生成AI合戦が過熱中 Salesforceが指摘したCopilotの弱点とは
Salesforceのマーク・ベニオフ氏は、「Einstein copilot」をエージェントとしてリブランディングした後、MicrosoftのAI「Copilot」を「Clippit」という初期のエージェントに例えた。
2024年の初め、Salesforceは「Einstein Copilot」を「Agentforce」としてリブランディングした。Agentforceは、顧客や従業員との対話を通して、課題の発見やタスクの優先順位付け、質問や要望への対応などを自律的に実施するものだ。
同社は、目下Agentforceに注力しているが、Microsoftなどの主力プレーヤーもこの自立型生成AIエージェントの領域に参入し、競争が過熱している。
Salesforceのマーク・ベニオフ氏(共同創業者兼CEO)はMicrosoftの「Copilot」を批判し、1990年代から2000年代にかけて使われた「Microsoft Office」のルールベースのエージェント「Clippy」に例えて、そのデメリットを指摘した。Salesforceが指摘したMicrosoft Copilotの弱点とは。
Salesforceが指摘したMicrosoft Copilotの弱点とは
ベニオフ氏によるバッシングは、2024年8月28日に開催された直近の四半期決算説明会で始まった。同月の年次カンファレンス「Dreamforce」の基調講演において、同氏は踏み込み、「Microsoftの顧客がCopilotへの投資から価値を引き出せていない」と述べ、これを「科学プロジェクト」と呼んだ。ソーシャルメディアで同氏は「Microsoft Copilotはコンテキストやスキル、適応性の欠如に苦しんでいる」と述べた。
これによってSalesforceとMicrosoftの関係はどうなるのだろうか。
直接質問された際にベニオフ氏は「非常に良好だ」と回答したが、その口調には明らかに皮肉がにじんでいた。同氏は「私はMicrosoftが大好きだ。同社は素晴らしい企業だ。同社はビジネスを運営する能力において驚異的な鋭敏さを持っている」と述べた。そして、長年にわたるMicrosoftの競争上の幾つかの問題点を挙げ、Microsoftの「Internet Explorer」によってシェアを失った「Netscape」の問題にまでさかのぼり、米国政府によるMicrosoftに対する反トラスト法の裁判につながったと指摘した。
Microsoftはこの件に関するコメントを拒否した。しかし、ベニオフ氏が2024年8月末に開催された四半期決算説明会でMicrosoftを批判した後、Microsoftの企業AI部門のジャレッド・スパタロ氏(バイスプレジデント)はCopilotへの批判に対して反論した。同氏は、Microsoft内部のデータおよび第三者の測定によると、前四半期の間にCopilotのデーリーユーザー数が倍増し、前四半期比で売上が60%増加したことから、Copilotは職場に価値をもたらしていると主張した。
Salesforceには約15万社の顧客がいるとされている。Microsoftは、生産性に関連するアプリケーションの市場で約85%の浸透率を誇る。理論的には、12万7500社が「Microsoft 365」とSalesforceのプラットフォームを統合し、電子メールやカレンダー、タスク管理、連絡先管理をビジネス推進のために利用していることになる。Salesforceは2022年に2500万人以上のエンドユーザーを抱えていると主張しており、そのうち2150万人はSalesforceとMicrosoftの連携が必要であり、両社のシステムが共に機能し続ける必要があることを示唆している。
コンサルティング企業であるPwCで実務を担当するイアン・カーン氏(プリンシパル兼アライアンスリーダー)は「率直に言って、クライアントがそれを気にするとは思わない。ノイズは排除される」と述べた。
調査企業兼アドバイザリー企業であるValoirのレベッカ・ウェッテマン氏(創設者)は「例えば、Copilotがうまく機能していないことや、まだ多くの顧客が導入していないことをはじめとして、ベニオフ氏が述べた幾つかの内容は確認できる」と述べつつ、Salesforceの多くの顧客がMicrosoftのパブリッククラウドである「Microsoft Azure」を使用していることも指摘した。
「両方を使い分ける必要がある。そうしなければならない。Azureは最大のパブリッククラウドの一つあり、人々はAzureを望んでいる。そのためにはAzureを活用しなければならない。しかし、Microsoftに対する批判も必要だ。それがビジネスの常識だ」(ウェッテマン氏)
SalesforceのAIツールは、販売やサービス、マーケティング、eコマースに特化しており、同社のアプリに組み込まれている。ユーザーは「Slack」でエージェントを作成でき、さまざまな業界向けに特化したツールも数多く提供されている。
これに対し、Microsoft Copilotはより一般的な業務に対応しており、アプリに組み込まれ、コード不要のインタフェース「wizard」を通じてSalesforceを含むさまざまなソースからデータを取り込める。最近、Microsoftはビジネスプロセスの自動化と実行に対応したAIアシスタント「Copilot agents」も追加した。
SalesforceのAgentforceとMicrosoftのCopilotには類似点がある。しかし、ベニオフ氏は最終的に異なるものとして2つを比較している。これは、Salesforceが他のベンダーのアプリデータやウェアハウスを利用するエージェントをユーザーに構築させることを目指しているとしても変わらない。SalesforceのAIはサービスやセールス、マーケティングをターゲットにしているのに対し、MicrosoftのAIはオフィスワーカーの生産性をターゲットにしている。
この構図は通常のビジネスの在り方として当然だと言える。
「もし彼らがマーケティングの積極的な主張をしなければ、それはDreamforceではないだろう」(ウェッテマン氏)
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