Googleにカスタム生成AIが登場 Gemini for Google Workspaceを徹底解説
Gemini for Google Workspaceに2024年8月のアップデートで「カスタムGems」が搭載された。進化を続けるGemini生成AIを活用することでクラウドネイティブな働き方を実現するヒントを紹介する。
Gemini for Google Workspace は、Google Workspace に生成AI「Gemini」テクノロジーを統合したコラボレーションツールだ。「Gmail」「Googleドキュメント」「Googleスプレッドシート」など、Google Workspaceの主要なアプリケーションを使った業務をAIアシスタントが支援する。
Gemini for Google Workspaceに2024年8月のアップデートで「カスタムGems」が搭載された。これによって、特定のタスクに特化したbotを作成できるようになった。
生成AI群雄割拠時代に進化を続けるGemini for Google Workspace だが、他の生成AI同様に組織で導入する際には「どのように使えばよいのか分からない」「セキュリティが心配」「組織に浸透しない」といった課題が浮上する。Google Workspace の最新情報に精通し、Googleのプレミアムパートナーである吉積情報の堀川茉莉絵氏(マーケティング部 部長)と谷川歩美氏(カスタマーサクセス マネージャー)が、Gemini for Google Workspace の機能や特徴、組織に定着させるための導入ステップ、セキュリティ対策について解説した。
カスタム生成AIも登場 Geminiは何がメリットなのか
Gemini for Google Workspace は、生成AIが業務を支援し、創造的な仕事に集中できる環境を整える。堀川氏は、生成AIが企業にもたらす価値として「業務効率の向上」「新しい製品やサービスの創出」「意思決定の支援」「顧客エンゲージメントの強化」を挙げた。ではGemini が搭載されたことでGoogle Workspace はどのように進化したのだろうか。
Geminiは、GoogleのAI戦略の中核を担うLLM(大規模言語モデル)だ。個人向けの「Gemini Advanced」、法人向けのGemini for Google Workspace、「Vertex.AI」などがある。
Gemini for Google Workspace には大きく2つの機能がある。Google Workspace の電子メールや文書作成、プレゼンテーションなどをサポートする「Gemini Apps」と、Google Workspace のアプリケーションで Gemini と対話できる「サイドパネル」だ。
2024年7月のアップデートで「Google ドライブ」とも連携させ、探したい情報を入力するだけで Gemini が Gmail や Google ドライブ の情報を横断的に検索して提案する機能が追加された。
Gemini Apps に登場した「カスタムGems」
新たに追加された「カスタムGems」は、ニーズに合わせたbotを持てる機能だ。あらかじめ考え方と答え方を指示しておくと、それに沿って適切な回答を提示する。
例えば、「法律くん」というキャラクターを作り、社内のガイドラインを読み込ませておくと、社内規定に詳しいbotができる。特定の専門分野のbotを幾つか用意しておくと便利だ。
Gemini のサイドパネルとは?
サイドパネルは、Google Workspace の各アプリケーションでGemini を呼び出せる。現在は英語版のみだが間もなく日本語版が公開される予定だ。
サイドパネルに複数の資料をドラッグ&ドロップするとその内容を要約できる。採用面接の前に、応募者の履歴書や職務経歴書、適性検査の結果などを読み込ませ、面接時の質問案を作成したり、その人の強みなどを短時間で調べたり、といったユースケースが考えられる。
Gemini for Google Workspace が優れている最大のポイント
Google Workspace を利用する企業では、データを Google ドライブ に集約しているケースがほとんどだ。そのため、Gemini が既存のデータ資産をシームレスに活用できる。
なお Gemini は、Google ドライブ の共有設定に基づいてアクセス権限を制御するように設計されている。具体的なユースケースとしては、一般従業員は共有された人事評価データのみを検索、参照し、Gemini に評価入力のサポートを受けられる。上司は自分に共有されている部下の人事評価データにもアクセスし、同様に Gemini を活用できる。一方で、Gemini に自分の権限範囲外の質問をしても、回答を拒否される。
Gemini の対話型AIとしての特徴
Gemini はマルチモーダルAIとして開発されているので、テキストだけでなく画像や音声など複数の情報ソースを扱える。Gemini の回答スピードは速く、特に Gemini for Google Workspaceに搭載されているLLM「Gemini 1.5 Pro」の応答速度はOpenAIのGPT-4を大きく上回る(2024年9月時点)。
