「BI導入済みだが、結局Excel一強」という現実 圧倒的使用率の要因は?:データ活用とBIツールの利用状況/後編
BI導入率が35.7%になり、PowerBIが頭一つ抜けて利用されている。一方で導入済み企業でもビジュアライズに使われているツールは圧倒的にExcelであることが分かった。なぜこのような状況が生まれているのか。
前編では全体の64.9%がデータ活用に「積極的」と回答するなど、企業によるデータ活用組織への転換が進むとみられることを説明した。後編では「データ活用の現状とBIツールの利用状況に関するアンケート(実施期間:2024年8月1日〜16日、回答件数:185件)」の調査結果を基に、データ分析の専門ツールであるBIツールの企業における利用実態を取り上げる。
35.7%がBIツール導入済みも……「結局Excelで」の実際
BIツールの導入状況は「今は利用しておらず、今後も利用する予定はない」(37.3%)が最多となり、「導入している」(35.7%)をわずかに上回る結果となった(図1-1)。従業員規模別でみると1001人を超える大企業では過半数が導入しているものの、500人以下の中堅・中小企業においては2割以下と差がついた。また100人以下の中小企業においては6割が「今後も利用する予定はない」としており、小規模企業においてはBIツール導入の優先順位はおおむね低いようだ。
導入されているBIツールは「Power BI」(53.0%)が最も多く、「MotionBoard」(10.6%)、「Qlick Sense」(10.6%)が続く。今後導入予定でも「Power BI」(47.8%)が最多で、次いで「MotionBoard」(21.7%)、「Dr.Sum」(10.9%)が上位に挙がった。キーマンズネットが2023年12月に実施した「『Microsoft 365』と『Google Workspace』の利用状況(回答件数:311件)」 では、企業のMicrosoft 365利用率が過半数となっており、Power BIの導入率の高さにも影響していると予測される。
では、BIツールを導入したとして現場でしっかり活用されているのだろうか──調査の結果、また違う側面も見えてきた。
「データをどのようなツールで可視化(グラフ、図形化)しているか」を聞いたところ、大多数が「Microsoft Excel」(83.8%、以下Excel)と回答。比較すると「PowerBI」(23.2%)や「Tableau」(13.0%)といった専門ツールのほうがExcelに大差をつけられている。2024年7月に実施した「Excelの利用状況/2024年(回答件数:428件)」 では98.6%とほぼ全ての回答者がExcelを利用していたことからも、国内では業務にExcelが深く根付いているのが実情だ。
BIツールの導入状況と可視化ツールの使用状況をクロス集計したところ、「BIツールを導入しておらず今後も導入予定がない企業」はExcel使用率も低かった。反対に、最も使用率が高いのは導入検討中の企業で94.4%に上った。導入済み企業はBIツールと併用しているためか若干下がり87.9%、導入予定の企業はBIツールのテスト中なのかExcel使用率が80.0%となった(図1-2)。
BIツール導入時の課題、「コスト」を抑えて1位に挙がったのは?
特定の個人やチーム、部門だけでなく全社でデータ活用を推進するためには、従業員が同ツールを使い運用することで属人化を防ぐ必要があるだろう。ただし、Excelのような身近で長年運用されてきた代替ツールがあることが障壁となることもある。
事実、BIツールを「導入している」「今は利用していないが、導入予定」とした方に、導入に際して課題や懸念点となったことを聞いたところ「導入コスト」(35.5%)を抑え「利用者へのツール研修、教育」(38.2%)が最も多く、関連して「従業員のデータリテラシーの底上げ」(31.6%)といった従業員教育の難しさを課題に挙げる声が多い(図2)。つまり、データ活用組織を成立させるためには、所属従業員が導入ツールを使いこなせているかがとても重要になるのだ。
BIツールで成果を「上げる企業」と「上げられない企業」の違い
こうした運用課題も含め、導入済みの企業ではBIツールで期待通りの成果を上げられたのだろうか──全体では「おおむね期待通りの成果を上げている」(51.5%)と「期待以上の成果を上げている」(4.5%)を合わせ56.0%と過半数が成果を上げられているようだ(図3)。一方で3割強が期待を下回る成果だったとしており明暗分かれる結果となっている。
それでは成果を上げている企業と上げられていない企業にはどのような違いがあるのだろうか。フリーコメントから読み解くと、まず前者では目的を明確に定めて導入している傾向が見られた。「迅速なデータの可視化によって意思決定が早くなった」や「生産現場の可視化ができている」「コスト削減につながった」「効率化や能率化やミス削減ができている」など、ツール導入前の課題を解消することを目的にし、その目的に立ち返って導入成果を評価していた。
そしてもう一つは、目的達成のための運用ができている点だ。「PDCAサイクルを回して改善を繰り返しているため」や「普段の業務効率を高めるクイックウィンを積み重ねたから」「現状把握、ゴール設定、施策の実行がかみ合った」に見られるように、目的を果たすための運用設計と実行、モニタリング、改善のサイクルを上手に回している企業が成果を上げている。運用では利用者が使いこなせていることが重要で、前項で触れた利用者へのツール研修や教育、データリテラシーの底上げなどの社内啓蒙が実を結び「実務者にBIツール使うのに抵抗が無かった」「使いこなせるユーザーが増えてきている」環境を作り出せたこともポイントに挙げられるだろう。
成果を上げられていない企業では、前述のポイントが押さえられていない傾向にあった。まずは「データ活用観点でのツール活用ができていない」「そもそも導入前に目標が設定されていなかったので成果が曖昧」のように、BIツールの導入目的が曖昧なままでスタートしている企業が多い。目的が曖昧なため、運用設計も不完全で「本当に必要な業務に使っているかどうかが可視化できない」や「決まった機能だけ利用されており、オーバースペックであった」「難しすぎて、ユーザー側、システム部門側の双方でダッシュボードを作ることが困難だから」などの難しさが生じている。また、目的が不明瞭なことで「全員が使いこなすまで浸透していないため、まだ理想とする状態には時間を要する」や「利用者が一部のみ」「利用率が上がらない」など、環境整備にも悪影響が及んでいるケースも見られた。
以上、ここまで見てきたように、企業がBIツールの導入で成果を上げるためには、ツール導入は手段であることを認識することや、自社がデータ活用に至った背景や目的を現場レベルで浸透させること。そして目的を果たすための運用設計と改善フローをしっかり回すことの3点が重要と言えそうだ。
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