生成AIでチャットbotはどう変わる? これまでの進化と機能、選び方ガイド
チャットbotは生成AIとの連携も含めて注目されているソリューションの1つだ。これまでと何が変わるのか、どのような機能が利用できるのかなど、導入時に気になるポイントを解説する。
チャットbotは生成AIとの連携も含めて注目されているソリューションの1つだ。これまでと何が変わるのか、どのような機能が利用できるのかなど、導入時に気になるポイントを解説する。
チャットbotの採用が進む理由
チャットbotは、自動的に対話を行うプログラムが実装されたチャットサービスのことで、外部からの問い合わせなどの一次窓口といったコミュニケーション機能として活用されている。Webサイトを持つ企業であれば業種業態や企業規模に関わらず役立つソリューションで、最近ではWebサイトを訪問する人に向けた対外的なものだけでなく、社内のヘルプデスクやFAQの代わりとして導入する企業も増えている。
コロナ禍以降は導入が増えており、AI機能を実装することで人と対話しているように必要な情報へ誘導するサービスとして好評だ。生成AIの登場など、AI技術の活用がこれまで以上に進んだことで、より高度な問い合わせにも回答できるサービスも登場している。
チャットbot導入の目的はさまざまだが、その中心にあるのが社内外の問い合わせ対応を効率化したいというニーズだろう。これまでは電話やメールで受け付けて人力で回答していたものを、チャットbotにて自動的に回答してもらい、個別に必要なものだけを手作業で回答するなど、コンタクトセンターの人員を増やさずに問い合わせ対応を効率化したいときに選択されるケースが多い。
また、Webサイトを訪れた訪問者が、メールや電話しか手段がないと問い合わせを諦めてしまうケースもあるが、チャットで気軽に問い合わせできれば、機会損失を減らして売上拡大にも役立つ。
トレンドの生成AI、何が違う?
ChatGPTなどの生成AIが登場したことで、チャットbotについてもその技術が応用されるなど、これまで以上にチャットbotが注目されているが、生成AI登場以前からAI技術が搭載されたチャットbotは提供されてきた。これら生成AIのソリューションとは一体何が変わってくるのだろうか。
確かに生成AIも自然言語を理解して求めている回答を返してくれるものになるが、汎用的な生成AIは、多言語への翻訳や調べ物、希望するアイデアを得るためのツールだ。一方でチャットbotは、カスタマーサポートや社内ヘルプデスクの例にあるようなユーザーと企業との対話に主眼が置かれている。
チャットbotは、AIによる自動回答もあれば、有人チャットでの個別対応も含めて利用者との対話を支援するソリューションだ。単に問い合わせに返事をするだけでなく、対話に必要なシナリオや業界や企業に特化したキーワードを辞書登録し、円滑な対話が可能な環境が整備できるようになる。
チャットbotの種類
チャットbotでは、問い合わせに関してプログラムにて自動回答するだけでなく、有人チャットの機能も備わっており、シーンに応じて使い分けられる。具体的には有人チャット以外にも、シナリオを事前に作成して必要な情報にたどり着けるよう、よくある質問を選択肢からクリックして、自己解決できるようなシナリオ型の仕組みや、フリーワードでの質問に対してAIエンジンが内容を判断して必要な回答をテキストで返答するフリーワードAIの仕組みなど、自社の環境に応じて選択できる。
また複数の仕組みを組み合わせて使うこともできるため、選択肢を用意するシナリオ型のチャットから、絞り込みができた段階で有人チャットに切り替えるといった使い方も可能だ。
特にフリーワードで対応可能なAIソリューションは、もともとサービスが提供している自然言語理解に長けたAIエンジンを活用するものもあれば、学習データをもとにChatGPTといったはやりの生成AIと連携して回答してくれるものまで、サービスによってアプローチが異なっている。サービスによってプラン分けが行われているため、自社に必要な環境とコストを考慮した上で選択していくことができる。
チャットbotは誰が導入するのか
