Sansanの大規模プロジェクトの情報共有にNotionを選んだ理由
急成長を続けるSansanが、1700人超の組織のコミュニケーション基盤として「Notion」および「Notion AI」を選択。「局所最適」から「全体最適」へと転換を図る同社の組織改革の舞台裏と、その成果を探る。
Sansanは、名刺管理サービスだけでなく複数のビジネスプロダクトを展開する企業へと進化を遂げた。一方でその過程では、急激な組織の拡大やプロジェクトの大規模化に伴い、情報共有やコミュニケーションの課題に悩まされたという。
この状況を打破し、大規模な開発プロジェクトを支える基盤として採用したのが、「Notion」と「Notion AI」だ。
社内のコミュニケーションツールをNotionに統一したことで、部署間の情報共有が進み、プロジェクトの進捗(しんちょく)状況や課題をリアルタイムで把握できるようになった。さらに、Notion AIを使って課題を抽出し、意思決定のスピードを向上させ、全社的な成長戦略のための施策を推し進めている。Sansanの西場正浩氏(執行役員/VPoP/CPO室 室長)が、大規模プロジェクトのコミュニケーションを支えるNotionとNotion AIの導入経緯について語った。
急激な事業と組織の拡大による“成長痛”を経験
Sansanは事業拡大を続け、従業員数は3年前と比べて1.5倍以上に増加し、現在では1700人を超える。組織はプロダクトの増加に応じて、Sansan事業部、Eight事業部、Bill One事業部、Contract One Unitなど、マルチプロダクト体制で運営されている。
組織が成長する中でプロジェクトの規模が大きくなり、困難が発生していると西場氏は語る。情報共有が難しくなり、プロダクトの影響範囲が広がることで、適切に対処しなければリリースに支障をきたし、顧客にも影響を与える状況に陥るという。
プロダクトの影響範囲が拡大するにつれ、情報共有の課題が顕在化した。特にリリース時のトラブルリスクが高まったことで、従来の情報共有体制の見直しが急務となった。設立から5年前までは、創業メンバーを中心とした少人数での非公式なコミュニケーションによるプロジェクトマネジメントが十分に機能していた。しかし、組織の拡大に伴い、その限界が明らかになったのだ。
具体例として、あるプロジェクトの変更が他のプロジェクトに影響を及ぼすケースが頻発している。創業期には、キーパーソン同士の密接なコミュニケーションを通じて、こうした影響を事前に察知し、迅速に対応することが可能だった。これは、社内の人的ネットワークが緊密であり、過去の経験や知見が自然と共有されていたからこそ成り立っていた体制である。また、各プロジェクトチームがそれぞれ独自に最適化を図る「局所最適」な運営でも、組織が小規模であった当時は十分に機能していた。
しかし、組織が拡大し、複数の事業を展開するようになると、これまでのような非公式な手法では対応しきれなくなった。
プロジェクト単位では、以前は複数部門の担当者が集まり、定例会議を通じて一気通貫の開発を進めていた。しかし、組織の成長に伴い関係者の数が増え、全体会議を開催すること自体が難しくなった。そこで、専門領域ごとにサブプロジェクトを立ち上げ、代表者だけが情報を共有する形式に移行した。しかし、この形式では以前に比べて情報共有がスムーズにできず、リリース直前での問題発生につながるケースが増加した。
これに対応するため、プロジェクトやプロダクト、事業組織における「局所最適」から「全体最適」への転換が求められるようになった。そこで同社は、全社共通のプロジェクト管理ツールの導入を検討した。それまで各部署がスプレッドシートや「Jira」など、異なるツールを利用していた状況を見直し、情報を一元化するとともに、透明性の向上を目指した。
検討の結果、同社が選んだのはNotionだった。部署ごとに分散していた情報管理ツールをNotionに統一することで、組織横断的な情報共有が可能となり、真の意味での「全体最適」へと近づきつつある。この移行により、プロジェクト間の連携が強化されただけでなく、意思決定の迅速化にもつながった。
Notionがもたらした部門間の“温度差”解消と意思決定の迅速化
