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「紙業務がなくならない」本当のワケとは

パンデミックはペーパーレス化を促進し、デジタルツールの導入により物理的なプリンタの段階的な廃止が進んだ。しかし、依然として多くの企業は紙業務に依存している状況だ。その理由とは。

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CFO Dive

 パンデミックはペーパーレス化を促進し、デジタルツールの導入により物理的なプリンタの段階的な廃止が進んだ。しかし、依然として多くの企業は紙業務に依存している状況だ。その理由とは。

ペーパーレス化を阻む原因とは

 2024年5月、HPのエンリケ・ロレス氏(CEO)は投資家に対して「パンデミックの開始以降、印刷されるページ数が20%減少した。この変化はハイブリッドワークに起因するものである」と述べた。

 コンサルティング企業であるIDCによると、プリンタやコピー機などを含むハードコピー周辺機器の出荷台数は、2019年から2023年の間に12.8%減少したという。

 調査企業であるWirth Consultingのキャスリーン・ワース氏(バイスプレジデント)は「テレワークおよびハイブリッドワークにより、電子メールやデジタルファイルの共有、クラウドへの移行によってオフィスにおける紙への依存の状況が改善した」と述べている。

 ワース氏によると、リーマンショック時にコストを抑えるために企業が選択した最初のステップが印刷をなくすことだったという。同氏は「それ以来、印刷ページ数は徐々に減少している」と述べた。

 またワース氏は「パンデミックにより、従業員はクラウドベースのデジタルワークフローシステムに依存するようになり、全てを印刷する必要性がなくなった」とも述べている。

 それでも完全なペーパーレス化に至っていない業界もある。それらの業界では、法的要件や顧客の期待に応えるために物理的なコピーに依存している。一部の従業員は、依然としてハードコピーによる印刷を好んでいる。これらの要因がオフィスプリンタの完全な廃止を妨げているのだ。

ヘルスケア業界におけるプリンタ依存

 IDCのイメージング・プリンティング・ドキュメントソリューション部門のジェフリー・ウィルバー氏(リサーチマネジャー)は「ヘルスケア業界は、金融サービスや教育、政府と並んで最もプリンタに依存している業界の1つだ」と述べた。

 実務担当者によると、レガシーなプロセスと顧客サービスに関する基準のため、ヘルスケア業界においてプリンタは依然として主要な機器だという。

 ワシントン州レントンに拠点を置くヘルスシステムグループであるProvidenceのワシフ・ジャマル氏(最高技術責任者)によると、同社は近年印刷出力の削減に取り組んでいるという。コスト削減とカーボンフットプリントの縮小を目指し、同社は2022年から2026年の間にプリンタの台数を40%削減する計画だ。また病院システムは、コスト削減の手段としてプリンタに関する契約を一元化している。

 しかしながら、ヘルスケアの業務には手作業も多いため、病院は依然として大量の印刷物を生み出している。ジャマル氏は「例えば、患者が退院した後に病院は印刷された診療概要を提供し、保険企業との請求に関するやりとりには紙の書類が必要となる」と述べている。

 また保険企業も請求処理の際に紙の書類を好んでおり、それには治療内容や保険コードに関する情報が含まれる。

 ジャルマ氏は「私たちは年間を通じてシステム全体で何百万人もの患者を診察しており、それが膨大な印刷量の要因となっている」と述べ、病院はデジタルツールへのアクセスがないコミュニティーなど、あらゆる種類の患者に文書を提供する必要があると指摘した。

 Providenceは、医療従事者が書類を紙で印刷する場合など、臨床以外の用途における印刷を減らすことでさらなる改善を目指している。

 「これは人間の行動を変えることを意味する。多くの人間は『印刷したものが手元にある』という安心感を求めているが、印刷せずにPDFとしてデジタルで統合したり、SharePointのようなドキュメント共有プラットフォームにアップロードすることで補える」(ジャルマ氏)