また Gemini はインターネット情報の参照や Google サービスとの連携に強みがある。インターネットの情報から事実と異なる内容を生成してしまうハルシネーションの対策として、回答の参照元を確認できる機能も搭載されている。
導入だけで終わらせない 生成AIを組織に定着させるポイント
生成AIを組織全体で効果的に活用し続けるために、谷川氏は、導入する際は3つのステップで進めることが望ましいと語る。
Step 1 検討〜導入
まず、導入体制を明確にする必要がある。導入をIT部門だけで進めるか、それとも他部門と連携するか、誰が責任者とするかなどを決める。
次に、導入の目的や目標を明確にする。生成AIをどのような業務に活用し、どのような成果を目指すのかを具体的に定義する。
そして、特定の部署やチームで試験的に生成AIを導入し、効果検証と課題を抽出する。先行導入に前向きで、効果的なユースケースが見つけやすい部署を選定するとよい。
なお、目標と共にビジョンや方針を明確にすることも重要だ。これらをトップ層や現場にしっかりと伝えることで組織全体の成長へとつなげられる。
目標をKPIに落とし込むことも重要だ。文章の要約や問い合わせ対応にかかる時間、分析業務の工数、社内の問い合わせ対応件数などを設定する。ユーザーにも事前に想定効果を伝えておくと効果を実感しやすくなる。
効果測定の方法は、各自で時間などを手動で計測する、Google カレンダー の分析機能などで計測する、管理者がワークインサイトで計測するなどがある。
Step 2 全社展開
全社展開時には、導入目的や使い方、ガイドライン、先行導入で発見したユースケースなどを周知する。このステップでも効果測定が重要だ。アンケートやヒアリングでユーザーのニーズや懸念点を把握する。
導入後は、時間を置いて再度アンケートやヒアリングを実施し、運用を見直すことも大切だ。これらの情報を基にフォローやルールなどを検討できる。
全社展開時にはユースケースも一緒に伝えるとよい。おすすめのユースケースには、「メールの返信内容の案を作成」「資料の構成のアイデアをもらう」「グラフの内容を分析」「画像を表形式に生成」「スライドのトークスクリプトを作成」などがある。
プロンプトに慣れないうちは、思うような結果が得られないとの声がよく聞かれる。その際はプロンプトを工夫することを伝えよう。「明確で具体的に指示する」「背景や状況を提供する」「ペルソナを指定する」「フォーマットを指定する」などのポイントを工夫すると質の高い回答を得られるはずだ。
ガイドラインでは、導入の目的や基本理念、対象者と適用範囲、生成AIの利用方法、問い合わせ窓口などをカバーすると望ましい。先行導入で見えた課題や、アンケート結果から把握できた懸念点、法務部門と連携して法的リスクなども参考にしながらガイドラインを作成するといいだろう。
Step 3 定着と発展
導入後は、定期的な利用状況の把握や従業員教育の継続が重要だ。アクティブユーザーの把握に加え、想定していた効果が出ているかどうかをアンケートで調査し、利用が進んでいる組織にヒアリングをする。新たな取り組みの検討や運用の見直し、ガイドラインの修正なども実施する。
Gemini for Google Workspace は管理コンソールで使用状況を把握できる。さまざまな項目があるので、よく使用しているユーザーから実用的なユースケースを収集したり、あまり使用していないユーザーを特定して従業員教育を実施したりできる。
生成AIは日々進化しているので、最新情報のキャッチアップや技術進化への対応、ガイドラインや運用の定期的な見直しも重要だ。
生成AI時代のクラウドセキュリティ対策とは?
生成AI時代におけるクラウドセキュリティ対策はリスクを知ることから始まる。生成AIの利用におけるリスクは大きく以下の3つがある。
1つ目のリスクは情報漏えいだ。これには社内外での不適切な情報拡散やプライバシー侵害なども含まれる。社内データを用いて回答する生成AIの場合、元となる社内データにアクセス権を設定するなどして、機密情報やセンシティブな内容がむやみに回答に利用されることを防ぐことが重要だ。
2つ目リスクは著作権侵害だ。生成したコンテンツが既存の著作物と類似していると著作権侵害とみなされる可能性がある。著作権の正しい知識を習得し、著作権を侵害していないか確認する必要がある。
3つ目のリスクは情報の誤認だ。生成AIは常に正確な情報を生成するとは限らない。生成AIはあくまでもサポート役だ。生成AIが出力した情報は必ず人間がファクトチェックをして、正確性を確認する必要がある。
なおGemini for Google Workspace では、ボタン一つでGemini が生成した記述に似ているコンテンツを検索して回答内に表示する機能があるので、ファクトチェックに利用できる。
本記事は、吉積情報が2024年9月18日に開催したオンラインイベント「Google Workspaceで始める生成AI活用 選び方から定着まで徹底解説」の内容を編集部で再構成した。
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