NotionとNotion AIを全社的に導入した結果、プロジェクトの透明性と情報共有が劇的に改善された。特に、事業部門とエンジニアリング部門間の認識ギャップが大幅に縮小し、リスクの早期発見や迅速な問題解決が可能となっている。
「プロダクト開発において、全社的に温度感を共有することがどれだけできているかは非常に重要なポイントです。クライアント企業に最も近い営業とエンジニアの間には、どうしても温度差が生じます。営業が顧客の要望を持ち帰っても、エンジニアは『そこまでやるの?』と反発を感じることが多い。このギャップをどう埋めるかが、開発成功の鍵を握ると考えています」(西場氏)。
この課題に対しては、Notion AIがヒントになる。過去の議事録や予算データ、利用履歴などを横断的に分析することで、クライアント企業の具体的なニーズや背景を明確に示してくれるためだ。これにより、エンジニアは顧客の事業規模や要望の重要性を具体的に把握できるようになり、営業との温度差を埋める効果を発揮している。
さらに、プロジェクトの経緯や意思決定の履歴が自動的に整理され、チーム全体で共有される仕組みが確立された。この透明性の向上により、部門間のコミュニケーションが活性化し、プロジェクトの進行速度が大幅に向上している。
「現場での改善活動が自然とプロセスに組み込まれ、組織的な知見として蓄積されていくのを感じます。情報管理の設計と継続的なPDCAサイクルを通じて、確実にベストプラクティスに近づいていると実感しています」と西場氏は手応えを語る。
導入当初、NotionとNotion AIの操作スキルを習得するため、全社的な研修が必要だった。しかし、情報の分断や認識のズレによる問題を経験してきた従業員は、新しいツールの効果を早期に実感し、現在では日常的に活用している。西場氏は「投資対効果は期待以上」と高く評価している。
Notion AIによるコミュニケーション基盤の確立とグローバル展開への布石
「情報の共有がうまくいかないからデータを一元化しよう、という話はよく聞きます。ただ、言うのは簡単でも、実際にやるのは非常に困難です。システム部門が旗を振っても、現場が従わないケースはよくあります。私自身も過去にそうした状況を経験しました。しかし、ミクロ的な観点とマクロ的な観点の両方を両立させることで、当社はこの問題を克服できたと感じています。Notion AIの導入によって、個人にとっても便利であり、組織全体にとっても便利な仕組みを作ることができました。この両輪がうまくかみ合った結果、導入が成功したのだと思います」(西場氏)
Sansanはグローバルテックカンパニーを目指している。その成長を支えるためにも事業企画部門とエンジニアリング部門の円滑な協働は不可欠だ。システムの技術的な詳細を理解することが難しい事業企画担当者でも、Notionに集約された仕様書や関連ドキュメントを通じて、システムの可能性と制約を把握できるようになった。
Notion AIの活用により、各部門が持つ知見や課題が自然と可視化されている。事業企画担当者は、既存システムの機能や新規開発の可能性について、AIを通じて必要な情報を迅速に取得できる。この仕組みにより、部門間の相互理解が深まり、プロジェクトの計画精度が大幅に向上している。
「異なる専門性を持つ部門間でも、共通の基盤があることで相互理解が進み、プロジェクトのリスクを早期に把握できるようになりました」と西場氏は語る。
グローバル展開を視野に入れる際、組織の透明性を確保し、コミュニケーションを効率化することは欠かせない要件だ。特に、コミュニケーションコストの高さは開発速度を直接的に低下させる要因となる。この課題に対する具体的な解決策として、NotionとNotion AIの導入が機能している。情報を一元管理することで意思決定の迅速化が可能となり、Sansanのグローバル展開を支える重要な基盤として大きな役割を果たしている。
※本記事は、Notion Labs Inc.が2024年11月7日に開催した「Make with Notion Showcase Tokyo」の内容を編集部で再構成したものです。
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