チャットbotサービス導入を検討する企業では、どんな部署が主に担当することになるのだろうか。実際には、その目的によって担当する部署が異なっているのが実態だ。情報システム部門はもちろん、CS部門や総務部門など管轄する部署が多岐にわたるのも特徴の1つだろう。クラウドサービスとして自社のWebサイトなどと柔軟に連携できるため、システム部門が介在せずとも導入できる。ある特定の商品を提供する部門が売上につながるコンバージョンを高めるために導入するといった実例も少なくない。
もちろん、AI技術が実装されているチャットbotだけに、学習させるための情報の取り扱いなど、セキュリティやガバナンスに関する検討は当然必要で、システム部門が介在する場面も少なくない。
生成AI活用の背景にあるRAGとハルシネーションへの対応
チャットbotサービスは、「ChatGPT」や「Gemini」「Claude」といった生成AIとの連携が可能だが、多くのサービスが登場した背景にあるのは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる、生成AIがタスクをこなす時に生成AIや自社の情報ソースにどうアクセスして検索するのか設計する手法が確立されたことが大きい。
ただし、生成AIなどの技術を活用する際に危惧されるのが、事実に基づかないもっともらしい誤情報を生成してしまうハルシネーションが起こることだ。このハルシネーションが回避できるよう、企業内にあるデータを生かして人が回答したような自然な文章で回答できる仕組みが実装されている。
「Microsoft Azure」にて提供されている「Azure OpenAI Service」やOpenAI社の「OpenAI API」などを利用すると、入力データがAIの学習に使われない仕様によって、機密文書や顧客情報などの重要なデータがチャットbotでも活用できるようになる。社内の情報を踏まえて適切な回答が可能なチャットbotが構築できる。
チャットbotの機能
クラウドサービスとして活用できるチャットbotは、随時機能が追加されるため、現時点で持っている機能としての紹介となる。以下は、チャットプラス株式会社が提供するチャットツール「ChatPlus」を参考に、その機能を見ていきたい。
基本機能
基本的な機能としては、選択肢による自動応答やWebサイトにアクセスした際の自動応答をはじめ、時間や曜日、デバイス、属性による起動条件の設定などが可能となっており、Q&A生成やCSV参照など多くの機能が備わっている。
管理面では、チャットbotの利用状況や活用履歴の分析など、回答精度を高めるための各種レポート機能が備わっている。例えば訪問者の利用履歴やチャット終了時の評価集計、平均応答時間など、さまざまな指標でのレポート画面が用意されている。
また、活用履歴をベースに新しいQ&Aの作成やキーワード追加などのメンテナンスが実施でき、問い合わせに対する回答精度を高めることで満足度向上につなげるようなメンテナンス機能も充実している。
資料提供:チャットプラス
セキュリティの面では、IPアドレスをベースにした管理画面へのアクセス制限をはじめ、IPアドレスや特定URLからのアクセスに対するチャットウィンドウの表示、非表示、SAML連携でのシングルサインオンなど、管理者に求められる各種セキュリティ機能がある。
外部連携に関しては、APIによる連携はもちろん、「LINE」や「Microsoft Teams」、Slackといったコミュニケーションツールとの連携をはじめ、アクセス解析に用いられる「Google Analytics」や「Salesforce」、マーケティングオートメーションの「Account Engagement」など、各種ソリューションとの連携も用意されている。
有人チャット
有人チャット機能では、チャット対応するオペレーターに対してインタフェースを用意しており、テキスト入力フォームとともに、アクセス元企業名の推測や模範解答となるナレッジベースの表示、属性やアクセス履歴、過去のやりとり履歴などが一覧画面で表示される。定型文の挿入や添付ファイルの挿入など、チャットを円滑に行うための機能が盛り込まれている。
シナリオ型チャットbot
シナリオ型のチャットbotを使うことで、提供側が見せたい情報や訪問者が知りたいであろう情報へ円滑に誘導することが可能になる。
よくある質問を選択肢でクリックしてもらえるようなシナリオを、ツールエディタを活用して設定することが可能で、CSV形式で質問に対する回答を数多く用意、設定することが可能となる。
