Appleも採用 SMSに代わるメッセージング規格「RCS」とは?
Short Message Service(SMS)と比較して、Rich Communication Services(RCS)は新しい形のメッセージサービスであり、ビジネスで活用するメッセージにおいて高度な機能と優れた体験を提供する。既存のSMSとは何が違うのか。
テキストメッセージといえば、多くの人はShort Message Service(SMS)を思い浮かべるだろう。これは携帯電話のネットワークに関連する一連のプロトコルであり、何十年も前から存在している。SMSでは最大160文字のメッセージを送受信できる。デバイス同士が同じ通信ネットワークを使っていなくても問題ない。
最近、Rich Communication Services(RCS)という新しいメッセージングフォーマットが登場した。RCSは、SMSでは提供できない機能やセキュリティ性能を持つ、改良されたメッセージングフォーマットだ。例えば文字数制限がなく、リッチメディアコンテンツに対応している。2023年には、AppleがRCSのサポートをiPhoneに追加するというニュースが発表された。RCSとSMSを比較し、それぞれの動作方法と技術要件を探っていこう。
Appleも採用 SMSに代わるメッセージング規格「RCS」とは?
SMSの概要と機能
SMSはインターネットプロトコル(IP)を使用せず、Wi-FiやLTE/5Gへのセルラーアクセスも必要としない。SMSは音声通話のようにセルラーネットワークを通じて直接送信される。SMSは、メッセージがキャリアのネットワークを介して送受信される方法を定義するGlobal System for Mobile Communicationsのプロトコルに依存している。
キャリア間の通信では、Short Message Peer-to-Peerのプロトコルが配信をサポートする。SMSはインターネットではなくセルラーネットワークを使用するため、SMSを使用して送受信されるメッセージは、モバイルキャリアのデータプランにはカウントされない。
これに対し、RCSや「WhatsApp」「Facebook Messenger」などのメッセージングプラットフォームはIPをベースとしており、通信にインターネットを使用する。これらのタイプのアプリは、オーバー・ザ・トップ(OTT)メッセージングアプリとして知られており、モバイルユーザーのIPデータプランを使用して送受信される。
SMSのアップグレード版ともいえるMultimedia Messaging Service(MMS)は、画像や音声、ビデオの送信に対応している。MMSはSMSと同様のプロトコルと通信方法を使用している(注4)。MMSの場合、マルチメディアコンテンツに伴う大きなファイルサイズに対応するために、1メッセージ当たりの容量が多く設定されている。MMSは、セルラーネットワークを利用するため、IPをベースとした通信が利用できない状況で役立つ。
RCSの概要と機能
SMSと比較して、RCSは新しいメッセージングプロトコルである。モバイルキャリアは、従来のSMSからRCSへ移行し、OTT通信を活用するアプリの人気に対抗することを目指している。
RCSのコンセプトと利点はシンプルだ。このプロトコルは、人気のあるIPベースの通信サービスと同じ豊富な機能を提供する。これには、グループチャット、高品質の写真やビデオの送信、既読通知、位置情報の共有などの高度な機能が含まれる。
RCSはオープンスタンダードであり、どのデバイスでも追加費用や相互運用性の懸念なしに、この機能豊富なプロトコルを取り入れることができる。RCSのメッセージを送受信するデバイスは、Wi-FiまたはLTE/5GのIPデータネットワークサービスに接続されていなければならない。送受信されたデータは、既存のモバイルキャリアのデータプランにカウントされる。
RCSとSMSの比較
CSとSMSは、ネットワーク依存性や機能性、メッセージの配信と確認、統合性、セキュリティの面で大きく異なる。
- ネットワーク依存性。RCSとSMSの主な違いは、SMSがセルラーネットワークを介してメッセージを送信するのに対し、RCSのコンテンツは送信前にデータ接続が必要な点だ。データ接続が利用できない状況でも、SMSに対応するメッセージであれば送受信できる。ただし、LTEや5Gの拡大により、ほとんどの地域でインターネット接続が十分に利用でき、豊富な機能を備えたサービスの利用が可能になっている。
- 機能性。SMSは160文字までの制限があり、メッセージ内でのマルチメディア機能をサポートしていない。RCSは、メッセージ内でビデオやGIF、オーディオなどのさまざまなマルチメディアをサポートしており、文字数の制限がなく、グループチャット機能も備えている。さらに、サービスを直接利用してファイルを転送できる。
- メッセージの配信と確認。SMSの場合、メッセージの配信を確認する機能は限られており、キャリアの設定に大きく依存する。多くの場合、SMSは送信者にメッセージが正常に配信されたことだけを通知する。一方、RCSは、メッセージが配信されたかどうか、既読になったかどうかをより正確に通知する高度なメッセージング機能を備えている。
- 統合性。SMSはキャリアのセルラーネットワークを使用してメッセージを送信するため、他のアプリケーションやサービスとの統合には限界がある。一方、RCSは他のほとんどのモバイルアプリケーションと同様にIPを使用するため、他のメッセージングサービスやチャットbot、CRMシステム、販売およびマーケティング自動化プラットフォーム、チケットサービスなどのビジネスツールと統合できる大きな可能性を有している。
- セキュリティ。SMSのメッセージには暗号化が施されておらず、メッセージが傍受されたり、改ざんされたりするリスクがあり、全体として機密性に欠ける。RCSには、メッセージが送信される際に暗号化を行うTransport Layer Securityや、音声やビデオの送信に使われるSecure Real-time Transport Protocolなどのセキュリティコンポーネントが追加されている。しかし、RCSを使用する一部のサードパーティーアプリケーションでは、エンドツーエンドの暗号化を確保するために、追加の暗号化や、異なる暗号化の手法が使用される場合もある。
これらの違いにより、RCSは、SMSのみならず「WhatsApp」や「Facebook Messenger」「Telegram」といった他のOTTサービスと比較しても、より便利で多機能な通信プラットフォームということができる(注7)。これらのサードパーティーサービスでは、送信者と受信者が同じアプリにログインしていなければならない。RCSはメッセージの暗号化や配信前のメッセージの検証のように、サードパーティーサービスと同様のセキュリティ機能を提供している。SMSには、これらのセキュリティ機能はない。
RCSの使用方法と対応デバイス
RCSの利用可能性と機能は、キャリアのサポートと、プロバイダーが選択した実装モデルの2つの要因に依存する。キャリアが選択する実装やサポートにより、RCSの一部の機能を利用できない場合がある。
米国の主要なキャリアを通じて、RCSは何年も前から利用可能であり、グローバルキャリアもこのプロトコルをサポートするために熱心に取り組んでいる。ただし、RCSの機能は、全ての携帯電話においてデフォルトで有効になっているわけではない。
Android 5.0以上を搭載したスマートフォンはRCSを利用でき、ユーザーは設定でRCSのチャットを有効または無効にできる。電話の製造元が「Google Messages」のアプリを使用している場合、RCSの機能は通常デフォルトで有効になっている。ただし、アプリの設定を確認して、RCSが実際に有効かどうかを確認すべきだろう。
RCSの導入が予想よりも遅れた主な理由の1つは、Appleが自社のモバイルOSにRCSを導入することに消極的だったためだ。しかし、「iOS 18」のリリースに伴って、AppleはRCSをサポートするようになり、AppleとAndroid間のメッセージ通信においても、これらのリッチなメッセージング機能を利用できるようになった。Appleの変更は、RCSの世界的な普及を促進するきっかけとなるだろう。
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