Microsoft 365のTeams分離プランは損か得か 検討ポイントを専門家が徹底解説:新プランを読み解く
Microsoft 365、Office 365からMicrosoft Teamsが分離された。ユーザーは今後、Teamsあり/なしどちらのプランを選択するべきか。検討のポイントを専門家に聞いた。
米Microsoftは2024年4月1日、法人向け「Microsoft 365」「Office 365」と、コミュニケーションツール「Microsoft Teams」(以下、Teams)とのバンドルを解除し、独立したサービスとして提供することを発表した。これに伴い、今後の契約変更や新規契約において、「Teamsありプラン」または「Teamsなしプラン」を選択する必要が生じる。
この発表を受け、自社のプランをどうするか検討し始めている企業もある。キーマンズネットが実施した「Microsoft 365価格改定に関するアンケート調査」(実施期間:2024年4月19日〜5月10日、回答件数:219件)では、今回の改訂を受けて約22%がプラン変更を検討していると回答した。
プランによっては実質的な値上げとなっている今回の改訂だが、MicrosoftがTeamsを分離した狙いはどこにあるのか。プラン変更を受けて既存ユーザーはどのような意向を示しているのか。また、プラン選択の際はどのようなことを考慮すべきか。Teamsなしのプランを選び、サードパーティー製の製品を組み合わせて利用する場合の注意点とは。Microsoft関連ソリューションを提供する内田洋行の太田浩史氏(エンタープライズエンジニアリング事業部)に聞いた。
プラン改定の経緯と背後にあるMicrosoftの思惑
今回のTeams分離劇の舞台裏で大きな影響力を及ぼしたのは、欧州委員会の存在だ。欧州委員会は以前から、巨大IT企業による市場支配力の強さに一定の懸念を抱き、公正な競争環境の整備を目指して規制を強化してきた。Microsoftもその例外ではなく、過去には「Windows Media Player」や「Internet Explorer」を巡って、独占禁止法違反の疑いで巨額の制裁金を科された歴史を持つ。
Teamsに対しても欧州委員会は、「Microsoft 365」「Office 365」とのバンドル提供が市場競争を阻害する可能性を指摘し、調査を進めてきた。その対応としてMicrosoftは2023年10月より、欧州経済領域(EEA)およびスイスでバンドルを解除して新しい価格プランの提供を開始した。今回の発表は、その適用範囲を全世界に広げたものだ。
Microsoftのニュースリリースには、「グローバルに一貫したライセンスは、顧客にとっての透明性を確保し、意思決定と交渉を効率化するのに役立つ」といった文言が書かれている。内田洋行の太田浩史氏(エンタープライズエンジニアリング事業部)は次のように分析する。
「Teamsの分離が検討されているといううわさは以前からありました。今回の変更は、ユーザーの声に応えたというよりも、EUの要請に応えたかたちといえます。今回のプラン変更は、実質的な値上げにつながっています。もともと値上げをしたかったMicrosoftが今回の件を機にプラン変更を実施した、とも考えられます」
既存ユーザーへの影響は? ユーザーが懸念するポイントへの答え
今回の新価格体系は、大企業向け、一般法人向け、フロントラインワーカー向けプランが対象だ。それぞれのプランで、旧バージョンの継続利用、新規利用に関する対応が異なるので注意が必要だ。新たな契約プラン(全て税抜き)は次の通りだ。
大企業向け製品
新規契約をする場合、または契約内容を変更する場合、下記の新ライセンスでの契約が必要となる。新ライセンスの「Microsoft 365」「Office 365」には、Teamsが含まれていない。なお、2024年3月31日までに契約した既存顧客は、今まで通りTeamsを含むプランを継続して利用できる。
大企業向けプラン(Teamsなし) | 価格(1ユーザー/月) |
---|---|
Office 365 E1 (no Teams) | 1161円 |
Office 365 E3 (no Teams | 3110円 |
Office 365 E5 (no Teams) | 5359円 |
Microsoft 365 E3(no Teams) | 5059円 |
Microsoft 365 E5(no Teams) | 8208円 |
一般企業向け製品
一般企業(中小企業)向け製品では、Teamsを含むプランと、含まない新プランを選択できるようになった。Teamsありプランは価格が据え置きだ。つまり、ユーザーにとっては単純に選択肢が増えただけなので、歓迎すべきアップデートといえる。
一般企業向けプラン(Teamsあり) | 価格(1ユーザー/月) |
---|---|
Microsoft 365 Business Basic | 899円 |
Microsoft 365 Business Standard | 1874円 |
Microsoft 365 Business Premium | 3298円 |
一般企業向けプラン(Teamsなし) | 価格(1ユーザー/月) |
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Microsoft 365 Business Basic(no Teams) | 712円 |
Microsoft 365 Business Standard(no Teams) | 1536円 |
Microsoft 365 Business Premium(no Teams) | 2961円 |
フロントラインワーカー向け製品
フロントラインワーカー向けも一般企業向けと同様に、新旧プランが併売される。
フロントラインワーカー向けのプラン(Teamsあり) | 価格(1ユーザー/月) |
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Microsoft 365 F1 | 337円 |
Microsoft 365 F3 | 1199円 |
