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ファイルの迷宮化、クラウドの設定が謎すぎる……脱ファイルサーバで経験した怖い話クラウドストレージの利用状況(2024年)/前編

本稿では調査結果を基に、企業におけるファイル管理の現状を取り上げるとともに、クラウドストレージ導入時の課題を紹介する。

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 取り扱われるデータ量の急増や、バックアップニーズの高まりなどを受け、クラウドストレージ市場の成長が著しい。企業においても、テレワーク環境の整備や多様な働き方の実現のために、場所を問わずファイルを共有でき、豊富な共同作業機能を備えるクラウドストレージを選択する企業が増えている。

 一方で、ファイルサーバからの移行や新規導入時にはさまざまな課題があるようだ。キーマンズネットでは「クラウドストレージの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2024年11月25日〜12月13日、回答件数:308件)を実施した。本稿では調査結果を基に、企業におけるファイル管理の現状と、クラウドストレージ導入時の課題を紹介する。

脱ファイルサーバの壁 クラウド移行時の4つの落とし穴

 はじめにファイルサーバとクラウドストレージの利用状況を調査したところ、「ファイルサーバを利用」(28.9%)と「ファイルサーバとクラウドストレージを併用している」(55.8%)を合わせ84.7%だった(図1)。

 一方、クラウドストレージの利用率は「併用している」(55.8%)と「クラウドストレージのみ利用」(10.0%)を合わせると65.8%となり、全体ではファイルサーバの利用率が上回った。この結果を従業員規模別で見ると、101人以上の企業帯から併用率が増加し、従業員が100人を超えるとクラウドの利用率がファイルサーバを上回った。

 2021年1月の調査と比較すると、「ファイルサーバのみ」の利用率は24.1ポイント減とおよそ半減し、代わり「クラウドストレージと併用している」の回答が15.7ポイント増、「クラウドストレージのみ利用」が7.1ポイント増と、クラウドストレージの利用割合の伸びが顕著だ。テレワーク環境の整備や多様な働き方の実現のために、場所を問わずファイルを共有でき、豊富な共同作業機能を備えるクラウドストレージを選択する企業が増えている。


図1 ファイルサーバとクラウドストレージの利用状況(2024年12月)

 一方で、ファイルサーバが廃れたわけではない。「ファイルサーバのみ利用」との回答者に対して「今後クラウドストレージを利用する予定はあるか」を聞いたところ「予定はない」(60.9%)が過半数を占めた(図2)。

 2022年1月調査時に54.0%、2023年2月調査時に57.7%と増加傾向にあることから、現在ファイルサーバのみを利用している企業にとっては、クラウドサービスを選択しない理由があると考えられる。

 ちなみに、今後クラウドストレージの利用予定が「ある」や「検討中」とした企業に今後の運用方針を聞いたところ、大多数が「ファイルサーバとクラウドストレージを併用する予定」(86.2%)と回答し、「ファイルサーバを廃止予定」(10.3%)は約1割にとどまった。(図4)。

 ファイルサーバからクラウドストレージに完全に置き換えるというケースは多くなく、自社のポリシーに合わせ使い分けることで最適化を図るのがスタンダードのようだ。フリーコメントでは「当初はクラウドへの全面移行を考えていたが、これまで整理整頓をしてこなかったことでファイルサーバの階層も深く、ファイル数が多いため併用に方針転換した」や「クラウドへのデータ保存において、データが多くクラウド容量がすぐにいっぱいになるので社内にデータを置くようにした」といった「併用」を決断した生々しい理由も寄せられていた。


図2 現在ファイルサーバのみ利用者に聞いた「今後のクラウドストレージ利用予定」

図3 クラウドストレージの利用予定者に聞いた「ファイルサーバの今後の運用」

 とはいえ、現在のトレンドを見ると今後はクラウドストレージの利用率が高まることは想像に難くない。

 今後、クラウドストレージを利用したい企業は、導入時にはどのような点に注意すべきか。

 「ファイルサーバとクラウドストレージを併用している」「クラウドストレージのみ利用している」との回答者に対し、クラウドストレージの導入プロセスの評価を聞いたところ、「一部課題があった」(33.8%)と「全体的に課題があった」(10.6%)を合わせると44.4%が、何らかの問題があったとした(図4)。これは「スムーズに進んだ」(48.5%)とほぼ同数だ。

 クラウドストレージの導入時にどのような課題が生じやすいのか。フリーコメントを4つの項目で整理した。

 1つ目はファイルサーバからのデータ移行に時間がかかることだ。「ファイルサーバのデータ量が多く移行が困難で現在も実現できていない」や「データ総容量と1ファイルのサイズが大きくツールが限定された」のように、対象ファイル数やデータ量によっては移行ツールが制限されたり、膨大な時間を要したりするケースがあるので注意が必要だ。

 また「データの整理ができておらず、クラウドストレージにアップロード後に整理することになった」と、データ整理に課題を抱く声もあった。

 2つ目は、クラウド環境での動作確認や設定変更に苦労するとの意見だ。「オンプレのWindowsファイルサーバとアクセス権付与の仕様が異なるので、移行後の環境に合った設定をするのが難しかった」や「『Microsoft Excel』などOffice系アプリのデータが多く、移行時の動作確認や修正などに手間取った」に見られるように、クラウド環境と今あるファイルの親和性を事前に確認しておく必要がありそうだ。

 3つ目は、セキュリティ要件を満たすための運用設計だ。「セキュリティの観点からクラウドに置くべきでないデータがあり、データ保存場所のすみ分けが必要になった」や「データ格納時のセキュリティポリシー適応作業が膨大だった」「社外秘などのセキュリティにより格納場所を変更する工数がかかった」や「アクセス権に複数の種類があり、どのアクセス権を設定すればよいかを決めるのに時間を要した」のように、クラウド環境で自社のセキュリティ要件を満たせるように設計し、随時設定を見直す作業に苦労したとの声が多く寄せられた。

 最後4つ目は、運用ルールの浸透に時間がかかるとの声だ。「ITリテラシーが低い部署で導入に使いこなせない人がいた」や「ITリテラシーの違いで、組織によって受け入れの速度に違いが出た」など、社内の普及度に差が出るというコメントもあった。特にクラウドストレージとファイルサーバを併用するケースにおいては「使い分けの混乱があった」や「移行せずにローカルのストレージを使い続ける従業員がいた」のように運用が煩雑になるケースもあり、オペレーション設計に一定の手間が発生することは間違いなさそうだ。

 以上、前編ではファイルサーバとクラウドストレージの利用状況と今後の展望を考察してきた。後編では、企業導入が増加傾向にある「クラウドストレージ」に注目し、製品シェアや満足度、トラブル事例などから製品選定で重要となるポイントを探る。


クラウドストレージ導入企業による「導入プロセス」の自己評価

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