業界キーパーソンが語る、生成AIが企業に与える影響と導入障壁
CallMinerのジェフ・ガリーノ氏は「今や全てのコンタクトセンターがCXのためのプラットフォームを導入している。そのため当社のような専門企業は、ユーザーによる導入を容易にしなければならない」と述べた。
Gartnerが2023年6月に実施した1800人の経営幹部を対象とした調査によると、企業の55%以上は、ビジネスニーズに対応しリスク評価をクリアする技術購入を指導するためのAI委員会を設けているという。しかし、そのうちの半分以上は、最高AI責任者が不在の状況だ。
会話知能に関するプラットフォームを提供するCallMinerのジェフ・ガリーノ氏(共同創業者兼CEO)は「最高AI責任者が不在の状況が現在のコンタクトセンターの状況だ」と述べた。同社は、2002年に顧客サービスの運営を改善するために電話分析サービスを提供する企業として設立された。近年では、クラウドサービスを拡張し、顧客サービスから得た洞察を販売やマーケティングなどの領域に適応させている。
ガリーノ氏は、生成AIを非常に大きな進歩だと考える一方で、導入障壁も感じている。既存の技術に上乗せするのは、決して容易ではない。同氏は「生成AIを最も使いやすくすることができたベンダーが競争を勝ち抜くだろう」と述べている。Gartnerの調査が証明するように、企業は生成AIの評価と実装を始めたばかりであり、支援を必要としている。以下のQ&Aでは、これらの内容についてガリーノ氏の考えを聞いた。
編集者注:以下の文章は、長さと分かりやすさのために編集したものである。
業界キーパーソンが語る、生成AIが企業に与える影響と導入障壁
――生成AIは会話知能やコンタクトセンター市場にどのような影響を与えているのだろうか
ガリーノ氏:現時点において、生成AIはトランスフォーマーそのものだ。この2年ほど、同じような状況が続いている。私たちの生成AIに対するアプローチは「これが製品だ。GPTに何かの機能を追加した」というものではない。
製品の中にはそのようなものもある。例えば、CallMiner GPTではインタフェースとして自社データを検索できる機能を備えている。しかし、私たちのAIブームに対する基本的な見解は、AIは自動化のための新しい便利なユーザーインタフェースツールの1つだというものだ。ここであえて「ブーム」という言葉を用いたのは、しばらくの間、人々が非合理的に行動していたためである。
私は「ユーザーインタフェース」という言葉を慎重に使っている。この技術が普及した理由の1つは、ある問題が解決されたからだと思う。それは「高度に訓練されたAIからどのように情報を引き出すか」という問題だ。AIに質問するための言語や方法を問わないという点は、人々にとって非常に大きな前進なのだ。特に、私たちの業界のように、使用すべきAPIやクエリ、クエリ言語を把握しており、スクリプト作成に慣れている人々にとってはなおさらである。
私たちには高度なクエリ言語があり、それを廃止する予定はない。なぜならば、顧客から「自分が欲しい答えを正確に得るためには、そうした指示型のアプローチが必要だ」という明確な要望があるためだ。しかし同時に、「他に何があるのか。自分が知らないことは何か」と尋ねる能力も求めている。そこで、私たちは「セマンティック検索」と呼ばれる機能を導入した。
セマンティック検索とは
ガリーノ氏: 私たちはこれを「意味を探す検索」と呼んでいる。この機能はCRMやデータレイクなどの他のシステムと連携する。これには「ジャーニービュー(特定の顧客が企業とどのようにやりとりしたかを示す地図)」があり、CRMシステムでデータを取り出して表示する必要がなく、CallMiner内で要約を確認するだけで済む。また、CRMとの連携機能を追加し、主要なCRM向けに自動化された更新機能を実装した。これらは要約機能の一部として標準で提供されている
さらに、要約に関連する全てのAPIを公開した。そのため、既に幾つかの顧客がこの機能を活用している。それらの顧客は、APIを通じて要約データを直接取得し、ユーザーインタフェースを介さずに利用している。これは、データレイクのような別の場所でデータを操作しているためだろう。
――多くの大企業や中小企業が「CXプラットフォーム」と名乗るような変化の激しい市場において、CallMinerはどの企業を競合相手と見ているのでしょうか。
