RPAでもkintoneでもない、業務改革にGoogleの「Appsheet」を選んだ理由
「エンジニア不足でアプリ開発が思うように進まない」「システム開発に莫大な費用がかかる」などの悩みを抱える企業は少なくない。事業部門の従業員自らがノーコードでアプリを開発し、さまざまな業務課題の解決に取り組んでいる2社の事例を紹介する。
現場の課題を従業員が自ら解決し、全社的なデジタル化の取り組みを前進させる手段としてノーコードツールがある。その一つが「Google Appsheet」(以下、Appsheet)だ。ある企業は長らく「kintone」を利用していたが、ある理由からAppsheet にツールを切り替えた。また、ある企業は、業務変革にRPA(Robotic Process Automation)を採用したが、課題を解決しきれなかったため、Appsheet の採用を決めた。
こうした先行ユーザーはなぜ「AppSheet」を採用したのか。どのようなメリットがあるのだろうか。これまでに500社以上で「Google Cloud」の導入支援をしてきたGoogle Cloud プレミアムパートナー 吉積情報の石見沙紀氏(アプリケーション開発部)が、「AppSheet」の概要と2社の事例を解説した。
AppSheet を選ぶべき理由
AppSheet はGoogle Cloud のサービスで、プログラミングの知識がなくてもデータベースや画面デザイン、プロパティなどをGUI操作で設定できる。「Google Workspace」と連携させれば、社内のデータ管理も容易になる。
データのインプット方法がDXになる
AppSheetは、入力画面や閲覧画面を簡単に作成できる。AppSheetの「フォーム」を利用して、スマートフォンのアプリでデータを入力するための画面を作成することも可能だ。データの入力や閲覧、検索を効率化できる。
画像やバーコード、位置情報もアプリで活用
AppSheetで扱うデータは、スマートフォンなどから入力したデータや、画像を撮影してデータ化したもの、バーコードやQRコードの読み取りデータ、位置情報データなどがある。これらのデータは、バーコードで在庫管理、位置情報で輸送管理、OCR で書類申請などさまざまなアプリに利用できる。
データのアウトプット先はSalesforceやBIツールなど多彩
データのアウトプットも柔軟になる。データに対してイベントや条件を設定してアラートや通知を送信できる。条件分岐なども駆使して処理を自動化させることも可能で、「Salesforce」などの他のシステムにデータを連携させると便利だ。BIツールとの組み合わせで、レポートの出力やデータ分析も簡単になる。
Google Workspaceとは親和性も高く、「Google カレンダー」と連携させたり、データ出力時に「Gmail」でメールを送信したり、「Google Chat」に通知を送ったりするシナリオが考えられる。
AppSheet を活用している製造業2社の事例
AppSheet では、ルーティン作業や複雑なデータ管理、従業員との連携などを自動化するアプリを簡単に開発できる。これによって、導入企業の多くが業務全体の効率化と生産性向上を実現した。AppSheet を導入した2社の事例を紹介する。
「製造実績アプリ」で現場の業務状況やミスをリアルタイムで把握。全体を把握して生産性を向上
大栄技研工業は、愛知県半田市に本社を置く老舗企業だ。パチンコ台の金枠やフォークリフトの部品、自社製品の空調用のダンパーなどを幅広く製造している。中国や米国にも拠点があるグローバル企業でもある。
AppSheetの導入前は製造現場の情報を紙で管理していたため技術情報を集約できず、業務の進捗(しんちょく)状況もリアルタイムで把握できないなどの悩みがあった。ミスの発生時は、原因の調査に時間がかかっていた。
同社では長期にわたり「kintone」を利用していたが、製造現場でタブレットを活用するようになり、kintone ではタブレットに特化したUI を実現することが難しかった。そこで、改めて現場に適したツールを模索したところAppSheetと出会った。洗練された操作性や圧倒的なコストメリットを感じ、自分たちの手で理想のシステムを実現できると確信したという。
内製されたアプリの一つとして石見氏が紹介したのは「製造実績アプリ」だ。製造現場で、タブレット端末で利用している。入力を細やかにサポートする設計が特徴的だ。製造実績を登録しようとすると、登録日が当日に、登録者ID には端末の利用者が自動的に設定された状態で画面が始まる。改めて日付や登録者ID を入力する手間が省ける。
製造品目をマスタから選択し製造ルートIDをタップすると、作業エリアID や工程リストなど、関連するデータが自動で入力される。セーブを押すと、製造実績リストに登録した情報が追加される。詳細情報にはステータス(「開始前」など)が表示されており、ワンタップでステータスを「作業中」に進めることも可能だ。タブレットで数回タップするだけでほとんどの入力が終わるようになっている。
ボタンの配置にもこだわり、直感的に使いやすいUI にした。アプリに現場の意見を反映したことが、高い完成度に結びついているという。
Google Chatで通知される「購入申請アプリ」
フルサト・マルカホールディングスは、機械や電気、電子、半導体、制御などのエンジニアリングを行う従業員数1000名以上の企業だ。機械工具や建築資材、建設機械、IoTソリューションと、4つの事業領域を柱に成長を続けている。
同社は2021年に組織統合したが、AppSheet を導入するまでは組織統合による開発負荷の増大や、現場のニーズへの最適化が遅れているという課題があった。RPAを導入するなどの試みはしたが完全には解決しきれなかった。
その後も優先順位を付けてスクラッチ開発などの内製開発を試みたが、IT部門だけでは対応が困難だった。個別の小規模な案件は開発の優先度が低くなってしまう。そこで、個別最適化が必要な案件に対応するために各部署でノーコード開発をする道を探った。
さまざまなノーコード開発ツールを検討する中で、社内で使用していたGoogle Workspaceと連携できること、開発スキルがほとんど不要であることからAppSheet の採用を決めた。
AppSheet を採用してからは、IT部門が主導しながら現場でアジャイル開発を行い、多くのアプリを開発した。「顧客管理アプリ」「購入申請アプリ」「問い合わせ管理アプリ」「ナレッジを収集するアプリ」などがその代表だ。
これらのアプリによって、訪問が完了したら作業報告書が自動的に作成されたり、ユーザーの行動確認が不要になったり、購入申請から承認までの流れが「Google Chat」で通知されたりと、業務改善が進んでいる。
石見氏が詳しく紹介したのは「購入申請アプリ」だ。このアプリは比較的少ないテーブルで作られているが、ステータス毎の申請を一覧で見られることが特徴的だ。
まずアプリを開いて申請フォームタブを選択すると、入力画面に切り替わる。申請日は当日の日付が自動入力されている。購入内容や支払先などはプルダウンから選択できる。さらにPDFファイルなどの添付も可能だ。
登録されたデータは一覧で閲覧でき、「申請中」「承認済」「差戻し」「却下」「処理済」のステータスが振られている。ステータスが変わるたびに申請者、承認者にGoogle Chatで通知が届く仕組みになっている。
全体の流れとしては、まず、申請者が申請すると承認者に通知が届く。そこで承認者はアプリで承認処理を行う。「承認」「差戻し」ボタンで承認処理がなされるとその結果が申請者に通知される。
最後に石見氏は、「AppSheetを使えば、このように簡単にアプリを作成できます。システム開発ではどうしても時間とコストが問題になりますが、大規模なものでなければAppSheet で内製するのがおすすめです」と締めくくった。
本記事は、吉積情報が2024年8月27日に開催したオンラインイベント「エンジニア不足はもう怖くない! AppSheet 導入事例とプラン選定の要所セミナー」の内容を編集部で再構成した。
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