Googleは、クラウド企業の大手であるMicrosoftやAWS(Amazon Web Services)と顧客サービス技術の選択肢で肩を並べるために、フル機能を実装したcontact center as a service(CCaaS)と多数のAIツールをリリースした。一方、顧客の会話を処理するために生成AIを使用するというアイデア自体が非難を浴びている。
Googleの新しいコンタクトセンター技術の概要とその法的リスクを解説する。
Googleの新しいコンタクトセンター技術
一方、AIを活用したコンタクトセンター技術を提供するGoogleのようなベンダーは、カリフォルニア州の規制当局や訴訟当事者の注目を集めている。これにより、カスタマーサービスに関する法的文書の文言が変更されたり、コンタクトセンターの被告に対する判決が下されたり、botを訓練する新しい方法が開発されたりする可能性がある。
従来の「Google Contact Center AI(CCAI)」という名称から改名された「Customer Engagement Suite」は、より高速で省エネルギー性能が高いとされる軽量の大規模言語モデルである「Gemini Flash 1.5」のサポートを追加した。これにより、ユーザーは顧客との長く複雑な会話を迅速に要約し、マネジャーによる管理や顧客情報の記録に活用できるようになる。
また、「Customer Engagement Suite」には、通話記録や企業の文書から学習して回答を提案するエージェント支援ツールである「Smart Reply」、100以上の言語間で行う双方向のリアルタイム翻訳、会話中に問い合わせを提案する生成AIナレッジ支援ツールも追加されている。
Google Cloudのトーマス・クリアン氏(CEO)は、2024年9月23日の週にあった製品発表のイベントで次のように述べた。
「私たちは、カスタマーエージェントの3つの能力が最も大きな影響を与えると考えている。それは、あらゆる形式の情報を統合して正しい答えを導き出す能力、スピーチや音声を含む自然なコミュニケーションやエンゲージメントの能力、実世界の情報を使って迅速に推論する能力である」
コンタクトセンター・エージェントデスクトップ
Googleのカスタマーサービスバンドルにおける最も大きな追加機能は、コンタクトセンター向けの独立したエージェントデスクトップのフロントエンドインタフェースだろう。これまでCCAIにはこの機能がなく、顧客はUjetのようなGoogleのパートナー企業の中から選ばなければならなかった。Ujetは、CCAIと密接に統合されているスタートアップ企業である。
「Google Customer Engagement Suite」のリリースと同時に、UjetはシリーズDの資金調達ラウンドで7600万ドルを確保した。その他のプロバイダーとして、SalesforceやZendesk、FreshworksもGoogleのコンタクトセンタースタックと統合し、エージェント向けのフロントエンドを提供している。
調査企業であるConstellation Researchのリズ・ミラー氏(アナリスト)は「結果として、Googleは、4年間続いてきたUjetとの強力なパートナーシップに抵触する選択をしたのかもしれないが、潜在的なメリットも存在する」と述べた。
「これはゴリアテがダビデを打ち砕くという話ではない。GoogleとUjetは競争相手ではなく、より良いパートナーになるだろう」(ミラー氏)
ミラー氏は、コンタクトセンター分野で実績のあるツールを提供するUjetのような企業にはチャンスがあると考えている。
「特に現代的なエンゲージメント戦略を実現しようとしている中規模市場の企業にとって、Ujetは多くの魅力を備えている。Ujetはセキュリティと認証を重視しており、デバイスレベルの確認機能やモバイル対応した確認機能を活用し、顧客体験に役立つ賢いエンゲージメント機能を提供している」
立ちはだかる法的問題
一方、顧客の会話を処理するために生成AIを使用するというアイデア自体が非難を浴びている。2024年9月にカリフォルニア州で提起された集団訴訟では、Googleの顧客であるHome Depotが、顧客の録音許可を得なかったことで、州のプライバシー侵害法(CIPA)に違反したとされている。
このような訴訟の対象は、GoogleとHome Depotだけではない。アウトドアブランドのPatagoniaや、法的サービスを提供するLegalShield、コンタクトセンターソフトウェアプロバイダーであるTalkdeskも、2023年の夏に別々の訴訟を起こされている。調査企業であるOpus Researchのダン・ミラー氏(創設者)は「こうした争いは多くのCCaaSベンダーやコンタクトセンターに今後も影響を及ぼし続けるだろう。少なくともサービスとやりとりする前に消費者がbotのトレーニングを拒否する機会を提供する法的文書が整備されるまで続くはずだ」と指摘した。
「訴訟が次々に提起されるはずだ。成功報酬型の法律事務所にとってCIPAは神からの贈り物だ」(ミラー氏)
botのトレーニングのためにカスタマーサービスの中で交わされた会話を使うことの法的な意味合いは、裁判が進むにつれて明らかになっていくだろう。例えば、GoogleがVerizonのカスタマーサービスとの通話中にカリフォルニア州の盗聴法に違反したとする訴訟は、2023年の夏に棄却された。
責任はカリフォルニア州だけにとどまらない。同じくカリフォルニア州で提起されたTwilioに対する訴訟では、連邦電子通信プライバシー法、カリフォルニア州盗聴法、カリフォルニア州包括的コンピュータデータアクセスおよび詐欺防止法を含む州法および連邦法が適用された。
コンタクトセンターが注視すべきもう1つの問題として、提案されているカリフォルニア州のAI法案がさらに規制を追加し、カスタマーサービスの自動化における倫理的な技術開発を義務付ける可能性がある。
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