ガリーノ氏: 競合として挙げるのは、ハイパースケーラーであり、特にGoogleだ。私たちが競合する企業はそれほど多くなく、取引の20件中1件程度だろう。そこでGoogleやMicrosoftと対峙することがある。これまでAmazonやGoogle、Microsoftとの直接対決で負けたことはない。ただし、それらの企業がすでにハイパースケーラーと話を進めている案件は数多くあり、私たちが関与できないものも多いだろう。Microsoftとは非常に良好な関係を築いており、Amazonとは大口の共有顧客を巡って関係構築の最中だ。それ以外では、信じられないかもしれないが、コンタクトセンター向けソリューションを提供するGenesysが大きな悩みの種となっている。また、CXソリューションを提供するNiceは相変わらず厄介な存在で、時折競争に負けることがある。
――誰もがあらゆる会話を分析している。データは十分にあり、飽和状態に達していると考えているか。それとも、データはまだ足りておらず、多い方が良いと考えているだろうか
ガリーノ氏:良い質問だ。この業界の初期段階において、私は全てのデータを収集することを提唱していた。当時、それがCallMinerにおける主な差別化の要因だったためだ。
――しかし、今ではそれが実現しているようだ
ガリーノ氏: 今ではそれが実現している。そして、人々が手を挙げて「もっとデータが欲しい」と言う様子を目にしている。飽和状態に達したと感じている顧客はほとんどいない。コンプライアンスのユースケースでは、100%のデータ収集について話すことが容易になった。
しかし、AIのコスト構造によって、コンプライアンスだけでなく、データサンプリングの方法そのものを見直す必要が出てくるだろう。具体的には、よりユースケースに基づいた方法へと変わるということだ。現実的な話をすると、多くのCX企業がデータサンプリングツールを販売しているのは、AIを大規模に拡張するのが難しいからではなく、そのコストが原因だ。顧客は「これにどれくらい費用がかかるのか?」と尋ね、企業側は「無料ではありません」と答えるしかない。生成AIが一般化する中で、コストは下がるどころかむしろ増える。これは、差別化を図るための機能に組み込まれることで、結果的に高額化するためだ。価格は常に拡大と収縮を繰り返すものであり、今回もその例外ではない。この状況を踏まえると、カスタマーサービスやヘルプデスクのような分野は、既に飽和状態に近づいていると考えられる。
――CallMinerがカスタマージャーニーマッピングに参入したことを想像したことはあるか?
ガリーノ氏: 当社はカスタマージャーニーマッピングを行っているが、ジャーニーオーケストレーションはしていない。この違いは重要だ。買収を通じてジャーニーオーケストレーションの分野に一歩踏み込んだが、最終的には撤退した。具体的には、Pointillist(後にGenesysが買収)やKitewheel(CSGに買収された)を検討した。これらの企業と深く関わった結果、彼らがデジタルプラットフォーム全体での使用状況を追跡することに全てのリソースを投じていることが分かった。
例えば、「このボタンがこの時間に押された」といった情報を正確に把握し、それをジャーニーの中で整理する能力は非常に優れている。彼らは「『コールミー』ボタンをクリックしたのか?」という情報も提供してくれるが、当社としては「それなら既に知っている」となる。
当社が大きく違うのは、全てのコンタクトを完全に処理している点だ。どのコンタクトも無視せず、必ず処理する。「完全に処理する」とは、コンタクトを分類し、カテゴリー化し、スコアリング(顧客満足度評価)を行い、それをコンタクトセンター全体で集計することを指す。これにより、個々のコンタクトの詳細を把握できるだけでなく、グループ全体や階層全体の満足度も明確に分かる。
例えば、「エージェント、この顧客とはすでに4回話していることを知っているか?」や、「この顧客とは過去にこういったやりとりがあり、それぞれのスコアはこうだった」といった情報を提供できる。
また、チャットでのやりとりで顧客が知識面で低評価を付けた後、フラストレーションを感じて電話をかけてきたことが分かるケースもある。こういった背景を最初から正確に把握することが重要だ。このデータは、労務管理システムに送信してスケジュール調整に活用するだけでなく、特にコールの適切なルーティングに役立てている。過去のコンタクト履歴を確認することで、エスカレーションが必要な顧客を正確にルーティングできるのだ。
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