フロントラインワーカー向けのプラン(Teamsなし) | 価格(1ユーザー/月) |
---|---|
Microsoft 365 F1 (no Teams) | 262円 |
Microsoft 365 F3 (no Teams) | 1124円 |
Teams単体製品
Teams単体でも提供されることになった。単体製品は、大企業向けの「Microsoft Teams Enterprise」と小規模企業向けの「Microsoft Teams Essentials」の二つに分かれる。
Teams単体製品 | 価格 |
---|---|
Microsoft Teams Enterprise | 787円 |
Microsoft Teams Essentials | 599円 |
「今回の発表を受けて、当社のお客さまからたくさんの問い合わせがありました。特に多かったのは、“次のライセンス購入や契約更新時に、見直しが必要になるのでは?”という懸念です。それに対しては、“既存ユーザーは現行プランを引き続き使用でき、契約更新も可能です」(太田氏)
価格が変わらないのであれば、現行の契約を継続する企業が多いと推察される。特に大企業ほど「Microsoft 365」「Office 365」の浸透率が高く、Teamsも一般的に利用されている。その状況から、コミュニケーションツールだけを他のものにリプレースすることは、ユーザーの負担やコスト、データの移行など、さまざまな面でハードルが高い。引き続き「Teamsあり」を利用するのが無難な選択となるだろう。
内田洋行の既存ユーザーからも、「Teamsなしプランに乗り換えたい」という声はそれほど聞かれないと太田氏は語る。今回の変更が、コミュニケーションツールのシェアに与える影響は少ないといえそうだ。
一方で、新規ユーザーは状況が異なる。「Microsoft 365」「Office 365」の大企業向け製品を新たに契約する際は、「Teamsなしプラン」しか選択できないからだ。そして、「Teamsなしプラン」に「Teams単体製品」を組み合わせて契約すると、旧セット販売よりも価格が5%程度上がることになる。
従って新規ユーザーは、「Teamsなしプラン」+「Teams単体製品」を契約するか、あるいは「Teamsなしプラン」+「他のコミュニケーションツール」を契約するかで迷うケースも出てくるだろう。
Teamsなしプランを選ぶ動機は?
これに対して太田氏は、「『Slack』や『Zoom』などのコミュニケーションツールの法人向けライセンスは、Teams単独製品と比べてかなり高額」と指摘する。それでもSlackやZoomを利用したいと考えるのは、どのようなケースだろうか。
企業全体でTeamsを利用しているものの、特定の部署では他社との関係上、SlackやZoomを利用しているというケースが考えられる。ツールの重複があるとは理解しつつ、SlackやZoomのライセンスを契約するということだ。ただしそういったケースでも、結局は社内でのコミュニケーションにTeamsが必要となるため、「Teamsなしプラン」を選ぶことは考えにくい。
では、「Teamsなしプラン」を選ぶのはどのような企業なのか。
「特に中堅・中小企業で、すでに導入しているSlackやZoomを引き続き利用しつつ、新規にMicrosoft 365やOffice 365を導入したいというケースがあるとしたら、Teamsなしプランを選ぶことになるでしょう。使い慣れたコミュニケーションツールをTeamsに移行することは、ユーザーにとっても情報システム部門にとっても大きな負担となるからです」(太田氏)
Teamsの使い勝手に大きな不満があり、SlackやZoomを利用したいと考えるユーザーも、「Teamsなしプラン」を契約したいと考えるだろう。「Microsoft 365」「Office 365」はさまざまなアプリケーションを統合した汎用製品であり、Teamsもそれらとの連携を重視して開発されている。専用ツールであるSlackやZoomと比べると、使い勝手が劣ると評価するユーザーもいる。
さらに、普段から多様なITツールを適材適所で組み合わせて使い分けている中小企業もある。メールは「Gmail」、チャットはSlack、会議はZoom、ファイル保存は「Box」といった具合だ。そのようなIT活用度が高い企業にとっては、Teamsなしプランが理想的な選択肢となるかもしれない。
Teamsなしプランと他のツールを組み合わせて利用する際の注意点
では、TeamsなしのMicrosoft 365/Office 365と、SlackやZoomなどのコミュニケーションツールを組み合わせて利用したい場合、注意すべきことは何だろうか。太田氏は、「Microsoft製品との連携性を事前に確認しておく必要があります。価格だけで安いプランを選ぶと、連携が不十分なこともあるからです」と指摘する。
Slackには、プロ、ビジネスプラス、Enterprise Gridの3つのプランがある。プロプランは最も価格が安いものの、「SAMLベースのシングルサインオン(SSO)」が利用できないなど、セキュリティ機能や管理機能が限定されている。このように、プランによっては自社が必要としている機能を備えていないこともあるので注意が必要だ。
また、Slackなら、OneDriveまたはSharePointなどのMicrosoft製品と連携させて便利に使う方法もある。具体的にどのように連携できるのか、自社ではどのような使い方が可能なのかも、導入前に調べておいた方が良いだろう。
「Microsoft 365」「Office 365」からのTeamsの分離は、多くの企業にとってはさほど影響がないため、ほっと胸をなで下ろす企業も多いのではないだろうか。とはいえ、Microsoft製品も他社製品も、今後はどのように変化するかは分からない。
一般企業向け、フロントラインワーカー向け「Microsoft 365」「Office 365」が、Teamsなしプランに統一されることもあるかもしれない。情報システム部門としては、関連製品や市場の動向を常にチェックしておくことが大切だ。
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