博報堂のデジタル新会社で3000人の従業員がNotionを利用したら起きたこと
博報堂DYグループのデジタルコア新会社として発足したHakuhodo DY ONEは、「Notion」と「Notion AI」を導入し、情報資産の活用に取り組んでいる。グループ内の膨大なデジタルマーケティングのナレッジやリソースをどのように集約しているのか。
Hakuhodo DY ONEは、博報堂グループのデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムとアイレップの2社に加え、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズなど、博報堂DYグループが持つデジタルマーケティングのナレッジや人材を集約し、2024年4月に誕生した新会社だ。
Hakuhodo DY ONEは、従来の「ファイル保存」から「データベース形式での保存」への移行を進め、AI活用を前提とした情報資産の蓄積を「Notion」で実現している。4社から集まった3000人を超える従業員の共通ツールとして採用されたのがNotionおよび「Notion AI」だ。同社の柴山 大氏(上席執行役員)が、AI時代における情報資産の重要性とその蓄積方法について語った。
3000人規模の会社でNotionを浸透させたら起きたこと
「知的労働ビジネスにおいて、情報資産の蓄積と活用は極めて重要です。しかし、情報を蓄積するにも探すにも多くの時間がかかります。ある調査では、ビジネスパーソンが1日に1時間以上を情報収集に費やしていることが示されています。この時間をより創造的な活動に使えるようにするためには、情報の蓄積と取り出しのしやすさが重要だと考えています」(柴山氏)
情報資産の蓄積において、同社ではファイル形式、データ形式、データベース形式の3つの方法を採用している。これらの情報はさまざまな形で保存され、特にデータベース化することで二次利用が容易になり、情報資産としての価値が大幅に向上する。しかし、データベースという概念は一般従業員には理解しづらい。AIやシステムが利用しやすいデータベースをどのように構築するかが、大きな課題となっていた。
2023年11月に「ChatGPT」が登場したことで、生成AIのLLM(大規模言語モデル)が広く認知されるようになり、文書の検索方法も大きく変わった。従来の全文検索ではなく、LLMが文脈を理解しながら検索する手法が主流となりつつある。この変化に対応するため、同社では情報資産の保存方法を見直し、AIが容易に検索、要約できるよう、文脈を重視したデータベース形式への移行を進めている。
Hakuhodo DY ONEでは、情報資産の保存方法において「しっかりと文脈を残して書く」ことの重要性を強調している。文脈を考慮した保存方法は、同社が過去に部署単位で活用していたWiki形式のツールから着想を得ている。これをさらに発展させ、データベース形式へと昇華させる取り組みとして捉えているのだ。
データベースの概念は一般従業員にとって理解が難しい場合もあるが、Notionにおいては、テキストや画像、ファイル、リンク、チェックボックスなど、多様なデータ形式を保存でき、これらをさまざまなビュー形式で表示できる。Notionを活用することで、専門的な知識を意識することなくデータベースを利用できる。
Notion導入後は、従業員が直感的なユーザーインタフェースを通じてデータベース情報にアクセスし、必要な情報を簡単に探して活用できる環境が整った。ITリテラシーを問わない使いやすさが、同社がNotionおよびNotion AIを選択した最大の理由だと柴山氏は語る。
広告メディアの情報や社内の情報をNotionで効率的に蓄積
Hakuhodo DY ONEが扱うデジタルメディアの情報は膨大だ。Googleや「Yahoo!」「Instagram」「Facebook」「X」「TikTok」「スマートニュース」「グノシー」など、同社が業務で取り扱う広告プラットフォームは日々増え続けている。これらのデジタルメディアを効果的に活用するためには、膨大な情報をいかに効率的に探せるかが課題となる。
同社では、広告の仕様などの情報をNotionにまとめ、構造化して整理することで多岐にわたるプラットフォームから得られるデータを一元管理している。これによりNotion AIは、「Yahoo!とGoogleのレスポンシブ広告ではどう違うか」といった質問に迅速かつ的確に答えが得られるようになった。
このように文脈や内容をしっかりとテストで残し、それをデータベース化することで、情報資産の引き出しが非常に楽になる。提示される情報にはハルシネーションの可能性もあるためファクトチェックをしている。かつてはこのチェック作業にも手間がかかったが、情報の蓄積とともにNotion AIからの情報の精度が上がり、生産性が大幅に向上したという。
社内の情報管理においてもNotionを使っている。例えばヘルプデスク業務では、プロフィール設定ルールやチームスペースのゲスト招待方法などの詳細な説明文書を作成し、情報を全てデータベース化している。Notion AIは、「チームスペースのルールは?」という質問に対してしっかりと回答する。これにより、従業員からの問い合わせ対応が効率化され、情報の取得が容易になった。
また、会議時はNotionへの情報の入力を徹底することで、会議の進行や議論を効率化している。社内情報をデータベース化することで、情報の一貫性が保たれ、必要な情報を迅速に共有、活用できる環境が整った。この結果、全社の業務効率が向上し、組織全体の生産性にも寄与している。
見落とされがちなコーポレート部門からのタスクもしっかりマネジメント
「当社では、Notion導入による効果が顕著に出ています。Notionのページビューは、月間100万を超えています。NotionとNotion AIが従業員に浸透し、情報資産を蓄積する武器として定着していると実感しています」(柴山氏)
Hakuhodo DY ONEでは、Notionを活用して情報資産をデータベース形式で保存することに加えて、もう一つ重視していることがある。それはタスクマネジメントだ。同社は看板形式でチームのタスクを管理しており、コーポレート部門からの多様な依頼もNotionで一元管理することを目指している。
コーポレート部門からのタスクは見落とされがちだ。最近では、年末調整の手続きやインフルエンザ予防接種の予約、健康診断の実施、情報セキュリティ研修の受講などのタスクが挙げられる。また、経理部門からは、請求書の締め日を守るといった依頼も頻繁に発生する。こうしたタスクは、各チームの本来の業務以外にも多く発生し、最終的には個人で管理しなければならないことが多い。
Notionにはホーム画面があり、各タスクをデータベース化して一元管理することが可能だ。これにより、年末調整や健康診断といったコーポレート部門からの依頼も効率的に整理、追跡できる。しかし、全員にメンションを送る作業は非常に手間がかかる。この課題を解決するため、同社はNotion Labsに対してオーダーメイドの機能開発をリクエストし、さらなる効率化を目指している。
Notion Labsは、このニーズに対して全従業員のメールアドレスのリストが登録された「Microsoft Excel」ファイルをインポートすることで一斉にメンション化し、タスクを割り当てられるツールを開発した。Hakuhodo DY ONEはこれを使って全社的なタスク管理を実現している。Notion Labsがフットワーク軽くユーザーの声を反映して機能改善や新機能の追加に対応してくれることで、柔軟かつ迅速にDX(デジタルトランスフォーメーション)を進められると柴山氏は語った。
「DXを進めるためには、経営陣による明確なビジョンの提示と、適切なツール選定への強いコミットメントが圧倒的に重要です。当社がNotionとNotion AIを導入したときは、人任せにせず自分でツールの目利きをして、自分で設計して説明資料を起こし、全従業員にライブで説明して、トップのビジョンとコミットメントを示しました。熱をもって全社的な協力体制を築いたことで、NotionとNotion AIを活用した情報管理とDX推進が成功につながっていると自負しています」(柴山氏)
※本記事は、Notion Labs Inc.が2024年11月7日に開催した「Make with Notion Showcase Tokyo」の内容を編集部で再構成したものです。
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