 現在、Providenceでは、どのアプリケーションが最も多くの印刷につながっているのかを理解するために、印刷システムの分析を行っている。ジャマル氏によると、利用者がカードをタップして印刷を開始する「セキュア印刷」はプリンタによる出力削減に役立っているという。また、Providenceでは、プロセスの自動化やドキュメントをPDF形式にまとめる機能なども検討している。

ポリシー要件と習慣の力

 フィンテック企業はデジタルで取引を行う能力を誇ることが多いが、場合によってはデジタル署名では十分でないことがある。

 テクノロジーを活用した資産管理企業であるSavvy Wealthのアミール・ハーエル氏(最高執行責任者)は「印刷が必要となる状況は主に2つある」と述べている。1つは、高齢の顧客の中に物理的な書類を確認して署名することを好む人がいるケースだ。もう1つは、一部の第三者の資産管理企業や年金プロバイダー、保険企業が特定の書類に対して紙での署名(ウェットシグネチャー)を要求するケースだ。

 約20人の従業員と1000人の顧客を抱えるSavvy Wealthのニューヨークオフィスでは印刷が頻繁に行われることはなく、機能が限定された1台のプリンタを保持しているのみだ。ハーエル氏は、オフィス業務にプリンタが必要なくなる日が来ることを期待している。

 「間違いなく、確実に実現できるだろう。私たちが生きている間に、オフィスにおいてプリンタを全く必要としない世界が訪れはずだ)(ハーエル氏)

 また企業の法務部門も紙への依存の改善に取り組んでいる。

 法務領域のコンサルタント企業であるBlickstein Groupのブラッド・ブリックスティーン氏(プリンシパル)は、CIO Diveに対して「一部の裁判所や政府機関が紙での提出を求めているため、法務部門は依然としてプリンタに依存しているが、依存度は以前ほど高くない」と述べた。

 ブリックスティーン氏は「法務機能のデジタル化は進んでいるが、他の業界ほど急速ではない。と述べ、印刷された書類のスキャンが増えており、それが電子文書管理システムと直接連携していると説明した。また同氏は「大きな問題は、一部の弁護士が依然として紙での作業を好んでいることだ」とも語っている。

プリンタ業界の対応

 物理的なプリンタやトナーカートリッジ、ドラムユニットなどの消耗品を製造する企業は、企業がデジタルワークフローに移行する中で、ビジネスモデルを進化させていると述べている。

 例えば、HPは、物理的およびデジタルのチャネルをまたいで、顧客が作業スペースや文書のワークフローを再設計するのを支援する役割を担い続けると見込んでいる。また、医療分野を含む業界のデジタル移行をサポートしており、医療機関が患者記録のデジタル化を進めている。

 「今日話をするIT顧客のほとんどが、作業スペースの再設計を考えています」と、アウレリオ・マルッジ氏(HPオフィスプリントソリューションズ部門 社長)は語っている。「これは、デバイス、ソフトウェア、サービスを組み合わせて、顧客の文書ワークフローを再設計する大きなチャンスです」

 ゼロックスも同様の視点を示した。同社のテリー・アンティノラ氏(製品およびエンジニアリング責任者)によれば、「物理的な世界とデジタルの世界を橋渡しする」役割を果たすことを提案している。

 リコーも文書ワークフロー支援の役割を見込んでいる。同社のスコット・ダバイス氏(アメリカ法人商業戦略・運営担当副社長)によれば、印刷業界にとっての重要な機会は、2023年から2028年にかけて年平均成長率4%が見込まれるプロダクションプリンティング分野にあるという。

 プリンタ業界は以前予測されていたほど急速に衰退しているわけではない、とウィルバー氏は述べている。

 「印刷プロセスは職場に依然として根付いています。一部のミッションクリティカルなプロセスは、まだ印刷に依存しています。これは成熟した、緩やかに衰退している業界です」(ウィルバー氏)

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