フリーワードAI
ChatPlusが提供するフリーワードAIでは、主に4つのプランが選択できる。「AIライトプラン」「オートAIプラン」「AIチャットbotプラン(Watson)」「AIチャットbotプラン(ChatGPT)」だ。
AIライトプランは、入力途中のテキストかららQ&Aをサジェスト表示するもので、問い合わせの多くが文頭に単語が入るため、リアルタイムなサジェストによって知りたい情報へ的確にナビゲートできる。AI技術によって類義語を自動的に提案するため、設定の手間が最小化できる。
オートAIプランは、AIを用いた自然言語理解型のチャットbotにより、さまざまな表現や言い回しに対応でき、問い合わせに対して適切な回答を表示させることが可能だ。CSVファイルなどで管理画面からQ&Aを一括登録することで、必要な回答にたどり着くための支援をオリジナルのAIが行ってくれる。
「IBM Watson」と連携させるAIチャットbotプランは、自社独自のデータからAIをトレーニングし、さまざまな言い回しに対して適切な回答をする。ユーザーの問い合わせ履歴をトレーニングデータとして活用できるため、最小限の工数でAIの理解力を高めるためのトレーニングが可能だ。
ChatGPTと連携するAIチャットbotプランは、ChatGPTとChatPlusなどを活用し、自社で持つQ&AやWebページの情報、規約やマニュアルといった各種資料などの自社データをもとに、問い合わせに対して回答を生成するプランとなっている。
サービス選びの勘所
低リスクで始められるかどうか
チャットbotは企業のWebサイトと連携してチャット機能を提供するものだが、その実装方法や契約形態、期間などを勘案し、できるだけ負担のかからないアプローチが採用できるものが望ましい。特に生成AIをはじめとした新たな技術が組み込まれていることからも、シンプルに導入、その都度チューニングしながらトライ&エラーしやすいものを選択したい。
一般的には、企業のWebページ内にチャットbotを呼び出すためのJavaScriptを埋め込むだけで使い始めることができるため、段階的にトライすることが可能だ。シナリオ型でもフリーワードAI型でも同様で、運用しながら回答精度を高めることができる。もしうまく活用が進まない場合は、埋め込んだコードを外すだけで済むため、クラウドサービスならではの“始めやすく、止めやすい”が体現されているものを
顧客対応の顔となるチャットbotだけに実績は重視したい
多くのベンチャーが生成AI連携を可能にしたチャットbotサービスを提供しており、市場自体は群雄割拠の状況にある。前述したRAG技術は無料ライブラリなどが提供されていることから、ある程度知識のある理系の大学生であれば構築できなくはないため、多くのサービスが市場に展開されているわけだ。
ただし、自動的に回答する生成AIを活用するだけで、企業での運用に対応できるわけではない。人が対応すべき部分があり、有人対応も含めて利用者を手厚く支援できるかどうかはしっかり見極めたい。特にチャットbotサービスを長くサービス提供している中でノウハウが蓄積されるため、サービスの提供実績や提供している企業の体力なども十分考慮する必要があるのは間違いない。
回答は試せる範囲で、チューニング機能が充実したものが理想
Webサイト訪問者の対応を行うチャットbotだけに、企業のポリシーや考え方に沿って適切に回答できるか、必要な情報に適切にアクセスさせることができているかどうかといった、回答の質や精度にはしっかりこだわりたい。
自社が望む言い回しができるような辞書登録の機能や、問い合わせに対する回答履歴からより最適なキーワードを追加するなど、PDCAを回していけるようなものかどうかを見ておこう。また、生成AIなどとの連携については、プロンプト内容やAPI活用の頻度などサービス提供者側のノウハウがふんだんに盛り込まれており、利用者側で技術的に比較するのは難しい。お試しの段階で完璧な受け答えにはならないことを前提に、チューニングのしやすさなどをキーに、回答の精度や質が高められるかどうか確認しておこう。
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