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高まるデータ損失リスク、でも「バックアップソフト不要」とする企業の言い分とは企業におけるバックアップの実施状況(2024年)/前編

企業活動を支えるデータを守るためにはバックアップが欠かせない。災害や障害に対応するBCPはもちろん、データを暗号化してしまうランサムウェア攻撃でもバックアップをとらずに対策することは難しい。企業はバックアップツールをどの程度採用しているのだろうか。

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 データのバックアップと迅速な復旧体制の構築は企業活動にとって欠かせない重要施策だ。なぜなら自然災害やサイバー攻撃などに対応するにはバックアップが有効だからだ。

 2024年9月に更新されたBusiness Research Insightsの「データバックアップとリカバリの市場規模 2031 年までの地域予測」によると、世界のデータバックアップ及びリカバリ市場規模は、2022年に5億7450万ドルだったのが、2031年には11億7107万ドルに到達する。予測期間中には9.8%の年間平均成長率(CAGR)を示すと予測されており、旺盛な企業のニーズに合わせて市場が拡大していくという。

 そこでキーマンズネットでは「バックアップの状況に関する調査」(実施期間:2024年10月7日〜18日、有効回答件数:173件)を実施した。前編となる本稿では企業におけるバックアップソフト(サービス)の導入状況を紹介しよう。

バックアップソフトが不要と答えた企業の言い分

 バックアップソフト(サービス)の導入状況を調査したところ、約4分の1が「必要性を感じていないため導入予定はない」と回答した。なぜだろうか。

 バックアップソフト(サービス)の導入状況は、「既に導入済みである(追加リプレースなし)」が53.2%だった。「既に導入済みである(追加リプレースあり)」(8.7%)を合わせても61.9%にとどまり、導入予定は「追加リプレースあり」(8.7%)と「新規で導入を検討している」(3.5%)、「導入予定だが時期は未定」(11.0%)の合計23.2%だった。

 従業員規模別では100人以下の中小企業で導入率が半数を下回っており、比較的規模の大きい企業群で導入が進んでいる様子だ(図1)。また5001人を超える大企業では追加リプレースの需要が高い傾向が見られた。


データバックアップソフト(サービス)の導入状況

 次に、バックアップソフト(サービス)の導入企業に対し、導入目的を聞いたところ「サイバー攻撃以外の事業継続計画(BCP)」(66.4%)、「人為的ミスによるデータ対策への備え」(59.8%)、「サイバー攻撃への備え」(55.1%)が上位を占め、自然災害や人為的ミスといった、外部からの攻撃以外でも生じうるデータ消失リスクへの備えとしている企業が多かった。その他、「大規模クラウド障害対応」や「システム障害によるデータ消失対策」といった理由が寄せられた。

 その視点で振り返ると、バックアップソフトの導入率が回答の6割にとどまっている現状には危機感を持たざるを得ない。有事の際の迅速な企業活動再開のためには、バックアップが必要不可欠だからだ。専用ツールを使わなくてもバックアップは可能だが、復旧に時間がかかり過ぎて業務の再開が遅れて収益に影響が生じたり、必要なデータのバックアップが欠けていたことが後から判明してどうしようもなくなったりしてしまう可能性が高くなる。導入しない企業の理由については後述する。

導入企業の9割が「満足」と回答 不満はどこに

 次に導入済みのバックアップソフト(サービス)に対する満足度を聞いたところ「とても満足」(14.0%)と「やや満足」(76.6%)を合わせ、90.6%と非常に高い結果となった(図2)。これは他のソフトやサービスに対する調査と比べても高い値だ。


導入済みのデータバックアップソフト(サービス)の満足度

 「満足」とした回答者に理由を聞くと、「問題なくクラウドバックアップが取れており障害はない」や「現状、大きなインシデントが発生していないため」「特に突出したことはなく、普通にバックアップできる」など「運用上困っていない」ことを評価する声が多い。

