さなほころびであっても、その気付きをアラートとして共有して全員で対応することが求められます。そして、アラートに対するレスポンスがチームの強さに直結すると考えられているのです。
私はこの考え方に強く共感し、プロジェクトマネジメントにおける重要事項と捉えています。強度の高いチームには厳しさとスムーズなコミュニケーションが欠かせません。否定的な言葉を用いることなく、より良い結果を出すために話し合えるように、チームメンバー相互にリスペクトを持ちましょう。
ステークホルダーの期待値マネジメント
ステークホルダーの期待値を適切に管理することは、ステークホルダーの受け入れとプロジェクトの成功を大きく左右します。改めてその手法をステップに分けて見ていきましょう。
- 要件定義: プロジェクトの目的や背景、スコープ、成果を要件として明確化し、QCD(品質、コスト、納期)を定義します。同時にゴール設定と評価基準を定めることが重要です
- モニタリング・コミュニケーション: プロジェクトの進捗と変更内容を逐一報告します。特に納品物に影響がある可能性とQCDの変化は重要事項と捉え、ステークホルダーの期待値を現実的なものに調整し続けます。場合によってはプロジェクトプラン自体を見直すこともあります
- レスポンス: ステークホルダーからのフィードバックへの対応は、迅速かつ効果的であることを心掛け、信頼を勝ち取りましょう。決して不安を呼び込んではなりません。プロジェクトマネジメントでステークホルダーの不安はアキレス腱となります
- 評価: 要件定義で定めた評価基準でプロジェクトの成果を評価します。ステークホルダーとプロジェクトの成功を共有しましょう
プロジェクト管理ツールの適切な活用
プロジェクト管理ツールはプロジェクトの成功のために非常に有効です。読者調査「プロジェクト管理ツール、コストやカスタマイズ性を抑えた“断トツ”の重視ポイントは?」においても、満足度が年々高まっている様子が分かります。
しかしプロジェクト管理ツールは魔法のつえではありません。最大の効果を発揮するためには以下の要素に注目しましょう。
ツールの選択と導入
プロジェクトのニーズに合わせて適切なプロジェクト管理ツールを選択することが重要です。
ツールは多様な機能を提供しており、タスク管理やスケジューリング、リソース管理、コミュニケーションといったプロジェクトの核となる活動を支援します。選択したツールがユーザーフレンドリーで、チームの動態に適合しているかどうかを確認し、プロジェクトの効率化を図ります。
ただし、多機能であるがために既存の社内ツールと役割が重複する可能性があります。全社導入を検討する場合は、情報システム部門としっかりと議論してください。ツールの導入によっては導入コスト、運用コストの評価が変わることもあります。
トレーニングとエンゲージメント
ツールの導入後は、チームメンバーに包括的なトレーニングを提供し、全員がツールを最大限に活用できるよう支援します。継続的なサポートとトレーニングを通じて、チームのエンゲージメントを高め、ツールの使用を促進します。
その際、「個人のタスク管理が一部Microsoft Excelでされている」といった事態は回避してください。情報が分散するとプロジェクト管理ツールが機能しなくなります。
モニタリングと最適化
ツールの利用状況を定期的にモニタリングし、プロジェクトの進捗に合わせて調整します。フィードバックを積極的に取り入れ、ツールの設定や機能を最適化することで、チームのパフォーマンスを向上させます。特に他ツールとの連携やカスタマイズの要望事項はプロジェクト管理ツールの不満点を示すため、注目すべきフィードバックです。
全体戦略としてのツール利用
プロジェクト管理ツールは、プロジェクトの成功をサポートするための手段の一つです。ツールの導入をプロジェクト管理の全体戦略の一部として位置付け、組織全体のコミットメントを得て、初めてその効果を発揮します。
リモート環境におけるプロジェクト失敗経験を生かした運用戦略を展開してください。セキュリティへの配慮も重要な視点なので、ユーザーが忘れることの無いよう啓蒙し続けることも重要です。
まとめ プロジェクト管理ツールがもたらすもの
プロジェクト管理ツールを活用することでプロジェクトの透明性が向上し、コミュニケーションがスムーズになり、リソースが効率的に管理されます。これによって、プロジェクトチームはより一層の成果を出すことが可能となり、プロジェクトの成功率が高まります。
ただし、プロジェクト管理の成功にはツールの導入を超えた広範な知見や経験と、組織全体のコミットメントに依存します。プロジェクト管理ツールを活用することは有益ですが、それに依存するのではなく、全体的なプロジェクト管理戦略の一部として位置付けることが重要です。
私はこれまでに多くのシステム開発プロジェクトに参加してきた中で、数々のプロジェクト管理ツールを使ってきましたが、その基本は変わっていないように思います。
- 情報の集中: 分散させず、二重管理を回避できること
- 情報の共有: メンバー全員が必要な環境下で読み書きできること
- 情報の管理: アクセス権限を適切に設定できること
ざっくりと集約するとこの三点で整理できるでしょう。これらの観点から自社の事業やシステム環境、カルチャーになるべく合致するものを選んでください。完璧なフィットを目指してしまうと、コスト増と将来の不自由を呼び込んでしまうことに注意して、ベターな環境選定と運用の工夫で成果を出してください。
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