 反対に「不満」とした回答からは「画面の使い勝手が悪い」や「きちんとバックアップできているが、時間がかかる」「データ転送が遅い」といったUIやデータ転送速度の面を挙げる声が大半だった。

 中には「想定通りに機能している。災害時の被災想定対策ができていない点が懸念点」のように、導入ソフト(サービス)自体に不満はないが、今以上に幅広いリスクを想定したバックアップ環境の構築を検討しなければならないと問題提起する回答もあった。

バックアップのクラウド対応を求める声が強い

 調査からはクラウドバックアップに対する強い要望がうかがえた。

 実際、全体の23.2%を占めた導入予定者に対して検討しているバックアップソフト(サービス)を聞いたところ「Microsoft Azure」(20.2%)や「Amazon Web Services」(14.5%)など、クラウドバックアップに強みを持つサービス群が上位に挙がった。ITのクラウドシフトが進む中、バックアップも例外でないことが分かる。

 また、導入予定者がサービスに最も必要な機能として挙げた項目でも「クラウド環境のバックアップ機能」(52.0%)が過半数となり、今後はクラウド環境も交えた複合環境においていかにバックアップとリストアをスムーズに実行できるかがサービス選定の肝となりそうだ。

 なお、不満を訴えた回答からは「クラウドバックアップに時間がかかりすぎる。システムバックアップができない」といったクラウド環境へのバックアップ課題も聞かれた。

「導入しない理由」から考察する、求められるバックアップの役割

 最後に、23.7%を占めた「(バックアップツールの)必要性を感じていないため導入予定はない」とした回答に対し、その理由を聞いたところ、トップが「バックアップツールのメリットが明確でない」(31.7%)で、「OSの標準機能で十分」(26.8%)、「リスク対策に予算を取れない」(17.1%)が続いた(図3)。


データバックアップソフト(サービス)を「導入しない」「導入の必要性を感じない」理由

 実際にバックアップソフト(サービス)導入企業のバックアップ形式を質問したところ「フルバックアップと差分バックアップの組み合わせ」(32.7%)が最も多かったものの、「フルバックアップ」(19.6%)が2位を占めた(図4)だった。フルバックアップだけを考えているなら、確かにバックアップツールでなくても実行は可能だ。


導入済みのデータバックアップソフト(サービス)でのバックアップ形式

 バックアップ専門ツールを導入しない理由としてよく聞かれるのは「OSに内蔵された標準バックアップ機能や無料ソフトで十分代用できる」といった意見だ。実際、「Windows 10」や「Windows 11」に標準搭載されている複数のバックアップ機能を活用すれば、HDDやSSDに保存されているデータを定期的に自動バックアップすることができる。

 だが、バックアップ対象や保存期間、頻度が制限されるなど実運用に合わせづらいことがある。データの暗号化やオフラインバックアップによる物理的隔離といった、企業が求める強固なセキュリティ要件を満たしづらいケースもあるだろう。さらに、対象機器が多くなるほどバックアップ作業が煩雑になるため、高度なカスタマイズやベンダーによる専門サポートも必要になるケースもあるだろう。

 昨今では、ビジネス環境の激化により、DX化やデータドリブン経営など、社内外で収集したデータをビッグデータやAI、機械学習に活用していく潮流もあり、企業規模を問わず企業におけるバックアップの重要性は増している。加えて、今後もデータの種類や容量は爆発的に拡大することが見込まれる中で、いかに安全かつ確実にデータを守っていくのかが課題だ。

 バックアップの目的をリスク対策のみと捉えるのではなくデータマネジメントの観点から捉え直したとき、拡張性や運用面と天秤にかけつつ、自社がどのようなバックアップ戦略を取るべきなのか。今まさに企業は再考慮するべき岐路に立たされているのかもしれない。

 以上、前編では企業におけるバックアップソフト(サービス)の導入実態を紹介した。後編では、現状運用されているバックアップやリストア方法の詳細まで踏み込むことで、企業が運用しているバックアップとセキュリティの実際を見ていきたい。

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